捻れた世界を知っていけ




夜も更けた頃、寝室のある私室の勉強机に私は座っていた。

グリムはゴーストたちとなにやら〝マジフト大会〟の話をしている。まだ諦めがつかないよう。その会話をBGMにしながら、今日の放課後に学園長室での特別授業で知った知識をノートに書きまとめる。

学園長室への呼び出しは、やはりリドル先輩の件だった。あの一件のもろもろの処理が一段落ついたそうなので、魔法士になる生徒の為に知っておく必要があると講義してくれたのだ。ああしていると、教育関係者なんだなぁと失礼なことを思った。学んだことは、情報整理。この世界の魔法絡みはどっさりあるので、知り得た知識は自分なりまとめて整理していかないとこんがらがってしまう。

[オーバーブロットについて]
《ブロットは魔法の使用に伴う廃棄物のようなもの》《魔法は魔力を消費して発現し同時にブロットが吐き出される魔法の排気ガス》《十分な休息を取れば時間経過と共に消える》《マジカルペンについてる魔法石はある程度接術者の負担を肩代わりもしてくれる素敵なアイテム》

[ブロットの化身]
《負のエネルギーとブロットが融合して現れる化身》

自動車の排気ガスを連想すると、するりと頭の中に入ってくる。有志以来、現在至るまで研究が進められているらしい。ハッキリわかっているのは非常に毒素が強く、溜めすぎると魔法士の心身を害するということだけ。魔法が使えるとはいえその分ハイリスクがついてくる。魔法世界もシビア!魔法石が曇ってきたら休むべしはある意味わかりやすい。心と体のSOSサイン。リドル先輩レベルの魔力量が多い人間はすごく気をつけないといけなくて、学園長が三トリオは大丈夫だと喜びづらい言葉を贈っていた。

最後に化身についてまとめた。実際には詳しいことがわからなくて、事例が多くないみたいだしリドル先輩のはレアなケースだったんだな。

『みなさんゆめゆめお忘れなきように』

妙な迫力で静かに、学園長は締めくくっていた。


話題が変わって、マジカルシフトーーー通称マジフトの内容になった。

7人ずつのチームに分かれて戦うスポーツで、世界的に有名でプロリーグも世界大会もある。1つのディスクを奪い合って相手の陣地にあるゴールに入れれば得点になり、点を多くとるほうが勝ち。NRCは強豪校として世界的に有名でOBのプロ選手が多い。それもありこの学校の寮対抗マジカルシフト大会はあらゆる方面で注目が集まり、出店あり世界各国から来賓も訪れ、トーナメント戦は中継のテレビカメラを通して世界中が熱狂する一大行事。自分もグリムも知らなかった。エースに、何回目かの〝知らねーの?〟を繰り出されたが、こちとら異世界人なんですよ。知るか。運動神経と魔法をかなり使い派手に魅せられるか腕の使いどころらしく自分は参加が難しい。それを聞いて安心した。テレビカメラで中継されるとか恐怖だ。世界に自分の運動音痴が放映され晒されるなんて恐ろしい行事!というか、普通に自分は目立っちゃダメだろ。

グリムはその逆で注目されるところに食いつき、更に学園長の説明にはしゃいでいた。すぐに期待は打ち砕かれましたがね!寮対抗なので、寮生が7人に満たないオンボロ寮は参加資格無し。それを聞いて再び心底安心した。徹底的に参加条件厳しいなら、自分には関係ないことだ。それにアメフトみたいな響きの名前、魔法使うスポーツはファンタジーオタク的に興味がそそられ楽しそうに思う。参加するより観戦してたい。当日は裏方仕事が山ほどあるそうなので、そちらで頑張ることにしよう。

一番驚いたのは、グリムの人間的感性がある妄想だった。食レポも人間よりだったし、知識の偏りはあるが人間の生活拠点で馴染んでいる。グリムてNRCに来る前にどこで住んでいたんだろう?今度聞いて見よ。

『グリムの妄想も大概だけどさ、ユウの妄想もどっこいどっこいだよな』
『仲良いなお前たち』
『どーいう意味!?』
『散々期待させといて、それはないんだゾ……ふなぁ』

放課後の出来事をノートへとまとめていった。知らないことばかりだな。もっと勉強しなきゃなと考えつつ、もう一つの出来事を思い出す。


忙しい、という学園長に部屋から追い出される。追い出され後に一応取り決めた報告書の提出を忘れていたのを気づき、三トリオにはそのことを伝えて自分は再度学園長室に向かう。さっと用事を済ませると、学園長がまた意味深いことを言っていたので、リドル先輩がオーバーブロットした時のこの人の言葉が浮かんだ。

『学園長、そう言えばオーバーブロットて〝死ぬ〟以外の〝恐ろしいこと〟てまだあるんですか?』
『君はたまにそこらへん流さないですよね。また、いずれ話しましょう……そうだ。監督生くんに、これを渡しておきましょう!』
『……これは?』
『〝今回の事件〟で魔法の使えない監督生くんも危ない目にあったでしょう!なので、緊急事態ように君でも使える魔法アイテムもを渡しておこうと思いましてね。いざという時に、その魔法アイテムを手でかざし頭で念じると、あの魔法陣が形成される使用になっています。ああ、私は優しい!』
『え!?すごいものじゃないですか!どういう仕組みです!?あれ?でも、早々あんな事例起こらないはずじゃ…….?』
『まぁ、そこは。ご都合ということにして置いてください』
『説明するの面倒だと思っていませんか?頂けるものはありがたく貰いますけど』
『試作段階なのでうまく機能するかわかりませんが、持っていて損はないでしょう』
『人体実験にする気ですか!?被験者ですか!??』


聞いてみたがいい答えは返ってこず、なんかごまかされた気がする。その代わり学園長が自分に差し出したのは、紫色の魔法石がはめられた手の平サイズの魔法アイテムだった。

引き出しから、ソレを取り出して眺めてみる。試作段階とかのたまっていたが、本当にこれ持ってて大丈夫かよ。別の魔力に触れて爆発とかしないよね?

「綺麗な石……」

オーバーブロットに立ち会ったときの緊急事態対処アイテム。他の人に手に渡ったら危ないことに使われる場合もあるので、使用できる条件を厳しくしてかつ魔法の使えない人間のみ利用できる術式が組み込まれているという。どういう術式がわからない、学園長は凄いことだけがわかる。

ならば、なぜ私が帰るための方法を探してくれないのか。私が探すより、あの人が本気で探してくれた方が早いと思うのに。絶対忘れてるような気がするけど、学園の最高責任者だ。忙しいのは本当だろう。焦らず気長に期待はしておこう。

「それにしても、このアイテム…宝に持ち腐れのような」

オーバーブロットなんて、早々起こるものではないというし。これじゃあ、まるで……用心に越したことはないけどさぁ。

(あ…でも)

「グリム」
「なんだゾ?」
「首についてる魔法石見せて」
「唐突になんだよ」
「いいから」

ゴーストたちと大いにマジフト話で盛り上がっているカレに話しかけた。ズンズン近づいて持ち上げると、石を手に取る。放課後にヘイ!スタッフ!のノリで登場するゴーストたちと、学園長室でいきなりバトルが始まった。バトルが終わった後は、それぞれの魔法石が黒いシミのように薄汚れていた。拭いてもとれなかった。

「今は黒いシミ消えてるね」
「ちょっとのバトルだったから、たいしたことなかったんだゾ」
「グリムが安心なのはわかるけど、やっぱ魔力持ち気をつけた方がいいと思う」

学園長がエースやデュースは大丈夫と言っていた。グリムは自分は安心だとか言ってる。なんでだろう。なんで、少し不安に思っちゃうんだろう。

「ユウ……心配しているなら、日常生活にオレ様の魔法使用をやめてほしいんだゾ!直火炙り焼きとか………オレ様調理器具じゃねぇんだゾ!?」
「些細な積み重ねが、繊細な魔法力コントロールアップに繋がると思わない?」
「納得いかねーーー!」
《とか言って、グリ坊。うまそうに食っていたよな》
《ユウ副寮長も図太さに磨きがかかってきましたなぁ》
《こいつが学園に染まるのも時間の問題じゃないかい?》

私とグリムがいつものように不毛なやりとりする。ゴーストたちはやれやれという仕草で、私たちを眺めていた。うん、やっぱり大丈夫。

今日も平和に夜は更けていく。


ーーーポタリ、ポタッ。
誰にも聞こえず、静かに黒い滴が落ちた。
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