短編


私がツイステッドワンダーランドという異世界に迷い込んでから、もう一年近くの月日が経とうとしている。

体感的にはもう何年もこの世界に滞在している気分で、そう思うくらいこの一年。次から次へと色んな騒動に巻き込まれた。命懸けの事件に学校行事に伝統行事、ゴーストに妖精に現代のモンスターマジモンに、良いも悪いも思い出はたくさん。最初にしかたなく与えられたオンボロ寮は、学園長との改善攻防と、こまめにした掃除で人が生活していける住居レベルに回復したり。魔獣の相方ともゴーストの住人とも色々あったが仲は良好で、今ではもう一つのマイホーム化としている。帰郷は諦めてはいないものの。この世界で最低限生活していくのには知識やら常識が必要だ。新しい記憶が刻みこまれるたび代償のように、月日が経つにつれ朧げになっていく記憶。ほんの少し〝もしも〟の時に備えて気持ちを整理し続けているのは誰にも言ってはいない。故郷への哀愁と、時折酷く悩む時がある。私は一体この先どうなってしまうのか。寂しさと、不安が募っていく日々。

悩んでばかりいられない。このままではダメだと、心機一転してバイトを始めることにした。これがあのモストロ・ラウンジでバイトする動機の一つだ。たぶん、なんでもいいからお金を得て生きていけるという自信が欲しかったのかも。モストロでのバイトは〝オクタヴィネル〟の方々と関わるということ。件のイソギンチャク事件を、知っている人達には止められた。本当の理由をぼかして、かいつまんで話せば渋々と様々な反応していた。勘のいい人たちは察してるかも。

あの場所で、私一人がバイトしてるわけじゃない。グリムも道連れにした。バイトの理由のもう一つは食費を圧迫。原因の大部分を担う奴が、寮でごろごろしているのは許さない。我が寮の方針は『働かざる者食うべからず』だ。バイト就労中に問題を起こさないとは限らないので、目の届く範囲に置いておきたいのもあった。グリムのイソギンチャク事件で鍛えられた皿洗いのスキルは健在のはずだと、私は見込んでいる。トラウマ持ちの嫌がるグリムを連れて、ラウンジに面接に来たのは記憶に新しい。結局、アズール先輩の口車に乗せられて一緒にバイトすることとなった。いざ働いてみれば、指導は厳しいなと感じる部分もあるが、不当な扱いは受けず、タメになる社会経験スキルがグングン上がるように感じた。正当な契約ならアズール先輩は、誠実に対応してくれるらしい。グリムがイソギンチャク時代とは大違いだと、美味な賄いを味わいながら言えば。

『正当に雇ったなら悪くしませんよ。あなたたちの働きもまだ未熟なものがありますが、思った以上に人手不足のなか役に立っているので、長く就労継続して頂きたいですね』

ニコニコ笑う支配人に、その要因の一部を担った私たちはちょっと怯えた。それを根に持って、待遇を悪くするとかはなさそうなので、経営者として変化したというのもありそうだ。
いまだに元の世界へ帰る方法はわからず、私のNRC生活は二年目に突入していた。

二年生に進級するさい色々なトラブルが起こり、そのトラブルの一つ。男子校で目立つの避けるためしていたなんちゃって男装、いわゆる性別バレイベントが起きてしまった。
 
色々大変だったが、名門校ゆえに一部反発されてあるものの、性別に関わる最悪なあれそれは、幸い起きてはいない。むしろ、私に対する嫌がらせ的なものはほぼ消え失せた。だからといって親切にされることはないけれど。手のひら返しの対応に複雑になったものだ。余計な部分で怯えなくてよかったと思うことにした。治安の悪いナイトレイブンカレッジだが、学園長曰く、この世界は女性に対する性別への暴力は大重罪なんだとか。基本的に女性には紳士的であれと、この世界の男の人たちは子供の頃から英才教育されている。お国柄や種族によっては、女性に対する接し方がさらにグレードアップするそうだ。性別バレ事件のあと、レオナ先輩に絡むことになっていつもより優しすぎて、熱を測る騒ぎをしたら、拳骨を落とされるという出来事が記憶に新しい。失礼なことしたら怒られるのは、男女どうのこうの関係ないと反省した。

「アンダーグラウンドが関わるところや、スラムといった治安が悪いところなど、ゼロではありません」
「こっちの世界にもあるんですね」

「悲しいことに、人族や種族が近い獣人族で起こることは稀にあります。それに、この学園でも血気盛んな学生たちがうじゃうじゃいます。血に迷った……なんてことがあれば、貴女もこの学園も洒落にはなりません。引き続き、そこら辺の警戒は緩めることはないように。しかし、性別バレの原因はこちらの責任なので、より強力な守護魔法に変えておきましょう。寮にはゴーストさんやグリムくんがいるとはいえ、いつも、ということはないでしょうし、戸締りはしっかりして防衛魔法が機能しないなんてことにはならないように」

「はい、わかりました。でも、〝今はなくなりました〟が、時間外の訪問などの判断の場合どうすれば?」
「それは、心配ありません。防衛魔法の中に、貴女に危害を加える者を判別する感知機能がありますので、貴女の許可有無に寮への侵入は弾かれます」
「す、すごい。さすが、学園長!」
「そうでしょう?そうでしょう!このくらい造作もないですよ!」
「とはいえ、今後オンボロ寮での合宿などは無茶振りは致しませんので、ご安心を。伏せていたとはいえ『年頃の男女を一つ屋根の下で生活させるなど言語道断!!』とトレイン先生派や、その手に厳しい生徒たちに怒られましたからね」
「そうですね。それもあってか、あの事件以来なくなりましたし」
「おや、意外と残念そう、いえ、寂しそうですね」
「そ、そういうわけじゃないです!」

性別バレ事件の主犯は、このわざとらしい口の軽い仮面の男のせいなのだが、そこは目を瞑って感謝しておく。それまで普通にバレていなかったのに。なんで口滑らした。それにしても、話の流れからして今までは緩々なセキリュティだったのかと、また複雑になった。

それは置いといて、一つ激変したことがある。親しい知り合いたちは、なんだかんだ受け入れてもらえてホッとしているが、少しだけ性別の距離を感じるようになったりして、寂しかったりする。

『お、こんな時間か。じゃあ、監督生。オレら帰るな』
『えっーと、まだ早いんじゃない?まだ日が暮れてないし』
『それもそうなんだが、僕らの寮長がそこら辺厳しいんだ』
『監督生相手にどうのこうのはねーけど、女の子だったつーのはみんなそれなりに衝撃だったからねぇ。バレたてホヤホヤで、ピリピリしてんの。その内緩くなってくから気にすんな』
『う、うん』
『じゃあ、監督生。また明日』
『また、明日』

それまではバレないかどうか騙してることに、良心がキリキリしていた。バレてからは受け入れもらえて嬉しかったけれど、突撃真夜中の訪問も強化合宿やことあるごとに訪れる訪問も、私の性別に配慮してのことか、なくなってしまった。学校や放課後では普通に話すし、あいかわらずトラブルに巻き込み巻き込まれだが、時折ふと見えない一線を感じるようになった。
ことごとく強調される〝女の子だから〟トクベツ扱いなんてしなくていい。前みたいに気軽でいい。それを彼らに言うつもりはないが、あの荒々しい日々が恋しかった。

「いずれ自分は元の世界に〝帰る〟身ですし〝そうでなくとも〟成長すればお互いの結婚とかで、疎遠になる場合もありますし。関係性の離別が早まっただけのことです」
「監督生くん」

 いつかは訪れるだろう変化の一つとして、割り切ろうとはしている。

「いっそ青春の一つとして、誰かと交際するというものもいいかもしれませんよ?」
「えええ!?」

 いきなり何を言い出すだろう。この大人。警戒を怠るなて、さっきまで忠告していた人の提案としてどうなんだ。慰めなのかこれ?

「風紀を乱せと、言っているんではありませんよ」
「そう言っているようなものでは?」
「恋愛禁止。若者というのは禁止にすればするほど、したくなりますからね。このナイトレイブンカレッジは名門校ですがそれが顕著ですし」
「なに、さらっと認めてるんですか!?そう思うなら、もうちょっとどうにかなりません!?」
「そううまくいかないのがこの学校です!ゴホンッ、私が言いたいのは節度のある男女交際なら黙認されるということです。あ、私がこう言っていたのは、他の先生方に内緒ですよ?」

 露骨な口止めをしてきたが、この人のノリの軽いところが話しやすい点でもある。でも、残念に変わりがない。

「つまり、健全なお付き合いなら、怒られないと?」
「はい、そうです。ナイトレイブンカレッジは男ばかりしかいませんが、基本的に結ばれてカップルになると、小鳥は囀り動物たちは集まり全力で祝福されるので、恋愛には寛容なんですよねぇ。まあ、それとして教師としては不純異性交遊はなるべく避けてほしいとだけ」
「その祝福のされ方、思春期としてはめちゃくちゃハズいんですが!?そっとして置いて」
「で、実際のところ、どうなんですか?この学園で唯一の女子として、一人や二人アプローチされたのでは?私、気になります!」
「学園長、それ普通にセクハラです」
「セ、セクハラ!?」

年齢不詳のオッさんが体をくねらせて、恋バナもどきかましてくる現実に、ちょっと現実逃避。何が悲しくて学園長とそんな話せにゃならんのです?これも私の寂しさに対しての、この人のフォローとしてもこれは無い。

「いませんよ。前よりは優しくなりましたけれど」
「えぇ?一人も?」
「はい」
「監督生くん、これからです。いつか、貴女の良さをわかってくれる方がいますよ?」
「その慰め方、ハラタツんでやめてくれます!?」

謎に終わった学園長の話し合い。結局あの人が何をしたいのかわからなかった。やっぱりこの学園の人々は変わっている。



「監督生さん〝お付き合い〟してみませんか?」
 
植物園の一スペース。部活動に勤しんだあと採取した植物たちを仕分けしてる最中、キノコ片手に持ったジェイド・リーチ先輩に、それを見ながらしみじみと軽いノリで言われた。それに自分は、ギョッとして手に持っていたものを落としそうになる。

「いきなりどうしたんです?ジェイド先輩」
「〝陸のお付き合い〟とはどういうものなんでしょう?」
「どうって、言われましても」
「最近、陸の高校生のお付き合いともいうものに興味はありまして、監督生さん、一応女性ですよね。ちょうどいいので僕とお付き合いしませんか?」
「ときめかない交際の申し込み!毒の花渡されないだけマシかな!?」

性別バレ数週間経ったある日の部活動。周りの態度が変化して、ちょっとまいっていた頃。ジェイド先輩が爆弾発言をかました。

オンボロ寮の監督生こと私は、オクタヴィネル寮の三人組との仲は良好だと思う。知り合いになる経緯は、それはそれは複雑ではあった。騒動終了後、先輩たちは露骨にそれを表すことなく適度に接してくれている。バイトも継続中だ。
あの事件以降関わりがなければ、遠からず近からずのそのままだったとも思うけれど、私の巻き込まれ体質と、次から次へと起こる出来事で、接触と協力することも多く親しい先輩枠になっていった。特にアズール先輩とフロイド先輩は、なにかと構いに来てくれたのもある。調子に乗ってつつくと、怖かったけれど。
ジェイド先輩はイソギンチャク事件から始まりスカラビア事件を経て、なんだかんだ話すようになったが顔見知りの知人といった関係だった。それが変化したのは、ジェイド先輩が活動する部活動のお誘いで、食材に釣られ入部して、結構仲の良い先輩と後輩の関係に変わった。週の活動は少ないが、部活のつながりで上級生と直接の関わりは、人間関係に変化を与えた。部員がジェイド先輩と私しかいないけど。学校生活や、アズール先輩とフロイド先輩のおもしろセレクションは話してくれるが、自分のことはあまり話さない人だと思っていた。それも日が経つにつれ関わっていくごとに、認識は改め直されたけれども。

(いい認識に変わりつつあったのに、考え直したくなる)

ニコニコと笑っている男の姿を見つめた。好奇心に満ちた表情で彼は言うので、それを見てロクでもない動機だなぁと思った。この世界の紳士的な性質は、ジェイド先輩には当てはまらないのだろうか?でも、先輩の普段の振る舞いは紳士的に見える。恐ろしい擬態。

「陸て強調してますが、海では交際経験があるということですか?」
「ふふ、さぁ?どうでしょう?」

この誤魔化し方は、幾度もこの先輩との会話で心辺りがある。絶対に喋ってくれない流れだ。こりゃ、人魚の女の子が泣いてそうな案件。恐るべし魔性の人魚。ロクでもない動機とはいえ、こんなイケメンに告白されるビックイベント、後にも先にもこの一度限りのチャンスとも思うけれどーーー絶対めんどくさくなるやつ。学園長からGOは出ているものの、私にそんな気はない。思春期なので男女交際には興味もなくはないが、ここは男子校である。普通に駄目だろ。こう気軽に付き合っていいものか、というのは建前である。

「返事は?」
「うーん、でも……やっぱ嫌です」
「おや?かなり迷ってらっしゃる?」
「今の状況でちょっと」
「〝今〟のタイミングがダメだということですか?」
「タイミングだけの問題じゃないんですけどねぇ」
「交際自体に不快感はなさそうな反応だと思ってるのですが、僕とは嫌ですか?」

(なかなか、引いてくれないな)

なんて卑怯な表情。
私がこの先輩の困り顔に弱いことを看破されてる。このままなし崩しにお付き合いに持ち込まれそうだ。そういえば、フロイド先輩から何かの拍子で、ジェイド先輩の方が我が強いと聞いたことがある。好奇心が満たされるまで、玩具にされるんだろうか。それは、ヤだなぁ。今の関係は気に入っているし、ただでさえ周りの態度の変化でダメージ受けているのに、自ら首絞めるようなことしたくない。男女関係なんてもっとも拗れたらややこしくなるやつだ。
しかたがない。
ここは素直に本音を話して、エース曰く監督生のマジレスとやらで引いてもらおうか。

「私は単純なんです。先輩と付き合って優しくなんてされたりしたら、本当に好きになってしまうのでそれが嫌なんです」
「それは」

わざとらしいいつもの驚き方じゃなくて、本当に動揺したような様子だった。ああ、この人も一応年相応な反応するんだな。
私が女だと発覚しても、バレる以前とあまり態度が変わらなかった一人だ。配慮はされるんだけれど、他のみんなに対する寂しさは感じられないというか。なんていうんだろう?ジェイド先輩には少なくとも、実験対象に見られてる可能性ある。フロイド先輩は、なんかペット枠に見られてる気がするんだよな。でも、ツノ太郎とかリリア先輩とか妖精族も似たり寄ったり。あの人たちは、実年齢が違いすぎるのもあるのかな。あとは、ルーク先輩とかオルトくんとかカリム先輩とか、変わってたり、細かいこと気にしないタイプは疎外感を感じなくて済んでいる。

「好奇心を満たすか、思った以上のものが得られなければ、あなたは私との交際どうしますか?」
「………」
「先輩は予定調和が嫌いだと前に話してくれましたね」
「えぇ」
「私は根本は普通なので、フロイド先輩やアズール先輩みたいにエキセントリックな日々を提供できないと思うんです。一週間もすれば飽きます」
「その断言するところが、もうすでに面白いんですが」
「人をエンターテイメントに扱わないで下さいよ。もし交際強行して、先輩に飽きて捨てられたら、私はものすごく落ち込みます。最悪、この世にいないと思って下さい。先輩だってせっかく確保した部活の後輩が、好奇心でいなくなるのは嫌でしょう?」
「途中から脅しになっていませんか?想像の中の僕、最低すぎません?それ以上に監督生さんが僕に意外と好意的だと驚いているんですが」
「イソギンチャク事件以来、性別関係なく優しく接してくれてるので嫌いとまではなりませんよ。性格は悪いなぁて、今もしみじみ思いますけど、今の適度な関係を気に入ってるんです。先輩は以前と変わりなく接してくれたから」
「監督生さん」
「嫌とかじゃなくて、親しい先輩として好きだから、この関係を壊したくない。この弱い人間を見逃してくれませんか?」
「別にそこまで追い詰めてるわけじゃ、僕は貴方に失礼なことをしてしまいましたね。この件は今はなかったことにして頂けますか?」
「もちろん!」
「そう勢いよく、返事しなくても」

よし!
どうやら、ジェイド先輩の良心らしき部分を刺激できたようだ。諦めてくれてよかった。割と失礼なこと混ぜ込んこんだけれど、笑顔の圧が強くなるだけで怒らないんだよね。

「こんなフラれ方は初めてですよ」
「妙に嬉しそうな反応が怖い」
「監督生さんとは、これからも〝仲良く〟やっていけそうですね」
「手加減お願いしますね。で、先輩は交際経験あるんですか?」

誤魔化されて曖昧にされたが、艶やかなプライベートは知らない。そーいう話はやっぱり気になるお年頃……だって、知り合って仲良くなる人たちは、飛び抜けて容姿端麗な方々。性格は問題ありだけど。

「聞きたいですか?」
「アッ、ヤッパリ、イイデス!」

自分から話してくれる時以外は、つつくのやめとこ。


※※※


お付き合いどうのこうの騒動から数週間。
あれを交際の申し込みにカウントするには、妙に抵抗があったり。
ジェイド先輩はなにもなかったように振る舞うのですっかり忘れていた。

その矢先に事件は起こった。

今日は、モストロ・ラウンジの一般解放日を兼ねたクソ忙しい休日の夜。
キッチンもホールも人手は足りない。従業員はピリピリしていて怖いけれど、今日はジェイド先輩も機嫌の悪くないフロイド先輩もいるから、難なくはけそうだ。私は忙しさで目が回りそう。
出稼ぎに苦手なホールバイトをなんとかこなす。道連れにしたグリムも、全手動皿洗い機と変貌していることだろう。この忙しさを乗り越えたら美味すぎる賄いが出るので、もう一息頑張ろうと思える。グッと足に力を入れ、7番テーブルへと料理を運ぼうとした。

監督生は見た!

「ねぇ、お兄さん。この後予定、空いてないかしら?」
「申し訳ありません。そういったお誘いは規約によりお断りさせて頂いているんです」
「つれないのねぇ、楽しことしましょ。そういうの興味がないの?」
「学生の身分ですので、校則違反にもなり得ます。ご勘弁を」
「若い男の子っていいわねぇ……ふふふ」

同じくホール担当のジェイド先輩が、ナイスバディな美女にナンパされてる!
しかも、このおねーさん。かなり酔っ払っているのか、しつこく先輩に言い寄っている。これ見よがしに、柔らかそうなおっぱいをジェイド先輩の腕へと擦り付けていた。う、うらやまけしからん。同じ気持ちなのか、別の方向から同じくホール担当のオクタヴィネル生が羨望の眼差しで見ている。いや、嫉妬している場合じゃねぇ。モストロ・ラウンジは一般の大人や学校の先生向けに、許可を得てお酒も取り扱っている。その規約に一般客やお酒絡みで問題を起こせば、ラウンジは業務を停止せざるおえない。ジェイド先輩がヘタ打つと思えないが、この状況まずいのでは?

「あはっ、ジェイド。ナンパされてんじゃん」
「フロイド先輩!」

キッチン担当のフロイド先輩が、いつの間にか真横に立っていた。腕組んで、楽しげにその光景を眺めている。悠長に何を眺めているんだと言いたいが、フロイド先輩も双子のイケメンなので止めに入るのは適任ではなさそう。ダブルでお持ち帰り……と若干シモな想像をしてしまうのは、お年頃な男子高校生たちに適応してしまったからか。ちゃんとした接客も、アウトローな接客できる頼りになる先輩に指示を仰ぐ。

「ど、どうするんですか?」
「よくあることだし、ジェイドならうまくやるでしょ」
「よくあること!?」
「小エビちゃんが、間に入っても邪魔するだけだし〜普通に仕事に集中しな」
「は、はい」
「それと」

気になる光景ではあるものの、手出しは無用と言われればそれまで。仕事が滞っては別問題が浮上するので、大人しくその忠告に従う。一瞬のことだった。フロイド先輩が少しイタズラを思いついたような表情で笑っている。

「小エビちゃん、あれ見てなんとも思わねーの?」
「?ちょっと羨ましいと思ってます」
「へぇ、ちょっとはあるんだねぇ」
「ジェイド先輩羨ましい」
「えぇ、そっち?うわぁ、ジェイド脈なしじゃん」
「ジェイド先輩は興味無さそうですよね。すごい精神だ」
「そういう意味じゃねぇんだけど」

初めて見る知り合いの女性絡みに、思春期の心はドキドキ。自分の色恋沙汰は不得意だが、他人の恋愛事情は普通に気になる。人並みに興味も経験もあるのだろうに。お姉さんの誘惑は、スマートにお断りしているし。

(そいーや、血迷って自分なんかに、告白まがいなことをしてきた人だしな。あれを見ると、陸でもモテそうなのに)

それから、忙しさは賄いが出るまで続いた。

待ちに待った賄いタイム。

「ジェイド先輩!あのボインなおねーさんと、どうなったんですか!?」
 タイミングがあったので、玉砕覚悟、野次馬根性でジェイド先輩に聞いてみる。思春期特攻をかますことにした。
「おや、監督生さん。興味がおありで?先程の女性なら、丁重にお帰り頂きましたよ。えぇ。丁重に、ね」
「意味深すぎる言い方」

美味しい食事に舌鼓打ちつつ、先程の気になることを聞いてみた。ジェイド先輩は、フロイド先輩が作った賄いを平らげながら、次から次へと食器が空にしていく。この場に彼と張り合えるのは、同じく大食漢のグリムだけ。

「ぶふっ、ゴホゴホッ」
「アズール、きったね」
「ジェイド!あれほど、女性関係で問題を起こすなと言っただろう!くれぐれも僕を巻き込まないように!」
「冤罪です。アズールは僕のことを疑いで?悲しいです」

VIPルームで仕事していたアズール先輩も、フロイド先輩に連れ出され食事を摂りにきていた。私たちの会話に噴き出してる。その一連の流れに、フロイド先輩が普通に酷い言葉をはく。ジェイド先輩を訳ありな言葉で叱るアズール先輩は、いつもの敬語口調が崩れていた。

「アズール先輩がわざわざ注意促すくらい、頻繁にあることなんですか?」
「昔からこの二人は異性を惹きつけるんですよ。人並みに交際経験はあるんじゃないですかね。なのに痴情のもつれに僕をダシにして巻き込まきこむのでいい迷惑です」
「オレ、今回カンケーねーじゃん」
「お前も大概ですよ」
「あ〜なんかジェイド先輩て、女の人に『アズールと私どっちが大事なのよ!?』て言われたら、アズール先輩て言いそうな感じがしますもんね」
「やめてください。気色悪い。その前になんですかその具体的な妄想」
「ああ、ミドルスクールの時にありましたよ。あの頃はアズールをつつくのが楽しかったので優先させていたら、そんな言葉を吐かれました。酷い話です」
「リアルにあったんですか!?」
「ジェイド。待ちなさい。初耳ですよ。だからあの時、知らない女から平手打ちを食らったのか!」

教えてくれるかわからないものの、好奇心のまま尋ねてみると意外と答えが返ってきた。今日はタイミングがよかったというより、ペラペラ喋るフロイド先輩と、詳細を詳しく説明してくれるアズール先輩が居てくれたからかも。これがマンツーマンになるとはぐらかされたりするからな。
愚痴めいたものを感じて、想像できると思っていたら実際にあったことらしい。それもアズール先輩の預かり知らぬところで行われた出来事だったようで、アズール先輩不憫。

「あーあった。そんなこと」
「ゴースト事件でプロポーズ失敗してたのに、ジェイド先輩もフロイド先輩も交際経験はあるんですね」
「向こうからつきあって言うから、付き合ったらすげぇ文句言うし。なんかめんどーだった。でもさ、親父に女の扱い方は学んでおけとか言われんだよねー」
「女性関係は家の方針で学習済みですよ。男女関係は問題が多いので学んでおけと父に言われまして」
「家狙いとか、遺伝子目当て寄ってくる女もいるかんね」
「先輩たちのお家て」

前に自営業とか言ってたが、やっぱヤベェ雰囲気。マのつく自営業ではないですよね??海の世界て怖いなぁ。でも、先輩たちの女性関係、そこまで爛れていないんだな。妙に色気のある方々だから、凄そうなイメージが常にあったんだよね。それとしてフロイド先輩の返答に、エースの交際経験話を思い出した。バスケ部ぅ。

「結構アレだけど、まともそうですね。ジェイド先輩、裏でバレないように操作して何股してそうだと思ってた」
「おや、おや?監督生さん、前々から気になっていたのですが、僕のことどんな風に思ってらっしゃるんですか?」
「ぎゃははは、ジェイドヤベェー」
「フロイド先輩は日替わりで女遊びしてそうだと思ってた」
「はぁ?絞めんぞ、小エビィ」
「アズール先輩は、胡散臭いけれど誠実そうですよね」
「アズールだけ、何アゲてんの?」
「いいえ、フロイド。僕の批評も大概ですよ。どうやら喧嘩を売りたいらしいですね。その喧嘩買いましょう」
「ごめんなさい」
「アズールにだけ妙に素直なのが癪に触りますね」
「お前たちはここぞとばかりに、僕を落とそうとするな!」

ジェイド先輩にもフロイド先輩にも素直に接してるはず。ストレートに失礼な感想を述べれば三者三様の反応が返ってくる。
先輩たちて仲良いよなぁ。ビジネスなんだの言ってるのテレ隠しに聞こえちゃうよ………素直に認めればいいのにな。それは口が裂けても言えないけどさ。やいやい騒ぐ一つ年上の男の先輩たちの姿は、側から見れば年相応な男子高校生のそれだった。この中に入っていける女の子ているのかな?微笑ましい気持ちで眺め、大皿にある一品を取り咀嚼する。美味しいご飯が疲れた体に染みる。もうすっかり胃袋掴まれていた。気になる疑問も解決したし、料理を味わう。

「ふーん、だから小エビちゃん。ジェイドのことフッたんだぁ。ちょっとはイメージ変わった?」
「ゴフッ」
「フロイド、その話は」
「おい、待て!その話も初耳ですよ。なんですか!?そんな面白い話!」
「あぁ、子分!もったいねーんだゾ!」

フロイド先輩のフリに、今度は私が噎せた。食い物に齧りついていたグリムに咎められるザマである。アズール先輩は途端に生き生きしだした。ジェイド先輩とアズール先輩てお互い乏し愛しすぎ。

(これは、どーいう返事返せばいいの?)

先輩の恋愛事情にツッコンでみたら、軌道修正したのにまた妙な展開になってしまった。

事の経緯は、フロイド先輩がペロッと喋った。割と丸っとだったのでは、ジェイド先輩は詳細話すぎでは。最初の諌める言葉以外そのまま止めずに、曖昧に微笑んでる。何か言って。気まずい。
聞き終えたアズール先輩は一言。

「ジェイド………お前、普通に最低でしょう」

元悪徳詐欺まがいやってて、胡散臭いと判断されがちのアズール先輩は、ここら辺の作法に対しては妙に厳しく誠実な部分があるらしい。先輩たちは家がらみが含まれてるみたいだが。

「だよね〜、タイミング最悪じゃね?」
「散々な言われようです。しくしく」
「フォローしようがない。監督生さん、申し訳ありません。これはモストロのサービス券です。後日改めて謝罪に伺います」
「折り入った謝罪はやめてください!?」

アズール先輩にしろ学園長にしろ、妙に引っかかる態度。こちとらそこまで気にしてねぇんだよ。なんとか微妙な流れを変えようとするが、妙にテンションの高いフロイド先輩が話題を変えてくれない。ご機嫌から不機嫌にアンタッチャブルする恐れがあるので身動き取れず。こっちから突っ込んだとはいえ、まさか告白もどき事件を掘り返されるとは思わなかった。
その空気にまさかのダークホースが燃料を投下した。

「人間のあれこれはわかんねぇが、気晴らしにツキアイてのっやってみたらいいんだゾ。こいつ、女てバレてから、エースたちの素振りに落ち込んで辛気クセェんだ」
「グ、グリム!」
「ああ、通りでギクシャクしてると思えば」
「みーんな、小エビちゃん相手に気にしすぎじゃね?」
「こら、フロイド。事実だとしても配慮するものですよ」
「その会話が最も配慮してないんだよなぁ」
「監督生さん、現状に不満を感じているなら。変化をつけてみてはいかがです?」
「えっと、どういうことですか?アズール先輩」
「この好奇心旺盛なウツボと付き合ってみれば、各方面に衝撃を与えるのでは?あなたの周りに過保護な方達が多いですからね。心配で気にしている距離感なぞ吹っ飛んでしまうんじゃないでしょうかね?」
「変化ありますけど、劇薬すぎると思うんです。なにせジェイド先輩ですし威力が」
「え〜でも、小エビちゃんジェイドのことは嫌いじゃないんでしょ?あ♡ そうだ。オレでもよくね?面白そうだし、飽きるまでなら付き合ってあげる〜」
「フロイド先輩、明日には別れるて言いそうですよね」
「ちょっとこっち来いよ小エビィ」
「何も言っていないのに散々僕のこと扱き下ろしすぎでは?」
「ブーメランで返ってきてるだけです」

散々好き勝手に言い合いながら、その日のバイトは終了した。
具体的な提案をしてきたはものの話のタネになっただけで、妙に進展するとかはなかった。ジェイド先輩も、たびたび無言になっていたが快く答えてくれていたし。特に何も起こらなかった。
確実に騒動のタネは巻かれていて、この学園でこのまま何も起こらないわけがないと、私は失念していたのだ。



「期限を設けてみませんか?世間体が気になるのなら、バレずに交際する方法はいくらでもありますよ。監督生さん〝お付き合い〟してみませんか?」
「アプローチの仕方、間違っていませんか??」

今度は部活動の終わりかけ、先輩が二度目の交際を申し込んできた。不意打ちでリベンジしないで欲しい。

「あれから、監督生さんの返答を真剣に考えた結果。僕のこと誤解しすぎだと思うんです。このままでは男として名折れ。名誉挽回の機会を与えてくださいませんか?」
「その台詞だけで遠慮したくなるんだよなぁ。そもそも、なんで自分を指名するんですか?」
「曲がりなりにも、フラれて火がついたというところでしょうか?僕も思春期なので」
「陸の交際に対する好奇心から、自分に対する対抗心に変わってません、それ??」

馴染みのある所作で困った表情を浮かべるジェイド先輩は、どことなく意気込みがある。前回よりは熱量を感じられるのに甘さのカケラもない。甘さを求めていないけれど、もう少し夢見させて欲しい。先輩のスペックは申し分ないのに、盛大にアプローチ仕方が間違ってるせいで、乗っかるにはセーブしてしまう。

「不毛なやりとりが永遠に続くと思って、こんなものを用意してきました。保険に忘却魔法薬でも掛けて置きますか?監督生さんの単純さなら抜群に効きますよ」
「おっと物騒なもの持ち出してきた。て、その忘却薬はジェイド先輩製ですか?」
「いいえ、アズール製です」
「そんなしょうもないことで取引したんですか!?対価どうしたんですか!?」
「フロイド関連のことで契約を結びました」
「アズール先輩製なら効果は抜群ですね」
「僕も魔法薬の腕には自信がありますよ」
「アズール先輩にも対抗しないでください。忘却剤まで持ち出してきて、何をするつもりなんですか。怖い。普通に怖い」
「僕のこと好きになって飽きて捨てられる幻想を抱くのなら、これを所持しておけばいいのではと思いまして。だから、安心してお付き合い下さい」
「どこに安心できる要素が?あの、自分じゃなくてもこの前のお姉さんみたいに、陸でもよりどりみどりだと思うんですけど」
「相手の容姿はそこまでこだわっていません。見た目は美しくても中身が面白くなければ退屈ですから。監督生さんは、見た目は可愛らしい方だと思いますよ」
「な、中身も普通ですよ!?それに好きだとか言わない人とかちょっと」
「嫌ってる相手に交際を申し込みません。いい加減折れてくれませんか」
「責められてる!?」

私の手を取って小瓶を握らせてくる、ジェイド先輩は自信に満ちていた。イライザ姫がビンタしたくなる気持ちが少しわかった。中身を知らなければ小瓶は普通に可愛いのに。
彼の眼差しに既視感を覚え、記憶を探ると心当たりが一つ。この反応、趣味を楽しんでいるときの反応だ。差し詰め、これは栄養でも与えているというのか。アズール先輩と取引してまで、こんなもの用意するとは思わなかったけど。飽き性のフロイド先輩ならともかく、この状態のジェイド先輩が諦めるかというと、時間がかかりそうだ。悩むのもめんどくさくなってきた。ええい、どうにでもなれ!

「わかりました。ジェイド先輩の好奇心に付き合う変わりに、こちらから条件を提示します。交際期限一か月と期間を決め、それまでにジェイド先輩が楽しめなければ短縮可能で。世間体のため交際は極秘で。まぁ、グリムとかアズール先輩とかフロイド先輩あたりなら説明しといても」
「監督生さんのメリットの提示がないと思いますが?」
「ジェイド先輩に特に何も求めてないので、強いて言えば今まで通りでいいです」
「それは、付き合う意味があまりないのでは?」
「健全なお付き合いであれば十分だと思います。え、もしかして、性的絡みの好奇心もあったりするんですか!?それなら、お断りを」
「ああ、安心してください。貴女にそんな気を微塵も感じたことはないので」
「安心する気持ちと腹たつ気持ちがシャッフル!!」

男女が付き合うというのには可笑しな条件だらけで、一ヶ月の交際もどきの日常が始まった。
きっと、色んなことが重なって、私は寂しかったのかもしれない。だから、先輩が好奇心で提案した『お付き合い』に了承したのも。一度は断ったものの、先輩が私を『女』として好きになることはないだろうなと安心していたのも、あったのかもしれない。

「ということで、ジェイド先輩とお付き合いすることになりました。グリム、うっかりエースたちに口滑らせることはないように」

夜寝る前に今日あったことをグリムに報告する。一応交際ということで、オンボロ寮に訪れる頻度が増えると言っていたからだ。ジェイド先輩が〝彼氏〟になった現実にイマイチ、ピンと来ない。

「それって、手土産はあるのか!?」
「ジェイド先輩のことだから、手土産持参してきそう」
「うまい食いもんくれるなら大歓迎なんだゾ!」

バイトし始めてすっかり餌付けされてるのか、グリムはそれほどオクタヴィネルを怖がらない。相棒が協力的なら助かる。

(ちらほら、ジェイド先輩の有能っぷりは耳に入ってくるから用意周到そう)



朝目覚めたら、同じ部屋にいるグリムがいなくて珍しい。腹でも減って、何か盗み食いでもしてるのだろう。制服に着替えてキッチンへと向かう。香ばしい、いい匂いが漂っていた。
そこにはいつもの身なりをキッチリしたジェイド・リーチがにこやかにエプロン姿で佇んでいる。朝っぱらから幻覚を見えはじめたのかな?

「おはようございます。監督生さん。早く席につかなくては、なくなりますよ?」
「え?はい?」

手をひかれ、いつも座っている私の席へと案内させられる。いち早く食卓についてるグリムは、ものすごい勢いで貪っていた。並べられて料理を紹介する先輩は、飲み物はどうするかと聞いてきた。本格的なフレーバーを上げながら、わかりやすいミルクティーを選んだ。ジェイド先輩の淹れた紅茶はどれを飲んでも美味だ。

「お味はいかがです?」
「お、おいしいです!その前に、先輩はどうしてここで料理を振る舞ってるんですか?」
「何を言っているんですか、昨日の夕方から貴女と恋人関係になったでしょう?」
「あ、そっか」

まだちょっと寝ぼけてらっしゃるんですね。と、暖かいお湯で絞られたタオルで顔を拭われる。飛び跳ねた髪の毛も、ササッとクシを入れられて私の身嗜みも整えられた。ボッーーーとする頭で、朝から凝った料理を頂けるし、座ってるだけでお世話してもらえるなんて、交際ていいもんだなと、思ったところで自分にビンタを食らわせた。

「目を覚ませ!私の知ってるティーンのお付き合いじゃないぞ!?」

交際翌日に、朝から優雅におもてなし。彼氏が家(寮)に上がり込んで至れり尽くせりなんて、世間一般の交際と大幅かけ離れている。その前に、寮玄関の千錠はしているのでどうやって侵入したんだ。わかりにはわかりきっていたことだが、とんでもねぇ男と交際し始めてしまった。

期限一ヶ月。

自分で提示しといて長すぎたと戦々恐々と頭を悩ませる。こんな調子で過ごしていたら、終了する頃にはダメ人間まっしぐらになりそうだ。もうすでにダメ毛玉に変化しそうな相棒の姿に、自分の姿を重ねた。

モストロの副支配人に、副寮長の仕事に、勉強に、山を愛する会の活動に、彼は他より優先させることがたくさんある。先輩ならそれを押さえても、両立させそうではあるし、現に形容範囲だと言っていた。人外ぶりの高スペックだ。いや、正体は人魚だけど。オクタヴィネル寮からオンボロ寮への距離もなかなかのものだし、それを毎日とか正気の沙汰じゃないので、せめて週に一回にしてくださいとお願いした。これで過労されて倒れられたら、アズール先輩になんて言われるか……。この場合、ジェイド先輩の自業自得?いや、これきしのことで弱ってるジェイド先輩が想像できない。体調管理徹底しそうだし。

「僕の体調を心配するなら、オンボロ寮へ下宿するというのは?」
「隠す気あります?」
「冗談です」
「笑えねぇ」
「オンボロ寮への時間範囲以外滞在は、貴女が女性とバレてから暗黙了解となっていますのでその選択は致しませんよ」
「それでお願いします。あ、この前、学園長に風紀乱さない健全なお付き合いならOKもらいました」
「それはそれで、いいのでしょうか?」
 
突拍子のない行動を起こすジェイド先輩も、そこは疑問に思うらしい。


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