短編
ジェイド・リーチくんを好きになったのは、ナイトレイブンカレッジの入学の日。
『ねっ、ね!あの挨拶してる人カッコよくない!?』
他の女の子達の内緒話が聞こえてくる。
新入生挨拶を彼が代表でしていて、目立つ綺麗な容姿に思わず目を惹かれた。美形に心惹かれてしまうのはしかたないことだと開き直りながら、わたしは見惚れていた。キレイなターコイズブルーの髪、珍しいその色になんだか落ち着かない。
入学式から半年経ち、今では彼は学校で知らない人がいないくらい有名人になっていた。
脅威の高身長、成績優秀、文武両道、容姿端麗、冷静沈着。風紀委員で部活は山岳部。チグハグなのにイメージにあう。何をしてもソツなくこなす一年にしてスーパー風紀副委員長。見事女の子が好きになる要素たっぷり。連日ものすごい告白ラッシュが続いている。バレンタインはすでにフラグがたっていた。だけど、リーチ君は女の子に興味がないらしいんだとか。入学式にはいなかったという双子の兄弟に、かなりのブラコン拗らせてるというウワサだ。一部の女の子たちがキャッキャしてる。
高校生活、最初の一年目がもうすぐ終わる。
彼への告白ラッシュは流石に収まりつつある。新入生が入ってきたらどうなることやら。バレンタインはチョコの津波と女の子達のギラギラした瞳に囲まれても、彼はにこやかに受け取っていた。まわりに迷惑かけず鮮やかにチョコ回収して捌ききるその手腕に、ある種の歓声が湧き起こっていた。
その側で巻き込まれしリーチくんの幼馴染、アーシェングロット君が額に青筋が浮かべていた。そのチョコの数をおぞましいものを見る表情。劣らずともイケメンメガネな彼にもチョコの波が押し寄せるが華麗にかわす、カロリー制限の鬼とウワサされる彼。八つ当たりなのかリーチくんにラリアットをかましていた。線の細い容姿のアーシェングロットくんが、細身に見えるも体格の良い幼馴染をフルボッコにしているシーンには迫力があった。
春休みがはじまる。
二年生に進級し夏休み目前に迫る。今日は図書室に本を借りに行く。
少し前に流行った小説が置いている棚に行くと一冊の本を取り出す。若手作家が書いた恋愛小説。登場人物の心情に胸をきゅうと締め付け、終盤は号泣きものらしい。帯にキャッチコピーが印刷されている。
図書室のカウンターに本を持っていくも、カウンターの近くには同級生の男の子の集団。図書室という空間には違和感あるオーラバシバシのバスケ部イケメントリオ。
(しかも、リーチくんの兄弟もいる)
(困った。本が借りられない。そういえば今日何故か図書室の女子率が高いなと思ってたらこれが原因か)
この学年特徴としては、各クラスにイケメンがわさわさいてそれぞれ超個性的でスペックがすごい。アイドルみたいな存在で君臨しているようで、女子のファンクラブもあったりする。
「フロイド、カウンターを占領してはいけませんよ。本を借りる方に迷惑がかかります」
悩んでいたら心地よい低い声が聞こえた。突然の気になる人の声。ドキッとする。後ろなんか振り向けない。心臓が爆発しそう。自分の顔はどうなっているのだろう。
バスケ部トリオが気付き、軽く謝りながら避けてくれた。会釈してそそくさと本を借り、図書室から逃げるように去る。去り際に図書室の入り口、少し躊躇ったが後ろの方をちらり振り向いた。
リーチ君と目が合う。
沸いたオトメ脳は、偶然も「運命?」とか勘違いしそうになる。はい、勘違いの馬鹿野郎です。
軽く会釈して今度こそ去る。大急ぎで逃げる中、すれ違ったアーシェングロットくんの視線を感じた。
(お礼言い忘れてしまった)
◇
ナイトレイブンカレッジに衝撃がおちた。
この高等学校は体育祭は個性的で奇抜である。
そして今回、学園長の思いつきによりフォークダンスが復活したのである。フォークダンスだけでこの言い様なのは、その昔とあるハンサム()を巡ってフォークダンスのたびに女子達が昼ドラ並みの争いが起ったという伝説があるのだ。なにそれこわい。ちなみにそのハンサムは担任のクルーウェル先生だとか。
今回はそれから何十年も経っているので男女の交流種目として復活させようという流れ。現在イケメンパラダイスとか囁かれているこの学校は過去一に顔面偏差値が高い。
おお、惨劇の幕が開ける。
種目はどんどん終わり、予想外に平穏過ぎる種目。トラブルがないように生徒会が統治していた。この学校にはルールに厳しいショタ顔美少年もいるので。
女子たちはきゃあきゃあ言って盛り上がっていた。気になるあの人とダンスできるかなと話している。桃色のオーラ漂わせているのに目が肉食獣。気のせいにしておこう。
一方男子たちはお通夜状態。げんなりとした表情。
イケメンたちに確実に女難の相が出るに違いない。
同じくお通夜状態、リーチくんのご兄弟・フロイドくん狙いの女の子達は落胆していた。気分屋で体育の授業もサボり気味の男の子。留年しないののが不思議だと思っていたら、たいていはさらっとこなす天才肌と聞いた。リーチくんと同じくイケメンの彼は告白ラッシュの第二波でウンザリしていたようで、本番も参加したりしなかったりして、今は姿が見えない。
本番、フロイドくんが参戦していた。
代わる代わるお相手する女の子達の手を優しくとり微笑みつき。一体何がおこってしまったんだろう。女の子達は目をハートにさせて骨抜きだ。
一緒に踊っていたアーシェングロット君が「あいつ、どうなっても知りませんよ」と呟いていた。そうだね、体育祭終わったら大変だよフロイド君。
代わりにリーチくんがいなくて残念だけど同時にホッとする。毎回手汗にヒヤヒヤしてたから。わたしの日常も、もうすぐ平常に戻る。
フロイドくんとわたしの番になる。
手に触れたとき、バクンと心臓がカウントダウンを開始しはじめた。誰か導火線を引き千切って止めてくれ。
(おかしいい、似てるけど)
(フロイドくんなのに、リーチくんじゃないのに)
フロイドくんはわたしの手を他の子と同じように優しくとって微笑んだ。その仕草に彼の恋人になってしまったんじゃないかと思ったほど。夢心地の気分だ。
フロイドくんは微笑んでいたけど、目を見開き少し驚いたような顔をしていた。驚いた表情はリーチくんに似てた。その驚き方にわたしはちょっぴり違和感を感じるが、卒業をするまでにいい思い出が出来たことの方に満足していた。フロイドくんでありリーチくんではないのに、ほんの少しのうしろめたさと幸福感に包まれていた。
余談。種目の総合一位クラスは三年D組のクラス。一組を除いてあのクラスと対戦した所はボロボロだったらしく、劇画タッチの男子たちが屍になるその光景は凄まじかった。
新年を向かえ正月過ぎれば世間はバレンタイン。
二年目のバレンタインに女子達はピンクオーラをまとわせている。大変になるのはイケテルメンズ。不憫になるのはフツモブメンズ。戦いはチョコの香りを漂わせ始まっている。
脳内のリーチくんにはチョコをちゃんと渡して、わたしは放課後の教室でチョコをバリボリ貪り食っていた。
綺麗に個装し渡そうと思ったモノを残骸にしていく。
あと一年、このままでいられる期間。遠くで見てるだけで十分幸せで、少し関われるだけでよくて。この距離に不満はなく認知されているのかされていないのか今の感じに問題はない。
わたしは「恋に恋にしてる」自分に酔っているだけなのだ。
◇
「つまらない展開だと思いませんか?」
カラリと変わる意識的なもの。
目の前には、リスのようにモグモグ食べる大型巨人。
突如現れた一つ年上の先輩はわたしのチョコを奪い取りそう問いかけてきた。「わかってて」そう聞いてきてる、なんて奴なんだ。そんなこと自分に言われも困る。
「『ジェイド先輩』これって、夢ですよね?」
ジェイドくんに〝コイ〟をしている女の子のユメ。
いつも見る夢とは傾向が違う夢。
『誰か』の人生を追体験するようなその感覚に身を任せてみれば、淡い恋心を持ったまま諦めモード失恋エンド。そのままエンドロールに突入すると思う思いきや、ジェイド先輩が画面ブチ破りよろしく不満気で登場したのだ。
「彼女は愛しのジェイドくんになぜチョコを渡さなかったんでしょう、監督生さん?」
「えっ」
(この状況おかしくない?なに、恋バナ??)
困惑しながら流れこんできたままの感情を答える。
「彼女はこの状況に満足しているようでしたよ」
「ところで、監督生さんは慕っている方は?」
「好きな人いませんけれどスルー!?」
チョコ貪り食いジェイド先輩は雑談モード。いまいち会話が噛み合わない。現実のジェイド先輩ならもうちょっと統合性のある会話するのに。やっぱり夢は夢らしくどこかおかしい。
そもそもこの先輩とさして仲良くはなかったはずだが、周りと合わせているように見えて自我を通し続ける男の姿を幾度か目にしている。
この空気を軌道修正するすべもなく。何枚も上手の相手につきあうしかない。この奇妙な夢のようなものを終わらせるのに尽力していただかねばならない。
なんとか満足させるため会話を続行することにした。
「もしかして、この内容て無意識にわたしがジェイド先輩に恋しているゆえのドリームです?」
「……」
可能性ありそうな疑問には答えてくれないまま、満更でもなさそうにテレている。おい、なにテレてんだ。
いつもと違うジェイド先輩の反応にビビる。まぁ、夢だしなと納得している自分もいて明晰夢のようにも感じる。
とにかく我が愛しのジェイド後輩(?)と恋バナしなくてはならないらしい。さほど親しくない男とオンナノコらしい内容。再認識してみても、どういう状況よコレ?
「じゃあ、チョコ泥棒先輩はどうなんです?」
「……」
「そこは『僕もです』とか嘘でもいいから言ってくださいよ。先輩ちゃんと答えて下さいよ」
「僕は貴女に興味がありますよ」
「先輩から興味とかもはや恐怖ですね」
「菌類にしてやろうか」
たぶん、知ってるジェイド先輩なら言わない台詞。いくらなんでも、わたしのジェイド先輩に対する解像度低すぎないか。ジェイド先輩がおかしくなっちゃった。
「貴女はこれを普通の夢だと思ってらっしゃるんですね」
「えぇ、先輩がわたしに対する興味は決して甘酸っぱいものじゃないですから。よくて未確認生命体Xくらいのポジションでは?」
「そうですね。異世界からきたと言う点では、ほぼそこらへんにも劣る普通の存在ですし」
「なんで、いきなりボロクソに言われる??」
「ですが、夢として片付けるには惜しく感じませんか?」
蠱惑的な笑みを浮かべて近づく魔性秘めたその瞳が近づいた。
呆気にとられ咄嗟に動けない、覆いかぶさるようにふれた。
それは。
どうか僕をハジメテにして。
夢が覚めたら、あなたに。
◇
チュンチュン。
爽やかな朝。
見慣れた天井が瞳に映る。ベットから転がり落ちており転がる床は冷たい。体がバキバキ。数回目をパチパチさせながら起き上がり、場所を確認すると同じく見慣れたオンボロ寮。ベッドには爆睡中の相棒。
「……はぁぁ〜〜〜なんだ、夢か」
安堵のため息。
すごい夢だった。
突然終わってしまってオチがない。
オチとしては衝撃的展開。なんせ実在している知り合いとのラブストーリーだったもんだから、気まずいたらっありゃしない。夢の中で会話が成り立っていたので、もしかしたらもしかすると……本人に確かめるには恥ずかしい。
「ゆ、夢ということにしておきますか!」
無理矢理に思考切り替え二度寝しようとベットに潜ろうとする。
玄関のチャイムが鳴り、再びすべりおちた。
※※※
よろしくないものが生まれようとしている。
誕生させないようにソレに目を逸らし続けたのがいけなかったのか。僅かな関わりから積み重ねていたものは、どうにも抑えることができなくなってしまった。最初はとりとめない存在であったはずが、ある感情が加わってからがらりと違う。彼女は今まで出会った人間とは違う存在。もう一人のきょうだいと幼馴染で成り立っていた世界に、突如現れた。
最近苛々する。彼女に関わる者全てを、切り離したい、束縛したい、何処かに閉じ込めてしまいたい。自分だけを見てもらえるように自分だけを。熱にうかされたような激情。一方的で酷く歪んでいる。
それは、更に僕を。
この学園には、鐘楼がある。立ち入り禁止にはなっているが、部屋の一角を役職の特権を乱用して秘密部屋にして。ツルんでいるいつものメンツが集う場所でもある。自身を含めて目立つ存在でもあるので、薄暗いこの部屋は隠れ家にするのにちょうどよく重宝していた。
「聞きたいことがある」
きょうだいのフロイドに呼び出された。
理由がなくても普段からサボりの場所として使用しているので特別ともいえない空間。この場にいるのはふたりだけ。その他は誰も居ないある意味ふたりっきりの世界だった。
「ねぇ、なんでそんなにイライラしてんの?」
「……なんの話ですか?」
「しらばっくれんじゃねーぞ」
「フロイドやアズールを困らせることはしませんよ」
はぐらかす返答ではごまかせないとわかっている。正直その問いに言葉が詰まった。
歪んでいるかもしれない考え。それをこの気まぐれだが、勘の鋭いきょうだいは感づいたらしい。双子の感ともいうのか。
少し間をおいて続く問答。
「それは分かってんの。イライラの原因は〝こえび〟のあの子?」
ああ、見透かされている。
「……」
「前から聞こうかと思ってた。体育祭からこえびちゃんばっか観察してんの。授業中も休憩時間もメシ食ってるときも」
「フロイドの方こそ僕を監視しすぎです」
茶化す物言いでも問答はそらせない。
「監視してるとまではいかねーよ。こえびちゃんが他のヤツと接触しているとき、女でも男でもなんともないことで関わっていたり、会話していたりしてる時にさぁ、ジェイドの雰囲気が変わんだよ。不機嫌に。今までとは違うような気がすんの。錯覚かもしんねぇけど、あの子のことトクベツに想っているんじゃね?」
「そんなキレイなものではないですよ」
笑って肯定するほかない。フロイドには全部悟られている。的を射ている考えに反論しようも無い。自覚はしているからこそ、そのことで指摘されて自嘲するように笑みが溢れた。
「かなりヤベー方向ね。カワイソ、あのこは微塵も気付いていない」
自身から告げないかぎり、これからもアレは気付かないのだろう。そのことは分かっている。
「大丈夫です。迷惑はかけない。今のところ彼女にこの気持ちを伝えることはありません」
「いいの?」
「……えぇ」
「すこーしお兄ちゃんとして心配になっただけ。そこまで言うなら今回はコレはなかったことにしといて」
「信用していただけると嬉しいです。この件は解決したと?」
「ん。じゃあ寮に戻る」
「はい、僕も少ししたら戻ります」
納得していないきょうだいの顔は気にはなるが。どう転んでもきょうだいは自身の〝味方〟でいてくれる。自惚れでもある。僕が彼女に抱いている感情に疑問は沸くが否定はしていない。文句言うつもりはなくとも、その思いが〝いきすぎて〟周りを傷つけることになってしまう前にきょうだいなりの警告。せっかくの気遣いを杞憂にさせたいが、自身の我慢は効くだろうか。
溜息交じりに息を吐く。他の誰が気付こうが気付かなくてもどうでもいい。これは歪んでいる。間違っているかもしれない。そうなのかもしれない。
彼女が他の所へ行かないように、そう考えるのも駄目だ。
どうしようもないくらい苛つき。許せない。消してしまいたい排除したい。彼女の周りにそれが存在しているだけで気分が悪くなる。
まだこの理性を抑えられる。どうか、彼女は僕の隣に。
◇
胸焼けしそうだ。
平行世界の自分といえど我ながらどうかしているこの思考回路。好きを通り越したドス黒いその感覚は、甘やかなものに例えるには執着に傾きすぎている。
自分であり自分ではない。
どこかの世界の〝ジェイド・リーチ〟の精神に憑依している「ジェイド・リーチ」は少々ウンザリしていた。置いてきた世界はそれほど時は進んではないだろうが、憑依もどきのこの状態には飽き飽きしはじめている。最初は物珍しい状況と変化に、知っている世界とは違う差異に楽しんでいた。
だが、この世界での条件に関する物事がたいして変動しない。しかも、この世界のお相手はあのオンボロ寮の監督生。
緩やかに静かに狂気がはらんでいくだけで、お相手と何も進展ナシ。気づかせてやることも、ぶつけることも何もしないまま。傍目から見て両片思いには違いないのに、なんとまどろっこしいことか。
憑依しているジェイドは呆れながら、そう思っていた。しかし、どこかのジェイドに憑依しているだけでその体を操作することはできない。キューピッドになるつもりはないが、早く解放されたいので進展してほしい。
もしくはある条件を満たせば可能か?この奇妙な現象は「妖精のイタズラ」「条件を満たさないと出れない部屋」「条件を満たさないと解けない魔法薬の効能」に近く現象を、派生したものではないかと思ってる。
夢の類であるのだがこのリアリティある世界からして「異世界出身とされる数奇な運命を持つあのオンボロ寮の監督生」の何かが作用している?
トラブルの中心は常に彼女が関わっていることが多い。
それにしても、巻き込まれた自身と彼女はさほど濃厚な接点はないはず。可能性があるなら、自身の世界の彼女が自分に好意でも抱いているか……考えたが、ぱやぱや花が舞うボヤボヤの姿しか思い浮かばない。
(キーになるポジションにいることにはかわりないですよね)
目を覚ますトリガーをいまだ見つけれていない。
どうしたものかと考えながら日々は退屈に過ぎていく。
転機は訪れた。
憑依したジェイドがいつも通り偶然を装いながら彼女をストーキング中のことだ。自分の姿でストーカーする姿を見なければいけないのか。これが他の者ならおもしろいものを。アズールだったなら爆笑モノだ。それが、その姿が自分となると直視したくない気まずい、なんともいえない気分だ。
(そんなに欲しいなら早く既成事実を作ってしまえばいいものを)
だんだん、引きづられるように苛々していると。この世界の監督生が、放課後の教室で明らかに手作りチョコを貪っていた。シュールで切なくて苦々しい。彼女もこの[[rb:男> ジェイド]]に好意を抱いているのに、なんというザマ。
「つまらない展開だと思いませんか?」
気がつけば自由に動く体。
見るにも耐えない光景にトリガーがやっと作動する。声かけの反応を見るに彼女もトリガーにふれたようだ。なかなか長時間この世界に巻き込んでくれたものだ。
少しくらい強引に進展させてもいいと考える。
幸いこちらの監督生とジェイドの間で直接実行されることではない。
目が覚ます瞬間。
あちらに戻れば彼女に逢いに行ってもいいかしれないとよぎる。対面したその時に自身にも変化が訪れているならばーーーそう思ってしまうくらいには。
「監督生さん、よろしくお願いしますね」
※※※
目の前には片思いしていたリーチくんがいる。互いに驚愕の表情で硬直したまま。近すぎる顔の距離、唇に触れた柔らかな感触。すごくいい香り。爆発寸前の心臓。
(え?え!?いま、わたしたち!?)
先に我にかえったのはリーチくんで、まばたきしてから妖艶に笑った。
「こうしてちゃんとお話するのは初めてですね」
「ハ、ハイ、コンニチワ、ハジメマシテッ」
「申し訳ありません、手順が早まりました。突然ですがあなたをお慕いしています。結婚してください」
「あっ、はい………え、えええええ!?」
「決まりですね嬉しいです」
「えええまってえええええ!?」
二つの世界で、ふたりのこれからは幕が開ける。
end