捻れた世界を知っていけ
独特的なオシャンティな会話が聞こえてくる。
「オレ様ならあいつは狙わねーんだゾ」
「グリちゃん、人は見た目によらずだよ」
グリムはルーク先輩の様子を見て辛口な評価。ケイト先輩がサラッとフォローしているが、同じく賛同する。グリムよ、そんな評価してるけどあの人スゴイ人だよ。尻尾を撫でるだけで、あのケモミミ集団も喉太い乙女の悲鳴をあげて逃げてったもん。あれはまごう事なきハンターだった。
「……ウ………お………ユウ」
「ん!?」
「先輩たちが次に行くっつーから、移動するぞ」
「マジか。全然気づいてなかった」
「意識飛ばすのも、大丈夫なくらいにとどめておけよ。それはヤベーから気をつけろ」
「注意するとこ、そこなんだ」
あの時のルーク先輩を思いだしていると、耳元でエースの声が聞こえてきた。思考の渦から帰還すれば、景色が変わっていた。ポムフィオーレ寮の廊下で来た道を戻ってる最中。エースに腕を引かれ移動している。いつものごとくトんでいたらしいが、置いてけぼりにはされなかったようだ。エースと会話してると、世間話のようにケイト先輩が軽くルーク先輩のことを話していた。
「ルークくんは、ポムフィオーレの副寮長でもあるんだよ」
「あの人副寮長だったんですか!?」
「そう。さっき教えたグループ情報共有にも乗ってるから、見せてもらってね」
「ハント先輩て、もしかして有名人なんですか?」
「うーん、ある意味有名人だけど、それなら寮長の……もしかしてカントクセイちゃん、ルークくんのことが気になるの?」
「実はあの……ハント先輩に以前親切していただいたことがあるんです」
「あー、そういうこと?ルークくんらしいな」
「お礼は言えたんですけど、バタバタしてて」
「その様子じゃそれっきり会えてなさそうな感じだね。ルークくん、トレイくんと同じ部活だから、今度オレからトレイくんにでも伝えておくよ」
(結構身近な人と繋がりがあった!)
こちらから頼む前に、察してくれた先輩がぽんぽんと話を進めてくれる。これがコミュ力…!トレイ先輩の怪我の治り具合やマジフト大会終了後と、落ち着いてからになると言われたが、仲介していただけるだけでありがたや。リドル先輩もケイト先輩も選手で忙しいのに、お世話になりぱなっしだ。
「さてと、次は中庭の方に行こうか。次のターゲット候補がいるみたいだし」
ポムフィオーレ寮の門をくぐりぬけ、鏡舎へと帰還した。スマホ画面を見ながら、次の居場所を確認するケイト先輩。あたりまえのように言うが、どこに誰が居るてすぐわかるものなのか?さっきのルーク先輩もあそこに居るってわかっていたし。もしや、なんらかの魔法!?
「魔法で居場所を特定できるんですか?」
「そんなほいほい魔法は使わないよ。この学内だけの情報共有アプリ、イグニハイドの有志が作ったみたいなんだけど、それ使ってるんだ。複数だったり学年ごとだったり様々。あ、NRC非公式だから、先生には内緒のヤツね!」
「ほう?そんなものがあるとは初耳だね。内緒でこそこそやってるなんて、よくないことに使ってるんじゃないね?」
「我らが寮長は厳しい!リドルくんは連絡手段に使うとき以外、あんまりスマホを使わないけど、割とみんなこういうの利用しているんだよ」
「ダイヤモンド先輩、僕たちも知らないのですが……」
「まーオレら入りたてだし、知らないのは仕方ないんじゃない?てっ、ことでケイト先輩また後で教えてくださいよ〜」
「エースちゃん、ちゃっかりしてるな」
「理解できない。普段からそう使うものなのかい?」
「マジカメもそうだけど、こういうのも一種のコミュニケーションだからね。良い使い方すれば、良いものだし。悪い使い方をすれば、悪いものになる。今回はマジフトと有力選手候補て銘打ってるけど、どれもこの学校で認知度がある人たちだからね。色々注目浴びちゃうのかもね」
「えっと、つまり、ただの学校コミュニティなものなんですが?偏見が入っているんですが、なんか悪口とかネットいじめの温床になりそうな気が」
正確な名称はわからないけど、学校裏サイト的な?話を聞いてる時点だけで、学生の作った枠組みを超えるようなクオリティのようだ。でも、一時期我が故郷でもニュースとかでばんばん取り上げられていたり、身近でも悪口とか書かれたりしてるイメージがついてんだよな。
「グループコミュニティにもあるだろうけど、だいたいは情報共有のみに使われているよ。オレの使ってるやつも健全なものだし。うちはどっちかというと拳派が大多数じゃない?」
「それはそれでどーなんすか?」
「正々堂々してる方がいいですよね!」
「デュースが言うと悪語録に聞こえるんだゾ」
「まったく血の気の盛んな奴が多いよ」
「それ寮長が言っちゃうんすか」
「まあ、ケイトが言うならそう信じる。スマホを使うのもほどほどにね」
「あははは、はい、寮長」
「……ボクは興味がないけれど、そういうもので好き勝手やっていても、この学校じゃそれすらも弱味にしかならないだろうから。君たち新入生も気をつけるんだよ」
「そうだねぇ、ここの生徒。そういう把握スキル得意な子何人かいそうだもんね。特に新入生の子は環境が変わったのを機に、個人情報ゆるゆるのSNS作ったりするし。ちゃんと管理できるなら大丈夫なんだけど、ね」
「そこで妙に濁すところが怖ぇーわ」
「でも、鍵をつければ自衛できませんか?あ、裏アカウントとか。言ってる自分はそういうの利用したりしませんが」
「そもそも、お前スマホすら持ってねーじゃん」
「そーだよねー」
「いい質問だね。ボクも詳しくは存じていないが、そういうものを格好の餌食にするヤツに心当たりがある。ここで会う奴らは、そういう人間がどうかちゃんと見定めるんだよ」
「ローズハート先輩、心当たりあるんですか!?」
「なにそれ怖い!!」
「ネットまで気を置けないて、どういうこと?」
先輩たちによるネットとNRC講座に、後輩組はプチ阿鼻叫喚になりながら次の場所へと向かう。居場所特定とか情報特有とかそれを得意な生徒が居るとか怖いと思いつつも、NRC生と聞くと納得できるような気がするのは毒されすぎたか。プライバシーとは一体……とにかく、次のターゲットさんとやらはどういう風に書かれてるのか、エースに見せてもらった。
『リーチ兄弟中庭で目撃。注意されたし』
ちゅ、注意喚起されてるーーー!
なんかイメージと違う。なんで注意されてんの。もう既に不穏なんですけど!?……というか………リーチ?
リーチ!?
その名前を理解して、本日二度目の衝撃。スルーしてはならない名。自分の知る『リーチ』の姓はただ一人。いや、でも、なんで注意喚起されてるの??あのヒト……そんなヤバ……いやつだったな!?
「次は、リーチ兄弟だね」
「うげっ!?次はよりにもよって、あの二人じゃないか!?」
「リドルくんならそう言うと思ったけどさ、この機会に色々と見ておくのもいいと思ってさ、特にこの二人は二年で有名だし」
「ボクが犯人なら、彼らを狙うのは最後にするよ。特にフロイドの方はあまり近付きたくない。そもそもあの二人を狙うなんて、無知か命知らずくらいなものだ」
ツッコミ要素が多すぎて、一人で混乱していると先輩たちの方でも一悶着起きている。ポムフィオーレの時とは違い、リドル先輩はその名を聞いてなぜか嫌がっていた。不思議に思って、先輩たちの居る方向を向けば、リドル先輩が苦虫を潰したような顔をしていた。ケイト先輩は苦笑している。やっぱりあの先輩と知り合いっぽいし、たいそうな言いよう。仲良いとは言えなさそう……?
「リドル先輩、めちゃ嫌がってんじゃないですか」
「たしかフロイドくんの方。エースちゃんと同じ部活だったはず、知ってる?」
「一応知ってるすよ。でも、練習でフロイド先輩とはまだ絡んだことないです。あんま見ないときもあるし。なんかあの人すごいクセがあるってのは聞いたことありますね」
「部活をサボるなんて、あいつらしいね」
フンっと鼻を鳴らすリドル先輩。依然表情は変わらず。リーチ先輩もといジェイド先輩ではなく、どうやらご兄弟のフロイド先輩という方が苦手らしい。
「あんまり近付きたくないけれど、ケイトの案にも一理ある。いいかい?これから顔を見にいく奴らは、この学園でも相当危険で厄介な奴らだ。気を引き締めていくんだよ」
「そんな猛獣でも見にいくみたい言い方!どんな奴らなんですか!?」
リドル先輩があまりにも真剣な表情で言うものだから、その内の一人知ってますと言う前にツッコんでしまった。