短編

終わりはあっさり訪れた。

監督生さん、別れましょう
……は、い

彼の表情はいつも通りにこやかなまま、告げられた言葉は平坦な声。
対して私は声を詰まらせる。どうして、縋りたい気持ちを必死に抑え込む。だって、考えるまでもない。美しい二つのイロが映すのは、興味が無いと言うような冷えたソレだったのだから。

俯いてナニカがこぼれないように目蓋を閉じる。
両思いじゃなくてもいいと思っていた。側に置かせてもらえるだけで幸せだった。だけど、分かっていた。そう思うのは私だけで彼は違う。私が必死で交際を申し込んで奇跡的に了承を得ただけ。私にとって幸せな日々でも、彼には酷く退屈な日々だったのだろう。

興味を持ってくれたとしても、私は彼のキモチを恋や愛にかえることはできなかった。



「うぇぇぇぇん、グ〜リュ〜ム〜」
「ダァあああああウルセーんダゾ!子分、今度はなんだ!?」

私とジェイド先輩はつきあっていた。
先にどちらが好きになったかというと私の方。好きになった理由は語れば長くなるから割合するとして。ジェイド先輩に告白して、奇跡的に了承されてつきあうことができた。でも、それは先月までの話。
私が二年生へ進級しジェイド先輩が三年生へ進級した頃に、おつきあいを始めその一年後。インターンシップを機会にあっさりフラられて終わった。ちゃん♩ちゃん♩

「あのねっ!あのねっ!洗面所にかけてるフェイスタオル、ジェード先輩から貰ったものだったあああああ、うえええええん、なんでぇぇぇ」
「ああ「はじめてのでーとでもらったの〜」とか、自慢してたヤツか」
「なんで覚えてるの〜〜〜!?」
「オマエが何度もノロケてたせいなんだゾ!?おかげで夢でうなされるくらい暗記しっちまったんだからなぁ!」
「う、うぅ」
「ウワァ、今度は静かになって泣いてる……はあ、ンなの捨てりゃいいんだゾ」
「だってこれ、何気に高級タオルなんだもん……ふわふわなの……万年金の無いウチが捨てるには惜しいお品物なんだもん……グスッ」
「ケチ根性捨てろ!?思い出して泣くくせに」
「うぅ、辛い。悲しい。元カレ提供品がどれも高品質で良すぎる……断捨離するのがつらいよぉ」

私には長くて愛しい一年。
ズブズブな恋愛脳はすぐに切り替えられない。
つきあっている間はちゃんと良い恋人で居てくれたので、よく生活援助的なことをしてくれた。そこかしこに彼に与えられたモノがあふれている。そして、オンボロ寮内にあるモノの返却は求めなかった。

『僕には不必要なモノばかりなので、監督生さんの好きにしてください。〝処分〟するなり、なんなり』
『処分……』

そして、今ココの状態である。

「オレ様のふわふわボディで慰めてやるから、そのタオルは捨て」
「グリムううう」
「ぬわあああ!ゴラァ!そのタオルで鼻水拭けや!」
「うぇぇぇん、まだ好きなのに……ううっ、もうこんな人生からログアウトしたいよぉ」
「イデアみたいなこと言い出したんだゾ。そんなの困るんだゾ。オマエがここでログアウトしたら、オレ様の大魔法士への道がちょっと困難になっちまうからな!」
「く、くそぅ!これだからNRC生は!」

オンボロ寮の監督生こと私は、先日の大失恋を引き摺りつつ、グリムに泣きつきながらやかましく寮内で暮らしていた。目ん玉付近のお手入れが毎日大変だ。

なんたって、ここはナイトレイブンカレッジ!

私が居る場所は優秀な人材が通う名門校だというのに、蓋を開ければ「人の不幸は蜜の味」とばかりに楽しむ最悪なヤツらばかりなのだ。当然今回の私とジェイド先輩の破局も、生徒たちに娯楽としてゴシップ消費されている。
マジで許せねぇ―――!まぁ、校内トップレベルの厄介でクセの強い男を好きになってしまったんだけれども。

「めんどくさい、子分なんだゾ」

グリムの肉球はポンポンと私の頭を撫でる。
なんだかんだ言いつつも、この相棒は私に甘くて優しい。いつまでも引き摺って泣いていられない一歩ずつ前に進まなきゃ。

でも、どうやって進めばいいのかわからない。





グウゥゥゥ〜

「……グリムのお腹、盛大に鳴ったねぇ」
「ふなぁ〜ハラ減ったなぁ」
「ごはん何食べようか」

今日はあいにく食堂は臨時休業している。生徒たちは各自自炊したり、営業中の購買部やモストロラウンジへ行っているだろう。

「前はジェイドが………モストロラウンジへメシ食いに行ってたのにな」
「グリム食べたかったら行ってきなよ、お金あげるし」
「今日は子分と一緒にごはんが食べたい気分なんだゾ」
「……ありがとう、グリム」

あからさまに気遣ってくれるグリムに、私はちゃんと笑えているだろうか。

ジェイド先輩はマメなヒトだ。つきあっている間は特に洗練された気づかいを与えられて、オンボロ寮の生活は豊かになっていったものだ。それは私の最低限暮らしていければいいと思っていた意識が変化するくらいに。それも先月までの話。


本当にそれでいいの?
せっかく手に入れた良生活を元通りにしていいの?


ジェイド先輩とは別れたことに悲しみがあるが後悔はしていない。だって本当に好きだった。すべてが終わったあの日。元の世界に帰れなくても、前に進んで行けると前向きになれるくらいの〝恋〟をしたんだ。

今はとても辛くて、大事な思い出にするには長くかかるかもしれないけど。私にとっておつきあいで、もたらしたものは本当に大きい。
改善された良生活への維持と能力向上。

今一番、必要なこと。
今後これは私の人生を豊かにしてくれる。
そう、ジェイド先輩が教えてくれたこと―――

おいしいごはんは、毎日を楽しくさせる。
ごはんはおいしい方が良いけれど、食べればいいとも思っていた。だけど、ジェイド先輩の手料理ですっかり舌が肥えちゃったのだ。

「グリム、私決めた」
「今度はなんだゾ?」
「学園長に頼んでマスターシェフを受講するよっ!!!!!」
「!?おー!いいじゃねぇか!失敗作は任せろ!いっぱいメシが食えるんだゾ!」
「おー!」

ここにはゴーストな三つ星シェフが居る。貴重な学べる機会。それに新しいことに取り組めばこの悲しみも癒えていくかも。

「よし!目指せ!飯ウマガール!」

それがキッカケとしてあいまいな未来に何をしていくべきか、具体的な想像ができるようになった。怠惰に過ごしていくなどもったいない。それに取り組み、力を入れることにした。





それからの半年間、有意義な時間を活用していった。

勉強は予習復習と習慣付けが大事だと教えられた。
いつも必死の勉強してたものの、基礎が無いにも等しいので効率が悪かった。ジェイドに恋人特権で勉強を教えてもらうようになってから、この世界の常識と知識は向上した。監督生の地頭は悪くなかったらしく、勉強する要領のコツを掴めたのも大きい。
語彙力のある豊富な嫌味は言われ続けたようだが、右から左へ流していたのでまったく覚えていない。魔法薬学に向いているだとかの、都合よく褒められた部分のみである。

『監督生さんは、物覚えがいいですね』

美しく微笑んでくれた記憶。常に冷めていなかったわけじゃない。とても良い先輩ではあった。わからないことが楽しくなる日々。通用しない世界で焦っていたものは薄れていき、訪れた穏やか安寧。それを思い出し、気を引き締め勉学に励む。

的確に改善方法提供してくれるその姿が、スパダリに見えていた乙女だった。



最低限の寮生活を保証され暮らしていたのだが、良い品物を使えば生活を豊かにすると思った。安物ばかり使っていたが、特によく使用するモノは品質の良い方が生活のしやすくなると感じた。
これは、ジェイドの良い影響である。元々育ちの良さは色んな会話で知っていたものの、それまでさほど重要視してなかった部分だったが、好きなヒトからのプレゼントやオススメは気になるものだ。
全部が全部とまではいかなくも、変えていきたいものをピックアップしてみたものの、圧倒的に資金がたりない。ここ一年で変わった生活を維持するにはコストがかかる。

そこで学園長に許可を取り麓の町でバイトし始めた、お金の余裕は心の余裕と言ったもので、貯蓄もかねた労働に勤しむことで自信がついた。それから、バイトするさい外出中に貸し出される翻訳魔法機器を長期で貸してもらうことにしたのでやりやすい。

学園内を含めた特殊な場所では、意思疎通しやすいよう種族や国ごとの言語を魔法で翻訳されている。ちなみに、それは魔法士の仕事でもあるのだとか。
ナイカレとロイソで成り立つ賢者の島はそういった部分の恩恵があるらしいが、学園内のようにはいかないところもあるという。ならば、よその国へ訪れたとき言語に不便は感じなかったように思うが、なんらかの調整されていたのだろう。

今後の言語の問題も大きな課題だ。



余談であるが、バイトの動機を聞かれ、今後この世界で生きていくための社会経験など口当たりのいい理由を言うと、学園長は感動していた。

「監督生くんは未来を見据えているのですね……こうしちゃいられません!私も貴方の戸籍や経歴をちょちょいのちょいちょいしなくてはなりませんね!」

(まだ放置されてたんだ!?)

発覚した自身のこと、思うところは置いといて。
学園長ならこういう時に話題に出しそうな、学園内のある場所のことを提案せずスルーだったので、もしや気づかいはされていたのかもしれない。



かつて、オンボロ寮は廃墟だった。

住み始めた建物への日々のお手入れと、一度の崩壊と劇的ビフォーアフターを乗り越え今がある。なんということでしょう!
他の7寮に比べるとそうでもないと言われるが、住み心地は良く人が生活するには十分清潔な環境が保たれている。

元廃墟が清潔なのか疑問に思われるが、この寮も魔法学園内にある建物。人が住むことによって、健康被害が出ないよう自動で最低限改善されていく術式が組み込まれているらしい。普通にゴミ放置したままだと、素早いアイツとか出現する。

それに加え、整理整頓は日頃の生活をスムーズにした。
綺麗に掃除するだけでなく、部屋が整頓されていると気持ちがよく収納方法も大事だと感じていた。それぞれに収納する場所を作っておくと、探す手間が省けて時短につながるということだ。

(ジェイド先輩はスマートなヒトだったから……!)

ジェイドのソツのない動きもこういう管理能力の積み重ねからできてるのだと、監督生はキュンとしていた。
収集癖のあるジェイドはモノが多いはずなのに、限られたスペースで趣味のモノを綺麗に収納し整頓していた。その見栄えの良さに驚いたものだ。
興味のなくなったモノを即処分できるからというのもあったんだろうと、痛感しているが思い出の品々を断捨離できない監督生には羨ましく感じるところだった。



実質男子校にて一輪の花状態。

一人異世界に身を放り出された監督生には、様々な能力が必要だった。少女のような人間はカモにされるが暗黙の倫理と配慮はされている。実力と暴力が支配する学園でそういった事件には巻き込まれることはなかった。

監督生的には、元の世界より女性を大切にしている意識があったり、グレートセブンと呼ばれる偉人の中に女性もいるため、男尊女卑とされるものは薄く感じていた。また女尊男卑などもだ。しかし、こちらはこちらで異種族の問題事があるというから、どちらがマシだとは断言できない。

今はそう思えるだけで、学園を卒業したらそうもいかなくなる。どんな世界だって社会は厳しい。

『両親から護身術を少々』

デート中にヤカラに絡まれハートフルボッコにしながらジェイドは言っていた。己は己を守るために自衛の一つでも身につけておくべきだ。
その光景にキュンする乙女には過剰防衛と認識されず「強くてカッコいいカレが守ってくれた出来事」として素敵な思い出になっている。

「話し合いで解決できないなら最終手段は暴力!!暴力に対抗できる力こそが、私が私の権利を守るということよね!!」

暴力には暴力というジェイドの毒が残り続け、世紀末学園生活が監督生を後押しした。
別れた今となっては、誰かが守ってくれると思っていられない。精神を鍛えるとともに魔法なくともできることを考える。

それには基礎体力向上が大切だ。
何事も基礎がなければ応用していけないのである。そう思って、NRCの体育教師にして「魔法は筋肉から」が口癖のバルガスに指導を頼みに行った。普段の授業でも監督生用に内容を編成して、考えてくれていたからだ。やや暑くるしさはあるが。

その結果。
猛烈に感動した男が、あれよあれよと二年前の悪夢バルガスキャンプが復活させ、巻き込まれた全校生徒が阿鼻叫喚になるのだった。



余談ではあるが、訓練中の話である。

「お前の変わりたい、その気持ちはわかるぞ」
「え?先生、それはどういう?」
「フ、若いオレにもそんな時があったものだ」

渋みの表情で遠くを見て何かに思いをはせている。この教師の人生にも恋愛絡みの苦い経験があるらしい。

「バルガス先生……私も乗り越えられますかね?」
「大丈夫だ。お前なら乗り越えられる。このオレ様の筋肉が保証しよう!」
「センセイ!!」

監督生とバルガスの絆は深まった。傷の舐め合いと揶揄されそうだが、なかなかの暑くるしさで相殺された。



身だしなみと周りに与える印象の効果は大きい。
友人たち曰く、ジェイドとつきあってから監督生のまとう雰囲気はメタモルフォーゼしたらしい。いわゆる恋する乙女はかわいくなるというやつだ。
ジェイドに夢中だった時はあまり気にしておらず。どちらかというと、監督生は美容関係は不得意分野だ。それなのに違ったというなら、品質性の良い品物を使っていた影響なのかもしれない。

さて今ようやく美容に目覚めても、美容の化身ヴィルはもう卒業して居ない。しかし、この学園にはポムフィオーレ寮という美意識で周りを圧倒する集団がいる。その頂点に君臨するのはかの人が卒業するまで、しごき倒されていた友人。当然のようにテッペンをとっている。

ヴィルの後継者にして、現寮長のエペルに弟子入りしようと目論んでいた。

「髪とか伸ばしてみたらいいんじゃない、かな?お手入れは大変だけど……ヴィルサンも元は悪くないて言ってたよ」

そう思い至ったら行動力のある乙女は鼻息荒く、友人の元へ突撃訪問していた。まったく迷惑なヤツである。

アポ無し訪問でも嫌な顔はせず少し苦笑するエペル。
今ではするする喋れるようになったものの、一部の友人には昔のような喋り方のままだ。
容姿は年相応に成長して、可愛らしさから美しさへと変貌していた。隠れファンクラブもあるほどだ。

「就職したら髪は伸ばそうかな、とは思うの。それにココで主張しすぎても、ね」
「そ、そっか。でも、ジェイドサンとつきあってたときは……」
「あ……ジェイド先輩はもう関係ないよ。いや、影響はあるけど。これからの未来のために美意識と改善も必要だと思ったんだ。だから、エペルに弟子入りしたいの!お願い!!」
「は!?弟子入り!?意気込みはわがったさから落ち着いて!?」

「アタイ!強くて美しいビューティーゴリラになるんだからぁ!」
「ビューティーゴリラでなんだぁ!??」





バイトも、体力作りも、学園卒業後に意外と社会でやって行ける自信がついてきた。
私は小顔ローラーをコロコロしつつ、グリムに報告する。

「戸籍問題とか成り行きでなんとかなったし、卒業後の就職先もなんだかいけそうな気がするの」
「オレ様、オマエが楽しそうならそれで良いんだゾ」

半年前と打って変わって、うきうきしながら日々を楽しむ私にグリムは呆れた目を向けていた。ジェイド先輩にフラれた時の私といったら、この世の終わりみたいな雰囲気になってたので、そういう反応になるのだろう。まぁ、気にしないけど。

(ジェイド先輩かぁ)

フラれてから程なくしてインターンシップになり、それ以降音沙汰はない。
まだ卒業していないので、学園に戻ってきてることもあるらしいが会うことはない。向こうは完全に〝終わった関係〟だと整理がついているのだろう。私もかなり気まずいから避けていたりする。

フラれた原因は想像するしかないのだけど、今の自分の状況を見て考えれば、前は努力を怠っていたのか。それでも、そういう対象であると意識されていたらしくアダルトな関係を一回ほど求められた。ビビって拒否してしまったけれど。

(それなのに、その後もつきあってくれてたし。私はあのヒトに甘えすぎていたのかな?)

でも、後悔してないのーーージェイド先輩と出会えてよかった。


ちらりと、部屋でくつろぐグリムを見る。

「あのさ、グリムは卒業しても私と一緒に居てくれる?」
「あーん?いきなりなんだゾ?」
「……」
「……まったくオレ様がいねぇと頼りないんだゾ。言っただろう!ずっと一緒だって!」

軽くうねる毛玉を、ぎゅと抱きしめる。
ネコにしては大きくて、ヒトとしては小さいカレがしがみついてくる。
私が恋愛脳になっている間も、失恋して悲しみにくれている間も、ウンザリしつつもどんな時でも相棒は側に居続けてくれた。
ジェイド先輩に恋をして、つきあって、フラれなければ、わからなかったもの。
この相棒の尊さ。ジェイド先輩との日々は、私を成長させ気づかせてくれたのだ。

残り時間。卒業式に一年間のあの日々の感謝を述べて、見送れるくらいには気持ちを切り替えられるようになりたい。



マブを筆頭とした彼らや名もなき同級生たちは、恐ろしい勢いで変化してルンルンする監督生を見守っていた。

ここ半年間あまりの変わりようはすごかった。
「リーチをまた振り向かせるために努力してんの?可哀想に……」
なんて、声も囁かれていた。それも最初の内だけで、変わりゆく少女の健気な姿に男どもはキュンキュンしたが、バルガス筋肉教に入門してからその空気は離散した。

元カレの影響だとは分かるが。
「ア、アレェ!?なんか違う!??」
という具合に周囲は絶賛困惑中だ。おかしな方向に進んでいたりするが、なんとか軌道修正するよう助言などしたりしている。さもなくば、悪夢のバルガスキャンプREが始まるからだ。男たちは一致団結せざるおえなかった。

一応、周りも真剣に心配していた時期だってある。
「心配しないで!ジェイド先輩とは円満に別れたから大丈夫だよ!」
朗らかに笑い憂いはなく、活き活きしてきっぱり言い放つ監督生の様子は、フラれた一週間の終わりのような面影は見当たらなかった。

「そ、そうか!」
「ヨ、ヨカッタネ!!」

もう、そう言うしかなかった。



さて、話は変わって。

イケスカねぇ元カレに微塵も未練もないオンナの様子を知るとなると、おもしろくなってきた悪ガキ連中。
いいオンナになっていくのを目の当たりにして、呆れだったり、愉快だったり、ほんの少しの下心だったり、様々な思惑が絡む。結果的に、大半の生徒が応援したり協力したりして、学園内はまた違った様相をしていた。監督生がジェイドに影響を与えられたように、監督生も他の生徒に影響を与えていったのである。

ジェイド野郎は心底どうでもいいが、万が一よりは戻すとなるならば妨害する一択。
こういうときだけ、一致団結するのがNRC生。

「カントクセイちゃんはオレたちがハッピーエンドに導いてやるよ!」

男たちの気持ちであった。



「今度資格取ろうと思うの!」
「へぇ、何の資格?」
「筋肉強化バーニング検定二級!」
「金がムダだからやめとけ」
「そうかな?」
「名前からして胡散臭くない?筋肉関連はバルガスセンセーに任せとけば大丈夫だろ」
「それもそうね」

エースは謎の資格を取ろうとする、監督生をやんわり止めた。
今日も今日とて頑張っているのでそれは応援しているが、持ち前のトラブルに巻き込まれる体質の持ち主だ。謎の資格が怪しすぎて友人として心配だ。止めなきゃ巻き込まれる。

ボッーと眺めていると、ふとした疑問がわいた。

(コイツ、本当にジェイド先輩に未練ないの?)

好奇心で聞いていいものか悩むも、エースと監督生の仲だ。様々な事情を知りあの一年間を近くで眺めていた者として、ジェイドとのことに対して何も思わないわけではない。

「監督生はさぁ………」



「ジェイド先輩のことは嫌いじゃないし、なんならまだ好きなの」
「でも、今は感謝してる気持ちが大きいかな」
「それにね、離れてみて思ったの。あのヒトともう一度おつきあいするのはムリだろうな、て。一方的な気持ちだけじゃ、もう成り立たないてわかったから」
「それにもし、よりが戻ってもさ、サドっ気なのかモラハラっ気なのかジェイド先輩とのケッコン生活とか耐えられるのかなて、現実が見えてきちゃったというか」
「ほらっ、先輩て罵倒語録すごいでしょ?」

「あー、ウン、そーネ」
「だから、心配しなくていいよ!ちゃんと考えられるようになったんだから!」
「お、おう」

猛然と喋りだす様子に圧倒される。後半ナチュラル悪口だが、本人は自覚ないようだ。とりあえず、相槌打っとけ。

前からジェイドを知る生徒は薄ら分かっていたし、それを直に知るはずの監督生も冷静に問題部分を受け止めているようだ。前々からそこらへん不安に思っていたが、この様子だとヨリを戻したいとは思っていないらしい。

「オレ、お前が楽しそうならそれで良いわ」
「あ!それ、グリムも言ってたよ」

エースは思う。
豪速球で過去の男にされていく知り合いの先輩を知り、なにかしんみりした熱いものを覚える。

(あのハイスペックな先輩も、コイツの成長イベントの糧にされるんだな)
(ハハっ、コレあっちが早まったカンジじゃね?)
(まー、そんなはずはないか)

エースは思い浮かんだ可能性を否定する。




もう十分とも言っていいほど、この女つきあっていた過去をいい思い出にして清算していた。元来のポジティブさいう名の図太さは、円満に別れたと変換されて拗れることはない。あとは、ジェイドとの思い出が美化されていくだけであった。



happy end?
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