捻れた世界を知っていけ


ラギー・ブッチは頼まれたものを無事運び終えて、満足そうにそれを食らう目の前の男を眺める。

レオナ・キングスカラーはNRC第三学年。夕焼けの草原の第二王子。我が寮サバナクローの寮長。

王族とスラム育ちの自分の差を表すような、強烈な発言の数々は一生忘れないくらいだ。そんな男も自分の出自を語る時、陰りのある表情で忌々しく言うのでそれなりに理由があるのだろうが。容姿は最高ランクのくせに、性格には問題ありまくりで、ラギー自身になかなか難しい要求でパシリにしてくるし、留年しているのにいつもの如く午前中をサボりマジで必修単位を落としそうだ。来年、同学年になる可能性はできるだけ阻止したい。

ラギーとはこの学校に入ってからのつきあいになるが、そこそこ良い関係を築けている。付き人まがいなことをやる代わりに、色んな部分で恩恵を預かれるのでギブアンドテイクな関係。

今日の放課後にマジフト大会に向けての寮長会議に出ろと、今日のスケジュールを伝える。いかにも面倒くさそうな表情をしているが〝マジフト大会〟に関する会議だ。絶対に出るだろう。あの〝計画〟は慎重に進めなければならない。欠席して会議で何か大きな変更があれば対応が遅れる、全て水の泡になってしまう。再び昼寝の準備をして、昼休みが終わったら起こせとナチュラルに目覚まし時計役を任せられた。文句を言おうとしたら、すでに寝ていた。相変わらず寝るのは早いしハイエナ使いは荒いが、自身の上服を見て思う。

(ま、これもレオナさんから貰ったもんなんスけどね)

良いところに通うのも金がいる。

ため息をつきながら、自分も便乗して奢ってもらったパンを頬張る。やはりあのパン屋のパンはどれを食べても最高だ。肉系が一番だが。そのパンを食べながら、パンの持ち主たち狸と一年生たちの一人を思い浮かべた。

まさか、一月も前のことを覚えているなんて。ラギー自身はすっかり忘れていた出来事。最初は呼び止められて、まったくわからなかったがその少年のその顔と狸をよく見ると、植物園のことを思い出した。記憶を探りキーワードが揃えば、なかなかインパクトのある事件だった。

(救世主て………たぶんアレはおもしろい誤解をしているッスよねぇ)

助けたわけじゃないが、相手からしたら感謝される類だったことに自然と笑けてくる。あのやりとりの最中、笑うのをごまかすのが大変。忘れていたとはいえ、あの件について変な噂も流れていないので他言はしてないよう。レオナは言い訳めいたことを言っていたが、ガタイのいい高身長の男がするには普通に恐怖の経験だ。昼寝している男の顔を見てさらに笑い出しそうになり、必死におさえこむ。予想している考えなら、次会ったときあの少年はこの人にどんな反応をするだろうか。反応の種類によっては爆笑しそうな気さえするーーーまあ、そうそう会うことはないだろう。接点も何も無い。今日はたまたまだっただけだ。何にせよ今日の放課後の寮長会議が終われば、計画の実行の始まりだ。


一人目ハーツラビュルの有力候補を、階段から〝自分で飛び降りた〟ように見せかけた。作戦はうまくいったようだ。彼らが立ち去ったあと、バレないように囁き合う。

「やりましたね。ラギーさん」
「ちょろすぎるぜ」
「……シシシッ♪」

一人、一人と仕留めていかなければ。
オレたちの大きな野望と、あの王様の為に。

[chapter:その存在は重要じゃない]

ハイエナには夢がある。
生まれた時から運命が決まっているなんて糞食らえだ。
世界をひっくり返してやる。

ーーーそして、そして、スラムにいる大切なあの人に。
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