捻れた世界を知っていけ


散り散りになってしまったグリムたちを探して、鏡舎にでも行こうとしたらメインストリートで早めに合流。運が良かった。この学園広すぎるので連絡手段を持っていないから、探し彷徨う可能性があった。

「ユウ、無事だったかい!何もされなかった!?少し調べさせてもらうよ!………追尾魔法も錯乱もしてないね……よかった、無事だね」
「ぶ、無事です」
「フロイドにも捕まらなかったみたいだね」
「入れ違いでかわせたようです」

(追尾魔法とか錯乱とか何事!?)

リドル先輩の第一声がそれだった。自分の姿を見た途端に、駆け寄り焦った動きでパッパと確認される。切羽詰まったその様子に、ギョッとして大人しくする。ホッとしたように笑う様子に、完全にカミングアウトを逃したと思った。このタイミングで以前から知り合いなんです〜て言うと、捜査対象が急遽変えられそう。洗いざらい吐かせられる。どこまでリドル先輩とジェイド先輩の関係が良好なのか判断しかねるが、少なからずリーチ兄弟とはとても因縁が深そうだ。心配する内容の中に気になる単語も聞こえたが、気持ちをありがたく受け取っておく。熱りが冷めたころに、探りつつ言いだす機会を伺おう。まさか、こんな事になるなんて最初から話しておけばよかったかな。ナイカレ生どいつもこいつも癖が強すぎる。関わるごとに穏便に済ませたことあったけ?

「リドル先輩、大袈裟じゃね!?オレらの方が命の危険感じたんっスけど!?」
「身体能力が凄かった、大男に追いかけられるのはなかなか恐ろしいものでした……」
「あいつ、壁とかものともせずに乗り越えてったんだゾ!急に帰るのもわけわからねぇ!」
「ごめんね〜見捨てちゃって。生存本能的なモノで逃げちゃったよ」

口々に言う姿に、こっちはこっちで色々あったんだなぁと苦笑い。いつものメンバーは、よほどご兄弟の鬼ごっこにダメージを受けたのか、ものすごく疲れ果てていた。生存本能に危機を覚える追跡とはどんなもの………今回の件でギザ歯先輩の一面をまた知れたが、周りからの人物像がロクなのなさすぎて、手放しに喜んでいいのだろうか。改めて周りの反応に、自分はちょっと先輩との親交を考えた方が良さそうな気もしたが、嫌いとか苦手とか違うから余計に悩む。なんでもかんでも頼り過ぎたらダメだよね。悩んで抱え込むくらいなら、この気になってること、今度思いっきって本人に聞いた方がいいんだろうか。

「転んだのは自分のせいなので気にして無いですよ。………あちらの方、一応ほどほどに理由を話したら解放してくれました」
「ん?じゃあ、なんで追いかける必要があったんだ?」
「ふん。フロイドのことだ気分だったんだろう。だから、厄介だと言ったんだ。これで、おわかりかい?」
「身を持ってわかりました」
「肝に銘じておきます」
「夢に出てきそうなんだゾ」

この場は面識のないフリをしてやり過ごすことにした。心配はされたが、そこらへん気にされてなさそうなのでいったん保留で。今はマジフトの犯人探しの方を優先させなければならない。それが当初の目的だったのに、有力候補を見に行って追いかけられるのは、本当にナゾだわ。

それ以上はつっこまれず、その話はそれで終わった。



そろそろ日が暮れそうな時間帯になってきていた。リドル先輩はいったん寮へと帰宅。5時ごろに行われるハートの女王の法律。サボっている奴がいないか確認しに行くという。ルール絡みでグリムがつつくが、最初のリドル先輩があれこれを考えると随分まるくなったと思う。そうこうしているうちに、本日の調査活動も終わりに差し掛かってくる頃、なんとなしにケイト先輩が爆弾発言をぶちかました。

「色々ハプニングがあったけれど、次は本日最後のけーくんチェック。サバナクロー寮の一年生ジャック・ハウルくんに会いに行ってみよっか」
「ジャック・ハウルか。もう寮に戻って戻ってるかもしれないな」
「さ、サバナクロー寮!?」
「そこって獣の耳ついた奴らの巣窟か!?」
「うん、そうだけど。どうしたの?カントクセイちゃん、グリちゃん?」
「そこにはチカ……モガァッツ」
「なんでもないです!」
「?」

グリムが余計なことをバラそうとしたので、大慌てで口を封じる。植物園の騒動はあまり知られてはならない。イタズラに吹聴はできまい。自分のケツがかかってるんですからね!

本日、最後の最後に自分と少なからず因縁のある寮へと赴くことになるとは、今日一日とびきり濃いな。ルーク先輩を目撃して、ジェイド先輩に遭遇して、最後にあの……人に、会う可能性。ムキムキにはなってないけど、これは任務遂行のため。目的の人物に会いにいくため、ちょっと訪問するくらいなら大丈夫だよね?それに寮に行ったところでそう都合よくピンポイントで会うわけないですし?

なんとも言いがたい気持ちで、サバナクロー寮へと続く鏡を通った。

あと、今の今でもめちゃスルーしてたけれど、もしかしてグリムて私の性別に気づいてる?

チカンて言葉を知ってるのも不思議だけれど、この世界我が故郷特有の名詞が通じること結構多いし、それならとは思う。思えば、あのせくはら()騒動の時も、らっきーすけべ()事件の時も、私に気遣うような態度だった。錯乱しすぎて初日は、ケツ丸出しで騒いでいたしな。この後の調査が終わったら、一度寮に帰って確認してみよう。グリムだったらバレていても問題はなさそうだし。情報共有は大事!





ゴツゴツした岩のような建物。
入り口にある大きな骨。

本当にこの学校の寮は個性的と一言で済ませられない。先ほどの心配事は彼方へと捨て去り、その外観に夢中になる。まずあの骨デカすぎて、記憶にある生物と一致しない。恐竜レベルの大きさじゃない?この世界には魔獣もいるみたいだし、幻想生物の骨の可能性もある。ケイト先輩は野性味溢れると表現しているが、どういう経緯でこんな造形に。疑問はあるものの、ひとまず。

「ここにもロマンがあったなんて!どこまで異世界なんだここは!」
「カントクセイちゃん、声に出てる」
「他寮に行くたびテンション高いなコイツ………で、ジャックだっけ?どんな奴なんスか?」

鏡を通ると、そこはワイルドな光景でした。



サバナクロー寮。一年生のジャック・ハウルくん。

自分たちとは同学年。後から聞くと、陸上部のデュースと同じ部活なんだそうだ。彼は単独行動が好みであんまり他の人と馴れ合わないらしく、数回しか言葉を交わしたことがないらしい。しかし、ケイト先輩情報によると、一年生でありながら有力候補に選ばれるくらい運動神経抜群で、今でもありとあらゆる運動部からスカウトが殺到してるんだとか。身体特徴は、褐色肌に銀髪。狼っぽい耳とフサフサのお尻尾がトレードマーク。

その特徴を聞いてグリムが即発見して、ケイト先輩が褒めてあげてる。そのことに誇らしげなグリム。

ジャックくんどこかで見たことあるなと思ったら、ケイト先輩たちの寮紹介の時に食堂にいた男の子だった。獣人族がいるとは知らず、マッチョにケモミミカチューシャというインパクトを与えてくれた。それを更に超える特濃学生たちに遭遇しまくって、忘れてましたけどね。他にもなんか忘れてる気もする。それほど記憶保有量は多くないし維持できない。

「庭走ってるヤツ……さっきの双子に引き続き体デカっ!」
「それに加えて、あのたくましさは格闘技にも向いてそうだなと思う」
「あれはスカウトしたがるわけだね〜」

獣人族……自分的にも種族の違う彼らが気になるが、これまでのサバナ絡み騒動で、いざ関わろうとすると足踏みしちゃうな。フサフサの耳とかお尻尾は触ってみた……ゲフンゲフン。体のデカさはジェイド先輩で見慣れつつあるけど、あの体格の良さと、周りを寄せ付けない鋭い雰囲気は超話しかけづらい。見るからにして、俺に関わるなという一線を引いてるような。

「……ちょっと近寄りがたい雰囲気だけど、早速話しかけみよう」
「カントクセイちゃん、緊張してる?」

ケイト先輩がすかさず気を紛らわせようと色々と声をかけてくれた。リドル先輩の時もグリムの時もそうだ、周りを見て気を使ってくれるよな。さりげなく褒めるのも上手いし。この前の出来事は、自分が見た幻覚だったのでは…?

「ケイト先輩、ありがとうございます」
「……あ、うん」
「ケイト先輩、だいたいこいつの返しはマジレスなんで」
「えぇーー、お礼言っただけでそう言う?」

そんなやりとりをしていた、そこまではよかった。



「………オイ、そこのツンツン頭!」

(おわあああ、話しかけ方ーーーーー!)

話しかけ方としては完全にアウトな内容つらつらと、相棒の毛玉の行動に戦慄した。

ケイト先輩も自分も止めるのに間に合わず、これ以上失礼のないようにケイト先輩がなんとか物理で口を塞いだ。走り込みの邪魔をされたジャックくんは、眉間に皺を寄せ迷惑そうな表情。

訝しげにこちらを見ていた。

あちゃー、接触失敗。
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