捻れた世界を知っていけ
日取りを改めて、今日一日学校が終わり放課後。さっそく聞き取り調査に赴く。学園長からもらった怪我した人たちの名簿を見た。全員に聞くのは難しいそうなので、まずは保健室へ足を怪我した人の話を聞きに行った。
道場破りかのごとく声がけするグリムだが、挨拶はしてるのでよしとしよう。
「階段の安全性の調査をしている者です」
初めは二人組のハーツラビュル寮生、なんでもない日のパーティーに参加してたからかこちらのことを知っているようだ。あの件以来、ハーツラビュル寮ではオンボロ二人組はわりかし厚意的に受けいられるようになっている。それに、リドル先輩のお厳しい勉強会で通ってたりするので寮内の認知も高いのかも。まあ、温玉先輩たちみたいなのは難癖つけて絡んでくるけど、だいたい背後に寮長、副寮長、ケイト先輩が佇んでいたりするので、そんなにひどい目にあっていない。
「なんて、説明すればわからないんだ」
困惑した表情で語る二人が言うには、「躓いたとか滑ったという感じではない落ち方』ということ。
「ふむふむ、なるほど」
「ご協力ありがとうございました」
二人の表情はまるで狐に包まれた様子。グリムはおちょっこちょいと言うけれど、見えないナニカの仕業を働いてるような。
保健室を後にして、次は上級生の教室へと赴く。さっきは穏便に済んだけど、今度も平穏に聞き取りできますように………と祈り届かず止める間もなく、グリムが相手の気に触る声かけをしてしまったので決闘を挑まれた。優雅な口調のわりに短気すぎるような気がします!?
「手袋を拾いたまえ!」
この瞬間からこの先輩は私の中で手袋先輩になった。マジカルペン持ち出してきたから、魔法を使われるまえに瞬発力を利用して必殺脛蹴りで動きを封じた。痛みに悶えている。最近筋トレをしているのももちろんのこと、追いかけられたり絡まれたりするのがよく起こるから、部分的に身体機能が向上している。自分もこの学園で逞しくなんとか生きてる。ただ持久力は伸び悩んでいるので、今後の目標である。
「ユウ、オマエ……ちょっとやりすぎなんだぞ」
「あ、しまった!マジカルペン見ちゃったから癖で蹴ちゃった!あ、あの、すみません!先輩、怪我してるのに」
「くっ、なんて容赦のない蹴りだ!」
「な、なかなかやるじゃないか!仕方ない。あの日のことを教えてあげよう」
「えぇ……教えてくれるんですか?」
痛みに悶えながらも、逆ギレすることなくなんか認められた雰囲気。この学園、だいたい物理で勝つと認められる風潮があるの本当どうなんだろ。魔法どこいった。これまでの温玉先輩、エース、デュース、リドル先輩、ギザ歯先輩、その他もろもろの喧嘩を回想した。
手袋先輩は口を開きかけて喋り………だすことなく、つきそいの先輩がすらすらと演劇調で語り出した。内容はこうだった。『熱くなった鍋を急に素手で掴んで、薬をひっくり返し机の上が惨劇』ということだったらしい。
「僕は本当に驚いたよ!」
「全部キミがしゃべるのかい!?」
「先輩たち、コメディでも目指してるんですか?」
「してないよ!?」
「流れるような会話のテンポ素敵だと思います」
「そ、そうかい!ふん、まあポムフィオーレ寮の生徒だからね」
「なかなか見所があるじゃないか!」
「だから、なんでキミが答えるんだい!?」
「オマエら、いつもこんな感じなのか」
「会話が盛り上がってるみたいだからお暇しようか。ご協力ありがとうございました。お大事に」
自分たちの声は聞こえてないような気もするが、挨拶してその場をソッと立ち去った。ちょっと荒事になりつつあったけど、無事調査を終わらせた。いったん寮に戻ろう。
「やっぱ事件じゃないんじゃねーのか?」
「決定的な要素がないけどさ、それで済ますにも解決しないよ」
寮に戻って玄関で、今日のことを話し合う。二人で話しても、なかなか進まないので誰かの意見が聞きたいと思ってたところに、寮の扉がギィと開く。このためらいのない入り方は心あたりある。
「おーっす」
エースがオンボロ寮へと訪ねてきた。これまでの経緯をエースへと話した。マジフト大会参加権あたりを聞いて笑っていたが、聞き取り調査の話になると少し真剣な表情。
「不審な事故による怪我、ねぇ。グリムが言うには、おちょっこちょいか浮かれてるやつなんだろうけどさ、身体能力高そうな有力候補がそう連続で怪我すんのか?むしろ細心の注意とかしてね?」
「それ!なんだよね!大会前だから、逆に怪我しないように神経張り詰めているはず。そりゃあ、張り切りすぎて怪我しちゃうこともあるけどさ。いくら、なんでも10人て……」
「多すぎるな」
「じゃあ、それ以外の理由はなんなんだゾ?」
「バーカ、それを今考えてんだろ」
三人で議論しあう。エースは頭の回転が早いから、引っかかってる着眼点を言葉にしてくれた。エースが口を開きかけたところに、ものすごい轟音が響きわたる。
「エース!大変だ!」
「ん?なんだよそんな慌てて……」
バンと勢いよく扉を開けて、オンボロ寮に入ってきたのはデュースだ。いつものメンバーが揃った。じわりと汗が垂れる。その次に発せられた言葉に、全員が驚愕する。あの『トレイ・クローバー』先輩が階段から落ちて怪我をしたという。
「まさかあの食えない眼鏡のトレイも?」
「おっちょこちょいとは思いづらい」
「トレイ先輩ウッカリで転んだりはしなさそう」
三者三様の反応。意外な人物に悲報だ。自分たちいつものメンバーはすぐさま、ハーツラビュル寮へと向かった。部屋を出るまえに机にしまっていた魔法石をポケットに、首からはゴーストカメラをさげた。自分の使える魔法アイテムたち。なにも起こるわけじゃないけれど、私は気合を入れ直すよう両頬をパチンと叩いた。
いつかの既視感を感じながら。