満たす条件はノーマルエンドから
ジェイドは見送ることができなかったので風の噂で聞いた。
「ああ、帰れたのか」
それを聞いたときはと感じたが、寂しさも悲しみも感じていない。彼女を連想させるモノに触れたとき、懐かしく思いだしたりはするかもしれない。誰かと結婚して子どもができて、学生時代や自分の子どもの頃を話してあげるときに。ウソかホントかわからないみたいに話してやったり。普段のジェイドなら与太話だろうと片付ける子どもも、父親がまた一味違って、それらを無邪気に楽しそうに話すものだから、珍しいと驚き。
「学生の頃、異世界から来た人間と関わったことがある」
「その人間のことが大切だったんだね」
話ぶりを聞いた感じで、何気なく思ったままに感想もらす。それを聞いたジェイドは豆鉄砲を受けた表情で硬直。それでようやく、ストンと、監督生に対してある種のトクベツな感情を向けていたことを自覚する。
「あの人のことをまだ忘れていないのか、僕は」
記憶にある姿は朧げだが、たしかにその人間といた日々は大切な記憶の一つになっていた。
元の世界に戻れた元監督生はとても大変だった。このまま生涯独身かと思いきや、縁がありある男性とお付き合いしてそのまま結婚した。子どもにも恵まれ、不思議な世界に迷いこんだ話をしたりして、そこであった魔物の相棒やゴーストや魔法の使える人々やドラゴンの友達に個性的な人魚たちを。童話みたいに話して思い出が風化していないことに安堵したり。
他の先輩たちにお別れできなかったのが残念だなと思いつつ、日々子育てや生活に奔走する。昔のことを忘れないためなのか、彼らを連想するものをついつい目を追ったり思いだしたり選んだりする。その中でも一際〝海に関するもの〟が多くて、何かの拍子に子どもに指摘される。
「お母さんは、海が好きだね」
「え、そうかな?」
元監督生は首を傾げるけど自分の周りを見渡すと。所持している映画のDVDとか海が題材のものがほとんどだったり、どこか行くとしたら水族館とか水に関係する場所だったり、選ぶやつのものがことごとく偏っていることに気づく、自分はこんなにコレが好きだったんだった、かと。自分の趣味ばかり家族に押し付けていたかもと思うと同時に疑問に思う。そんなある日。人魚が出てくる映画を子どもと見ていて、雑学みたいに妙にリアリティのある人魚の生体を、楽しそうに話す母親に子どもは笑う。
「そういえば小さい頃、お御伽噺を話してくれたよね」
「特に人魚の出てくるお話が好きだったよ」
「出てくる人魚が性格悪いのにきのこが好きだったり、なぜかテラリウムが趣味だったり、箒で空を飛ぶのがヘタクソだったり癖が強すぎて覚えているの」
話す内容がジェイドを指してる要素ばかりで、元監督生はちょっと恥ずかしくなってしまう。アズールやフロイドだっているのに、ジェイドことばかり選んで話していたからだ。
「もしかして、その人魚。昔のお母さんの好きな人のカモフラージュだったり?」
最後に揶揄い顔でお父さんには内緒にしといてあげるて言う子どもに、元監督生はそれを聞いて否定できずに納得してしまう。好きかどうかはわからない。明確な感情ではなかったけれど無意識にジェイドとの思い出を話してしまうくらい、彼女にとって彼は特別だったらしい。これからも、彼に関するものを見つけるたびに、彼女はふと思いだすのだろう。
Normal end Ⅱ/まだ覚えていたい