捻れた世界を知っていけ
いつかのファーストコンタクトだと、誰かが言った。
フロイドはリドル達を優先して追いかけたが、なかなかしぶとく逃げ続けるのとちょっと飽きてきたので、ジェイドのところへ戻ることにした。飽きたと呟き立ち止まり。前方を走っていたリドルは息切れしながら、顔をまさに真っ赤に染めながら怒り狂っていた。
(加減して追いかけても、金魚ちゃん体力なさすぎ)
来た道を戻るのもめんどくさいので、パルクールしていこうと思いそこらへんの障害物を使って走りだす。後ろから悲鳴が聞こえたが気にしない。
(ジェイドのところに、小魚が一人捕まってたっけ。うーん、金魚ちゃんとおんなじで小さかったけど、フツーでつまらなさそうだったな)
手際よく考えごとしながら乗り越えいくが、体に染みついた感覚が危うさを微塵も感じさせない。
(ジェイドなら、あんなの簡単に吐かせられそうだし。めんどくさいことにはなってなさそう〜)
「あれぇ?ジェイド、あの小魚は〜?」
「おや、お帰りなさい。フロイド。彼なら理由聞き出して解放しましたよ」
片割れである兄弟のところに戻ればどこにもいない。それはそれで、なんだか残念な気分になった。パルクールして、気分が上がってきたのもあるかもしれない。遊んでやろうと思ったのに。リドル達がこちらを覗き見していた理由自体あまり興味がなかったが、なんとなく聞いてみた。
「理由て、なんだった?」
「ああ、どうやらマジフト関連のことで調査していたそうです」
「ふーん」
(なんだ。オクタヴィネルには関係ないやつじゃん)
飛行術が芳しくないオクタヴィネル寮は、毎年マジフト大会ではだいたい下位を彷徨っている。去年はジェイドとフロイドがいてなかなか好戦したものの、やはり飛行術で差がついてしまった。探りにくるほどのものではないとフロイドは考える。
(それにアズールは、期末試験の方が本命だしね)
「フロイド、そろそろラウンジの開店準備の時間です。行きますよ」
「はーい………ん〜?なんかジェイド機嫌がいいね。面白いことあった?」
「機嫌、がいいですか?」
ジェイドの言葉にうなづくと、ふっとその様子の変化に気づいた。どこか浮き足立つような雰囲気だ。当の本人は、虚をつかれたようにその吊り目がちな瞳をまん丸にしている。自分でも気づいていなかったようで、不思議に思う。その変化のきっかけを思い出すとあの小魚しかいなかった。
「あの小魚、なんか面白いことでもしたの?」
「面白い……?ああ、ふふふ、そうか、やはりフロイドは勘が鋭いですね、ふふふ」
「えっ?ジェイド、そのキモい笑い方やめてよ。なんかイヤナモノを連想させるんだけど」
「……ふふふ、そうですね。以前から彼と知り合いでして」
「へぇ、知り合いだったん……だ」
片割れであるジェイドの考えていることは、わからない時がある。それはフロイドとジェイドは似てるとはいえ、個体は別なのだから当たり前であると思っていた。だが、どうしてもわかってしまう時がある。その様子を見て、ようやくここ最近の不審な行動や言動のもろもろが、パズルのようにかっちりハマる。
(キノコじゃなくて、人間だったのか)
ジェイドにとってあの小魚は、どうやら少し違うらしい。オレには教えない程度の存在なのかーーーそれとも独占したい玩具なのか、どちらなのだろう。
(ふーん、陸の生活も二年目だもんねぇ。今度見かけたら、ちょっかいかけてみよーっと)
[chapter:愉しくなりそうと、人魚は嗤う]
(いや、待てよ。じゃあ、あの求婚て、え?マジで?人間……雄……マジで?あのジェイドが?)
「あのさ、ジェイド………」
「どうしました、フロイド?」
「なんか悩みがあったらオニイチャンにちゃんと相談してね」
「どうかしました、フロイド?」
ここに新たな勘違いが爆誕した。