捻れた世界を知っていけ


急いでは来たものの、ハーツラビュルに入寮するとバタバタしていては怒られるので、静かにトレイ先輩の部屋へと移動する。この時間帯は部活動が稼働してるのもあり人は少ない。ヘタに目が合うとガンつけてんのかと稀に絡まれることもあるから、あんまりきょろきょろできない。

あいかわらずハーツラビュル寮は素敵な寮だ。なにより綺麗で清潔だし、人類の敵とは無縁そうな場所。ハリネズミが居るし。オンボロ寮が万が一崩壊したら、転寮したい寮No. 1である。この寮しか知らないけれど。リドル先輩の厚意による勉強会で何度も足を運んだが、何回見ても階段までオシャレ。トレイ先輩の部屋に行くまで、行く道をあちこち視線を彷徨わせてしまう。

今更ながら、一年生が上級生の部屋に訪れていいものか。妙な緊張してきたぞ。ウン、一ヶ月ほど前反乱した奴が気にすることじゃないか。寮長であるリドル先輩の部屋に入り浸っていた自分は、めちゃくちゃつっこまれそうだし。そう考えるとフレンドリーに接しすぎちゃっているのだろうか。そこら辺周りから何も言われてないので、言われたらまた考えよう。気にしてもしょうがない。体は男だし何も問題なかろう。幸いリドル先輩もトレイ先輩も、相部屋じゃなく個室であること。この学園は全寮制。ここの生徒たちには、それぞれ生活していく部屋があるわけで、一年生は四人部屋、二年生は二人部屋、三年生は一人部屋という振り分けだという。ただし寮長はこのシステムの縛りはなく、どの学年だろうと一人部屋と決まっているらしい。重要な役目を背負っている分、特権の一つに含まれるとか。

比べるわけじゃないが、我らがオンボロ寮………あそこはあそこで問題は山ほどあるし、人類の敵が出没して悲鳴をあげる日々。水まわりをもうちょっと改善して欲しいなとか、改善要望たくさんあるが、人気の無い静かさは良い点。ただでさえ、人間トラブル多発する学校。巻き込まれないかぎり、寮内でそれが起こらないのは嬉しい。最初はゴーストに襲われかけたけどな!

例外でエースとデュースと一時過ごしたことはあるが、あの時は特例中の特例中で、異様なテンションだったから特に気にならなかったしな。問題が解決した後は泊まりがけとまでなくなったので。夜のオンボロ寮は一人と一匹とゴーストたちのみ。そんな生活に慣れてしまえば、一年生の四人部屋とか躊躇してしまう。もうすでにらっきーすけべの洗礼は受けているが、恐怖のらっきーすけべがそこら中で展開される。図太いとはいえ乙女の心は、私だってちゃんとあるんです。そういう乙女の心もじわじわと失いつつある危機。まあ、特例編入の自分に他寮への行き先なんてないのですが。

「トレイ先輩は三年生だから一人部屋なのか」
「いいよな。相部屋だと気使う時もあるし羨ましいんだよな。ま、オレは兄貴がいたからあんま気にしてねーけど」
「あれ?でも、お兄さんがNRC入学したら4年間は一人満喫できたんじゃないの?」
「ホリデーのたびに、寂しかったか〜ていって構い倒されたわ。これが家にいた頃より反動がすごいっのて」
「仲良いね」
「おいこら、一言で済ますなよ。それよりもキョロキョロしすぎじゃね?初見じゃないじゃん。お前はガキか……そんなに珍しーの?」
「いや〜何回見ても、ここの内部構造すごいなって」
「目的忘れてねーよな?」
「ナニイッテルノ!トレイ先輩の一大事に、はしゃいでいる場合じゃないけどね!」

トラッポラ家のほっこりエピソードを聞きつつ周りを見渡す。それにエースが気づいて呆れた目で見てきた。おっと、いけない。いけない。来るたびに新しい発見があるから、目的が完全に変わるところだった。気を引き締めなければ。

自分とエースが会話してる一方。一緒にいるデュースは、匂いにつられてどこか行きそうなグリムの面倒を見ていた。面倒見いいよなデュースて。自分はちゃんと監督しろてどこからか言われそう。

(個性の殴り合いみたいな連中が集結してる寄宿舎だ。問題が起こらないわけがないよな……)

寮のことであれこれ思考を巡らせる監督生は、その数ヶ月後にオンボロ寮でとんでもない事件が勃発することは、まだまだ考えつかない他人事である。





そうしてトレイ先輩の部屋に到着して入室したのだが、何気に初めてお部屋訪問だったりする。リドル先輩の部屋を見たときも思ったが、ハーツラビュルて部屋まで可愛い。赤を強調とした部屋で、家具から小物までこだわりがありそうで好き。そして、天蓋つきのベット。

(トレイ先輩にもあったのか!このベット!)

寮の設備とはいえ男子高校生が寝ているベットが天蓋つきという事実は、超インパクトを受けた。ちょっとそこは羨ましい。

煩悩を振り払い入室した部屋には、ケイト先輩がいらっしゃった。エースとデュース二人に『エーデュース』とコンビ名を付けていた。『ス』の部分を横着しただけらしいが、耳に馴染むコンビ名である。気に入ったので、私もこれから使用していきたい。

トレイ先輩にそれぞれ声をかけながら、グリムが失礼な声をかけをしたので小突いたが、先輩が思ったより重症で悪く思ったのか、お見舞いのツナ缶を渡していた。いつの間にとも思ったし、成長した姿にジンとくる。こういうところがグリムの憎めないところ。

「気を使わなくていいよ、その内治るさ」
「トレイ先輩は落ち着きすぎですよ。松葉杖使うほどて重症ですよ」
「そうは言われてもな〜?」

目元を細長くしならせ困ったように笑う表情。出た!トレイ先輩の胡散臭そうな笑顔。普段は良い人オーラなのに、時折なんでこうも嘘くさくなるのか。なんだろう。なんかトレイ先輩てギザ歯・リーチ先輩に似てるな。冷静沈着なところとか。フォロー力とか。胡散臭さはあの人が勝っているけど。

「やっぱりこの世界の人たちて、胡散臭いほど大人びているのだろうか」
「思いっきり声に出てるぞ」

そこへリドル先輩まで登場して、部屋の中はちょっとした賑わい。浮かない顔のリドル先輩はトレイ先輩の心配をするが、リドル先輩の方が気が参っているよう。意味深な会話を繰り広げる二人の姿に、エースが尋ねる。

〝マジフト選手有力候補・連続事故勃発事件〟

その被害者はついに自分たちと親しいトレイ先輩にまで魔の手が及んでしまった。聞き取り調査で聞いた話にデジャブを感じるような経緯で、階段から落ちかけたリドル先輩を庇い、トレイ先輩は怪我を負ってしまった。これはもう気のせいでは済まない。自分たちの預かり知らぬところで、何かが起こっている。

「俺が勝手にしくじっただけだから、もう気にするなって」
「でも…」

『ユウ、これってさ……』
『うん、いよいよ怪しい』

思いつめたように固い表情のリドル先輩に、穏やかな顔で笑いかけるトレイ先輩。その足は、しばらく松葉杖が必要だと言うくらいの大怪我を負っている。神妙な表情で声を潜めて言うエースに、自分も声のトーンを落として答える。

目の前で行われるやりとりはーーー現在進行形で追っている謎の事件に絡んでいた。


「カントクセイちゃんたち、トレイくんの怪我についてなにか知ってるんじゃない?」

場所はハーツラビュルの談話室に移して、察したらしいケイト先輩からの話の切り込まれた。一息吸い込み、ここ最近の学園長の頼み事を話す。ケイト先輩もリドル先輩も真剣な表情でその話を聞き、こちらも先輩たちが今回の件で違和感を感じて、独自に情報を集めていたと知る。双方の話をすり合わせて情報交換。頭の良い二人だから、すぐにその違和感に気付いたのだろう。特に今回の本来の被害者はリドル先輩になる予定だった。相手はあのリドル先輩。寮長を狙うなんて悪手な人選だと思ったけれど、よほどバレない自信があったのかな。

リドル先輩でもどのように犯人が犯行を行ったのか、その方法に心当たりがなさそうなので、これは解決への道は難題だなと思っていたら。ここにきてハーツラビュル寮長直々及びハーツラビュル組が、犯人捜しに協力してくれるとのこと。思わぬありがたい増援。デュース式で訳すと『よくもテメェ、ウチのモンに手ェ出してくれたなぁ?』というお礼参りであるが、人員増加は大歓迎。自分とグリムだけじゃ絶対解決には導けない。ここまできたら、事件だって気付いているのに何も出来ずに、被害者が増えていくのもやっぱり気になっちゃうし。これで好転したらいいな。決してマジフトに参加したい訳ではない。

頼もしい先輩たちと友達にほっこりしてたら、そのままで終わらせてくれないのがナイカレ生。やけに張り切る一年コンビに、リドル先輩が呆れたように声をかける。ケイト先輩がすぐさま二人の考えに気づいて茶々を入れた。働き次第でマジフト大会のメンバー候補を考慮するという、寮長のお言葉に二人は素直に喜んでいた。トレイ先輩の欠員の部分を見逃さないなんて、ブレない奴らである。本当に。

「話は戻るけど、こちらから先手を打つしかない」

リドル先輩が話を本題に戻すと、いわゆる張り込み作戦を提示していく。寮長の参戦に一気に飛躍した。あとはおそらく、トレイ先輩の怪我にだいぶ責任感じてそうだから、力の入れようも凄いのだろうな。リドル先輩は責任感めちゃくちゃあるし。

「マジカメのメッセで情報共有するからグループ作るね。グループ専用のアルバム、見ておいてーーーと言いたいところだけど、カントクセイちゃんたちは、たしかスマホ持ってないんだっけ?」
「はい、そうです。ケイト先輩、連絡取りづらくてすみません」
「気にしないで〜カントクセイちゃんの事情を知っちゃったら、しかたないし!でも、学園長におねだりくらいしてみたら?マジで必需品だよ。スマホは!」
「そうですよね〜」

〝いつも通り〟のお茶目な表情で、ケイト先輩は自分に話しかけてくれる。ケイト先輩とは一時あれそれがあったものの、距離感は悩みつつも心配していたことは何も起こっていない。内心それにホッとしている。近づくことを拒絶されてなさそうだし、あれはポロっとでたみたいな感じなら、こちらもいつも通りに振る舞おうというもの。きっとお互いまだまだ知らない一面ばかり。ポジティブに行こうぜ!

「ダイヤモンド先輩、必需品なのはわかりますが……」
「それなら、オレかデュースのスマホでも一緒に見ればいいじゃね?」
「おお、ありがとう。そうさせてもらうよ」
「手元にないんだから、そうしたらいい。て、ダイヤモンド先輩、これ、スゴい情報量っすね」
「こ、これは!公式設定資料キャラ紹介ページ並の情報量の多さじゃないですか!」
「まーね♪と言いたいところなんだけど、その例え方は…?カントクセイちゃんて、たまにイデアくんみたいな感じになるよね〜」
「イデアくんて誰ですか?」
「同じクラスのイグニハイド寮長だよ。ま、顔見たことないだろうし、知らないよね。かといって、遭遇率はレアだろうし」
「文字が細かすぎて、よくわかねーんだゾ」
「グリム、お前いつもそれだよな」

スマホがないことに気遣ってか、エースとデュースがそう言ってくれて助かる。デュースのスマホをグリムと覗きこむと、情報が整理された紹介ページつらつらとでてくる。マジカメは……ヘビーユーザーの本気!と思っておこう。驚きのあまりまたわかりづらい例え方してしまったが、ケイト先輩は気にしてないよう。先輩の話に知らない人がでてきて寮長らしいのに、ちょっと親近感抱きそうな感じの人だなと思った。

それに、このご時世、異世界だとしても魔法と同じく科学技術が発達してるこの世界。共通の連絡手段がスマホ。今じゃほぼ代表的なコミュニケーションツールを持っていないと、日を重ねるごとに不便を感じる。まさか、こんなところで改めて痛感するとは。なんで自分はスマホすら身につけていなかったのか。だが、持っていたところで電波は通じたのだろうか………あ、でも、よくホラー系の話ではちゃんねるやら、電話は繋がっているパターンとかあるから電波だけは無事だった可能性もありか。せめて今は帰る手段が無いにしても、連絡くらい向こうにとれたらいいのにな。

「んじゃ、次のターゲット候補、何人か目をつけてあるから見に行ってみよっか」
「さっそくですか!?」
「早く動くことに損はないよ、共通認識と下見はしておいた方がいいね」

「「「はい!寮長!」」」





鏡舎を通りポムフィオーレ寮の入り口に来ている、オンボロ&ハーツラビュル寮探偵団。自分はその外観に圧倒されていた。歴史を感じる佇まい。紫を強調した王宮。

(お城じゃん!!)

世界遺産?文化遺産?この魔法学校寮舎なんでもありだな。エーデュース経由とリドル先輩のあれこれで、ハーツラビュルにたびたびおじゃまさせてもらっているが、それ以外の他寮を拝むのは初めてだ。ハーツラビュルも素敵な外観とお庭を持っているが、ポムフィオーレ寮はガチのお城モチーフでもうびっくり。二寮だけでもスゴイのに、あと五寮もあるのか。困惑だぜ。

他のみんなは慣れたように、城内に赴くので急いで着いていく。グリムは建物の見た目にあまり興味ないようなのでスルーしてる。魔獣のグリムと先輩たちはともかく、今年入学してきた一年コンビも気にしてないから、この世界ではこういう建物普通なのかな。あまりにも自分が場違いすぎて武者震いしてきた。

「検問なしで城内に入っていいんですか?」
「検問って、見た目あれだけど寮だよ?そう思うのもムリないけどね。ポムフィオーレもなかなかのフォトジェニックだし」
「基本、寮はその寮生以外立ち入りしないけれど、ここの生徒同士行き交うならコミュニケーションの一環として許されているんだよ。外泊許可もありもちろん魔法及び機械で入寮の記録はとってある………寮長の判断で極一部制限しているとこもあるね」
「ほほう……前に各寮は時空ごとに切り離してるて聞きましたけど、スゴイですね。これ」

そう会話しながらも、これまた歴史を感じる廊下を通り、談話室らしきところに着いた。談話室にゴージャスな玉座があった。やっぱりここは王宮だったんだな!

「たぶんこの時間帯なら、だいたいは談話室に行けば……あ!いたいた。あそこの三人組見て」

ケイト先輩が控えめに指した指から、そのまま方向を見るとーーーキラキラエフェクトを纏った、誰が見ても美しい人たちがいた。

「ウワッ。なんかめちゃキラキラしてる……」
「うおっ!まぶしっ!」
「目がチカチカするんだゾ!」
「すごい迫力だな!」
「エースちゃんたち、大袈裟じゃない?」
「まったくそうだよ。他所の寮へとお邪魔してるんだ。あまり騒ぐのはおやめ」

パンピーの自分でも感じるこのオーラ!た、只者じゃない………んん?あれ……あのボブヘアーと帽子どこかで……?

「というわけで、けーくんチェックでは、三年生のルーク・ハントくんに注目だね。金色のボブヘアー&帽子がトレードマーク」
(ん?その名前もどっかで聞いたことあるぞ)
「ルーク先輩は優秀な選手だよ。でも、あの人はちょっと変わってるというか」
(ボブ、帽子、変わってる…………あっ、あーーーーー!)

ここ最近のマジフト関連で、すっかり頭に片隅に追いやられていたインパクトのあった出来事。そこに居たのは、いつぞやケモミミ集団サバナクロー生から、ロザリアちゃんと自分を助けてくれた。

ちょっとヘンタイっぽい狩人さん。

こんなところで、恩人に出会えるとは。なんと世間が狭いことか。今まで綺麗さっぱり忘れていましたけど!……て、その横にいるのは、食堂で話題になった男の娘疑惑の子だ!さらに、その二人が霞むほどの美貌の持ち主がキラキラしてる………う、迂闊に近づけねぇ!

せっかくの縁だから再度お礼を言いたいけれど、キラキラエフェクトで話しかけることもままならない。あの三人に声かけるて、今の経験値じゃ無理でしょ。


「カントクセイちゃんフリーズしてない??」
「あ〜たぶん、思考がどっか別の世界にワープしてるので、ほっといていいっすよ」
「よくあることなんだゾ」
「その内戻ってくるんで、大丈夫ですよ!」
「あ、そういうこと!」

「ケイトまで、なんでそれで話が通じてるんだい……?」
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