週も半分過ぎて木曜日。


今日は任務がないのか朝から玉狛支部にいた迅。一緒に朝食をとっていると。



迅「実はさ……メガネくんに玉狛第二に入ってくれって言われたんだよね」



『え！？』



迅の言葉に箸で掴んでいたソーセージが、ボトっとお皿に転げ落ちた。




『なんて返事したの？』



迅「俺にはやらなきゃいけないことがあるから、って断った」



『だよね。迅は未来視のサイドエフェクトを持ってるから……遠征に行けないし』



迅「まあね。俺がいないと困ることも多いからさ。でも、玉狛第二に入るのも面白そうだなって一瞬考えたよ。でも、俺の役割はここでみんなをサポートすることだって思ってる。お前もそう思うだろ？」




『うん』



迅は微笑んで頷いた。




迅「そう言ってもらえると嬉しいよ。ところで、お前の方はどうだ？ヒュースの監視、うまくいってる？」



その表情は悪戯っぽくて、何かを企んでいるようだった。



『うまくいくもなにも、陽太郎と3人でログを見たりお菓子を食べたり……それだけだよ？』



学校が休みになった関係で普段より過ごす時間は多いけど。



迅「ふーん、まあそれならいいけどね」



『何か気になることでもあるの？』



迅「近々、名前に転機が訪れる」




突然の迅の言葉に、私は動揺を隠せなかった。未来視のサイドエフェクトを持つ迅が言うことに、冗談は少ない。それは、これまでの経験からもよくわかっている。



『どんな？』



迅は少し考えるような素振りを見せた後、穏やかな笑みを浮かべた。



迅「それは……話したら面白くない」



迅は軽く肩をすくめた。



迅「まあ、言えることは一つだけ。ヒュースとの関係がそのきっかけになるかもしれない」



『ヒュースと……？』



心臓が一瞬跳ねた。ただの監視対象だったヒュースが、私の人生に影響を与えるとは思ってもみなかった。



迅「おっと、あんまり心配しすぎるなよ。大きな変化があるときは、大抵良いことが起こるものだ」


その時、陽太郎がリビングに入ってきて、元気よく「おはよう」と挨拶をした。



陽太郎「じん、もしかしてやすみか！？」



迅「おはよう、陽太郎。今日は休みだ！」



迅は陽太郎の無邪気な反応に笑みを浮かべた。



迅「何かしたいことあるか？」



陽太郎「うーん、おやつが食べたい！」



迅「じゃあ、外に買いに行くか！」



『気をつけて行ってきてね』


2人が出て行ったのと入れ替わりに、ヒュースがリビングに入ってくる。私はソファに座りテレビのスイッチをいれた。すると「初恋」について街頭インタビューをしていて、様々な人々がそれについて語っている。



その中で、ある男性が初恋の相手との思い出を語っていた。



『初恋かー』



ヒュースがPCから目を上げ、私の呟きを聞いて、少し考え込むように視線を合わせた。



ヒュース「何かあったのか？」



私は少し間をおいて、深呼吸をした。



『うん、実はね……初めてできた彼氏に、「ボーダーと俺、どっちが大切なの？」って聞かれて、答えられなくてフラれたことがあるんだ』



その言葉に、ヒュースは静かに目を細めた。彼の表情には、少し驚きと興味が混じっていた。



ヒュース「ふん、愚問だな」



ヒュースはPCの画面に視線を戻しながら、淡々とした口調で続けた。


ヒュース「そのような問いをされた時、選択を迫られるのは不条理だ」



私は少し考えてから、軽く笑って答えた。



『確かにそうだよね。私もその時はどうしていいかわからなくて、彼には理解してもらえなかった。でも、今でもその選択が正しかったのかはわからない』



ヒュースは一瞬、何か考えるように沈黙した後PCを閉じる。



ヒュース「最終的に名前が後悔してないならそれが答えだろう」


『そうかもね。過去の選択に後悔があっても、それが今の私を作っているんだし』




ヒュースは静かに頷く。その表情には、ほんのりの優しさが感じられる。リビングにはテレビの音と共に、穏やかな時間が流れていった。