捻れた世界を知っていけ


グリムが円盤を浮かせながら走る。前方からゴールを阻止しようと、ゴーストたちが次から次へと邪魔をする。青い炎の魔法で蹴散らすが、霧のように離散してはエンドレスで妨害。それに怒りながら文句を言うグリムに、ゴーストたちがこれでも手加減していると返答を聞くと何も言えなくなっていた。

「あれ、自分が参加するの無理じゃね??」

第一回オンボロマジフト練習を見学していた自分は思った。とある休日のオンボロ寮の午前は、モンスターとゴーストの擬似マジフト大会が開催中です。


学園長に呼び出されてあれから数日が経った。

事の発端はオンボロ寮掃除中。まだマジフト大会出場に萎びれた顔でグリムが不満を言って諦めついていないのがきっかけ。それを聞いたゴーストたちが、マジカルシフトの相手をしてくれると言ってくれたのだ。

《90年前はわしも選抜メンバーに選ばれてキャーキャー言われとったんじゃ!》
「じいちゃん、マジフトの経験者だったんだ!」
《年をとってからは体が衰えてやる事もできなくなってしまったが、ゴーストとなった今、体が軽くて動けるようになったからのう!》
「この際色々ツッコミどころあるけどスルーした方がいいかな?」

老人口調が特徴のゴーストを自分はじいちゃんと呼んでいた。あだ名をつけようとしたら、候補の時点でネーミングセンスにダメだしされ却下された。一太郎二太郎三太郎てわかりやすいのにな。何気ない会話で発覚するこのゴーストの推定年齢に、長生きしたんだなと思いを馳せる。そもそもゴーストたちがこの学園にいる理由てなんだろう、学園長があの世に向けて職員募集でもしているのか?

「7人いねぇとできねーんだろ?」

ぶすくれたグリムを気にせず、ゴーストたちは試合じゃなければ関係ないさと即練習へと準備を開始していた。掃除は一旦中断。とは言っても、オンボロ寮の外へ場所を移すだけ。どこから用意したのか円盤をグリムに渡した。それを浮かすようにと教える。心なしかどこか楽しそうにすら見える。

・細かいルールは気にしなくていい
・ディスクを操ってゴールへ叩き込む
・ただし円盤を持ってるヤツは全員から魔法で妨害

………という最低限のルールのもと始まったマジフト練習に、グリムが四苦八苦しながらも徐々にコツを掴んでいた。魔力を使いながら体力も使うとなると相当技術が必要だと、初めて見たそれに思った。不平不満を漏らすグリムだけど、使用している浮遊魔法に火の魔法にカレも魔法が使えるので凄いなと思う。凄い基準が低いとよく言われるが、魔法がない世界からきた身としてはそう思うんだから仕方ない。あとはサボり癖どうにかならないものか。

せっかくグリムも魔法が使えるんだから、色々な魔法も実践できるかどうかじっけ…ゲフンゲフン。できないて最初から決めるんじゃなくて、試す事もきっと意味があるはず!自分も、箒に跨って浮く練習してみようかな。


「よっしゃー!このまま円盤を運んでゴールに入れてやるんだゾ!」

ゴール付近まで近づいたグリムは勝利確信への台詞をはいたと同時に、ばあっ!急に現れたゴーストに驚かされる。驚きのあまり、円盤浮遊の魔法が消えて腰を抜けるグリムは、今のは魔法関係ねーじゃねえか!!と訴える。見学していた自分はその場へと近づいた。

《そんなんじゃ大会に出ても初戦で敗退だねぇ》
《いやいや、初めてにしては上出来、上出来》
「グリムの言ったとおり、魔法関係なかったけれどオッケーなわけ?」
《実はねぇマジカルシフトはスポーツだけど、裏では魔法力全開で戦うフィールドの格闘技とも言われているんだ。多少の荒事やこすい手段、卑怯とも言われる手段を使うのも黙認されてるのさ》
「ヒェーーー!なんて姑息!ナイカレにぴったりなスポーツ!」
「ユウはたまにさらっときつい指摘するんだゾ」
《ま、あまりにも行きすぎたらレッドカードだな!》
「審判とか八百長とかあるのかな……」
「やおちょう?」
「こっちの世界の汚い事情だよ!グリムは知らなくていいからね!」

ファンタジーなスポーツなのに、やっぱりそこは人間とか他種族がやる事情なのかキレイなままじゃ終われないという裏の事情を垣間見えてしまった。正々堂々が似合わないなこの学園。深入りはせず聞かなかったことにしよう。それにそれを実行する側にならなきゃいい話だし。


マジフトに対しては妙にやる気のある獣に、普段の勉強も頑張るようにいうか。やる気のベクトルが基礎に向いてなさすぎる。

「グリムが言うように才能があるんだから、これからいっぱい勉強すれば色んな魔法使えるようになりそう」
「急になんだゾ!?息を吐くように褒めるのやめて欲しいんだゾ、オマエはマジで褒めてくるからむず痒い!」
「なので授業サボらずにちゃーんと勉強しようね」
「言いたいとこはそこか!やだやーだぁ、〜トレインセンセーの授業眠すぎるんだゾ!!」
「せっかく生徒として受け入れてもらえたんだから勉強しなさい!そして、自分にもっと魔法を見せてくれ!」
「本心くらい隠しとけよ!」
《ヒッヒッヒ!似たもの同士だよなオマエら》
《一緒に暮らしていると似通ってくるのでは?》
《仲良きことはいいことじゃ!》

いつもの口喧嘩していると、見ていたゴーストたちが参戦してくる。もうすっかり当初の物騒な雰囲気は消え去り、同じ寮の一員のような関係でおしゃべりする仲だ。悪いヤツらだったのが、お互いの踏み込むラインを守ればこれが意外と一緒に暮らしやすい。このゴーストたちイタズラするからと、怖がって人がいなくなってしまった原因を作った。人のいない分、ゴーストならではの寮のセキュリティ対策に一役買ってくれたりする。ハーツラビュルいがいの寮は知らないが、明らかにセキュリティが低そうなこの寮を夜も昼も守ってくれてたり。ゴースト曰く、長らく使われていなかったこの寮も学園の設備の一つなのでそれなりに守護魔法が施されいるとか、色んな情報やこの世界の常識を教えてくれる。今日も世間話のノリだったにも関わらず、ゴーストたちはマジフトの練習を開催してくれた。

「おっちゃんたち、今日は付き合ってくれてありがとうね」
「次こそはギャフンと言わしてやるんだゾ!」
《………ふふ、どいたしましてと言ったらいいか?今度は副寮長も参加してみればいい》
《何事も、トライというやつじゃぞ。それにしても、マジフトを久方ぶりにやったのう》
《ああ、楽しかったな。生きてる者とじゃれあうなんていつぶりかな》
《ははは、学園のゴースト集めてゴーストのマジフトでもするか?》
《いいねぇ》
《またマジフトをできるとは思わなかった》
《90年前を思い出してしまったぞい。わしらもマジフトに参加してみたくなったわ》

自分とグリムは見合わせる。どうやらカレラも、今回の件をそれ以上に楽しんでくれていたらしい。生きている自分たちと死んでしまったカレラにとって、今回の意味合いはかなり違うようだ。喜ぶゴーストたちに心がじんわりほっこり。今度は、自分も自分なりに参加してみよう。

「へへへ、オレ様に感謝しろよ!」
《グリ坊はすぐに調子に乗る》

生者と死者の関係は、緩やかに優しく暖かく変わっていく。





「おやみなさん、マジカルシフトですか」

仲良くやっているようで関心関心とおっしゃる学園長が登場だ。グリムが明らかにテンション下げ下げになった。学園長は立ち話もなんだと言って中へ場所を移された。

「君たちに頼みたいことがあって来ました」
「オレ様たちはもう雑用係じゃねーんだゾ」
「おや?衣食住をタダで保証するなんて一言も言ってませんが?」
「断る選択技ないですけど、開始早々脅さないで下さいよ」

そう言われると、何やらされるか不安になちゃうだろ………まさか!人に言えないような汚い仕事でもやらされるんだろうか。自分たちに頼みにくる事情、魔獣とこの世界に痕跡すらないような人間にやらせる仕事とは!?

「学園長!自分たちにどんな汚ねぇ仕事やらせる気ですか!?」
「監督生くんどんな妄想してるんですか!?違いますけど!??」
「なんだ違うのか。驚かせないで下さいよ」
「それはこっちの台詞です」

またいつものように妄想が暴走したが内容は違うそうだ。そもそもこのヒト、ポケットマネーは湯水のごとくあるの知ってるんですが……はっ!まさか!やっぱり裏があったのか!都合よく駒扱いしようと自分たちに投資していたのか!?

「学園長!自分たち手駒として頑張ります!」
「誤解招くような言い方やめて下さい!」

学園長は若干疲れたように改めて本題に入った。


学園内で不審な事故による怪我人が続出。階段からの転落、熱湯による火傷……原因は様々で保健室の利用者が急増中。救いは重傷には至ってないこと。そして、昨日も階段からの転落事故で怪我人が10人目……いくらなんでも多すぎじゃない?極めつけその怪我人たちは今年の大会の選抜有力候補ときた。推理なんぞしたことがないが、これは怪しすぎる。

「事件の香りがします!」
「ただのおっちょこちょいなんじゃねぇの?」
「監督生くん名推理です。それについて調査をお願いしたいのです。ただ……」

事件とするには証拠がない。全ての事故は人目があるところで、その目撃者たちは口を揃えて不注意にしか見えなかったという証言。魔法が使えちゃうし色んな種族がいるこの世界。完全犯罪なんてやりまくりでしょう。そこまでいくと探偵いらずになりそうだけどな!逆に特殊案件を担当する特別部署とかありそう?

「わかりやすいくらい怪しすぎる!」
「そうでしょう!そうでしょう!」
「ソイツらドジってことなんだゾ。はい、解決ぅ〜」
「投げやりですねぇ」

自分と学園長が盛り上がっているのを、冷ややかな目で見る超絶やる気のない魔獣。理由はマジフト大会には出られないからだ。よって随時塩対応。そこで学園長がお得意のご褒美を用意してやると提案した。ただし、守ってくれるか不明。さすがにご褒美作戦で釣られまくってきたグリムは、ツナ缶100缶でも協力しないと抵抗を見せる。お、結構学習してきたみたい?安請け合いの発端はグリムにも多いから悩んでいたんだよね。

「では、マジカルシフト大会の出場枠」
「「えっ!?」」
「事件解決の暁には、君たちの寮にマジカルシフト大会出場枠を………」

用意して上げましょう、と悪魔の声が囁く。甘い誘惑で反応を見て追い討ちをかけるように、話をなかったことにしようとする。グリムは食い気味に引き留める。待って、そんなの聞いてない。そんなのグリムが食いつくやつじゃん。テレビには映らないと安心してたのに。あああ、案の定やる気スイッチが入ってしまったぽい。こうなったら今更参加拒否の説得なんて無理だ。

「マジフトって選手が7人必要なのでは?」

ちょっとした抵抗で問題のところを指摘すると、マジカルなミラクルでなんとかあと5人選手を補填するという早口の様子に、自分の勘っぽいものが告げる。あ、これ最終的に用意しないやつじゃね?思い浮かぶのはシャンデリアのとき。魔法石をまさか持ってくるとは思わなくて退学届を書いていた姿だった。ご褒美があるないにしても居候の身で、衣食住をタテに取られては逆らえない。犯人を突き止めるとまでいかなくても、聞き取り調査などしてやれるだけのことはやってみるか。それにちょっと探偵ごっこぽいし。

「二人とも頼みましたよ」

仮面の目の部分がニッコリと笑ってる。いつ見ても胡散臭い笑顔!


学園長の笑顔を見て、許可をとりたい案件を思いだした。それと生活費使用詳細など含まれた報告書も渡しとこう。立ち去る前に急いで聞いた。

「許可取るの忘れていたんですけど、植物園の裏山の入山許可頂けませんか?あと、これ報告書です」
「ああ、そういうやりとりしましたね。それくらいいいですよ、入山理由を聞いても?」
「食料を調達しにいきたいと!」
「普通にお金渡しますけど!?私の立場がないじゃないですか!」
「脅しといてどの口が言うんだゾ。トップから自分のことしか考えてないやつのくせに〜」
「グリムくん……?」
「グリムの鋭い台詞棚上げにも思うけど、学園長の人望はあまりなさそうだから、気にしなくていいじゃないですかね?」
「私にだって一応人望ありますよ!?初期の懐き具合どこにいったんですか!?」
「懐き具合とか言っちゃってるんだゾ〜怪しいんだゾ〜」
「もう!いいですよ!せいぜい足掻けるだけ足掻きなさい!プンプン!」
「クロウリー学園長、その年でプンプンはちょっと……」
「スルーしなさいよ!」
《他生徒から恐れられる学園長も顔なしだねぇ》
《悪い大人もイレギュラーな存在には振り回されるようだ》
《よし!二人ともその意気じゃぞ!もっとやったれ!》
「え?学園長も恐れられてるの?」
「怖ぇ部分とかあったかコイツ」
「……ということは、このどこか憎めない雰囲気も演技の可能性が?どうなんです、学園長?」
「ノーコメントですよ!もう、本当にすっかり仲良くなりすぎですよ!?」

途中ふざけあう会話をしていた私たちに、ゴーストたちもどこかで聞いていたのか乱入してきた。彼らが学園長を差す意味ありげな言葉に不思議に思い、尋ねてみたが強引に誤魔化されパッと消えた。

「また、あいつ消えたんだゾ!?」
「学園長、こんなんで転移魔法使うんかい」

それは、いつぞやに見たお茶目な妖精さんの姿と被さった。薄々思ってたけどあの人て妖精寄りの人外さんなのだろうか。


こういうほんのちょっとしたこと伝えられないのは不便。スマホがないから学園長室に行くか、ここに来た時についでに聞くしかない。ゴーストたちにも頻繁に頼むのも気が引けるし。以前、スマホくれるて言ってくれたリーチ先輩の申し出、無碍にしちゃったのちょっと後悔だ。でもなぁ、ようやく名前を知れたけど、あんまりそこまで仲良いとは言えないし。そもそも私とあの人どんな関係なんだろ?なにはともあれ、今度裏山へ食料調達決定です。
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