短編
名前変換
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午後5時。
帰宅ラッシュでたくさんの人が行き交う東京駅。俺は京都から遊びにくる彼女を待っていた。
高校を卒業して俺たちは遠距離恋愛になった。お互いこれからの関係を不安に思ったし、それこそ別れそうになったこともあったけれど、なんだかんだ関係は4年続いている。
とはいえ連絡は頻繁に取り合っているものの、お互い学生の身。俺の帰省の時くらいしかゆっくり過ごせる時間はない。
そんな彼女が東京へ遊びに来ることに。
会うのは2か月ぶり。いつもは半年に1度会えれば良い方で、学業が忙しい時には帰省できないこともあり、こんなに短いスパンで会えることに高揚している。
新幹線から降りる人々で、改札が少しだけ混む。
彼女が東京駅に降り立つ時間だった。人ごみの中で、彼女を探す。
「あっ!」
『駿貴!』
「名前久しぶり!」
『久しぶり!忙しいのに迎えに来てくれてありがとう!』
「いいよ別に!東京まだそんな慣れてないだろ?」
彼女の引くスーツケースを手に取り、歩き始める。
物珍しそうにぐるぐるとあたりを見渡しながら歩くのを横目に、「初めて来たわけじゃないだろ」と茶化せば『それでもやっぱりあちこちキラキラしてて見ちゃうんだよ』と名前は笑った。
家にかける前にどこかで夕飯を済ませることになり、名前の希望でラーメン屋へ。
いつも俺が行っている、大学近くのラーメン屋を提案し一緒に食事をする。
最近の出来事をそれぞれ話し、情報を共有する。彼女の話は、就職活動がメインだった。大学院に進学しない名前ともう進学が決定している俺。
地元に戻る予定のない自分は、いつになれば名前に我慢させずに済むのか。
遠距離恋愛を4年続けて、これからの二人の未来が俺はやっぱり不安だった。企業の話や面接の話を色々話してくれたが、あまり頭に入ってこない。
それどころか、あらぬことを考える。
こんなイレギュラーな時に東京に遊びに来て、もしかしたらこの遠距離恋愛に見切りをつけているのではないかと。別れ話でもされるのではないかと。
大学入学したばかりの時、遠距離恋愛をしている友達が周りに何人かいたが、どれもこれも関係は破綻してしまっていた。その度に不安に駆られていたが、自分たちはなんとかやってきていたのに。
この就職というターニングポイントで、女性にとっては結婚なんかももう2、3年したら考える歳で。でも俺はまだ勉強がしたい。研究がしたい。そんな彼氏をどう思うだろうか。
脳内に様々な考えがめぐって、とうとうラーメンの味すらしなくなり、名前に会えてあんなに嬉しかった数時間前とは打って変わって、もやもやとした気持ちで店を出た。
家に着くと、彼女は自分の荷物を整理して、俺はその様子をただ眺めていた。
『あ、駿貴に渡したいものがあったの。これ。』
そう言って名前が俺に差し出したのは少し大きめな細長い箱。
『駿貴、大学院の合格おめでとう』
呆然としていると、『開けてみて』と言われたので、リボンをほどき箱を開ける。
『ネクタイとハンカチ!院行ったら今より誰かの前で発表する機会があるでしょ、学会とか。その時に着けてくれたら嬉しいなって思って買ったの。』
「すげえ…!かっこいい!ありがとう!!」
ネクタイを自分の首元に当てて「どう?」と聞けば、『見立て通り!かっこいいよ!』と満面の笑み。
『あとね、もう一つ言いたいことがあるの』
「えっ…なに…?」
ドキッとして身構える。
名前が座りなおして背筋を正した。俺もつられて背筋が伸びる。
名前は何か言いづらそうにしている。言いづらそうというか、どう説明すればいいのか、何から言い出せばいいかわからない。そんな表情だった。
何を言われるのか怖くて押し黙る俺と、何かを考えている名前の間に沈黙が流れる。しばらくすると、名前が『あのね』と俺の目をまっすぐに見据えて言った。
『あのね……一緒に住まない?』
「………え?」
情けない声が出た。
『びっくりさせたかったから電話でも言わなかったんだけどね、私就職は東京ですることにしたの。』
実は面接のために何回か東京来てたんだよ、とさらに付け足して名前は少しぎこちなく笑う。正式に内定が決まるまで俺には何も言えなかったらしい。
『急にこんなこと言われたら困るよね…でもね…。
遠距離恋愛も楽しかったよ。駿貴は頻繁に連絡くれるし、時々しか会えないけどさ、会えた時は精一杯私の事を楽しませてくれるでしょ?
だけどね、私、駿貴のそばにもっといたいの。駿貴が辛い時は電話じゃなくてちゃんとそばで支えたいし、楽しいことがあったら二人で笑い合いたいの。………ダメかな…?』
語尾が少し消える。名前がおそるおそる俺の顔色をうかがい、返答を待っている。
『しゅ、駿貴には駿貴の生活があるし、すごいわがまま言ってる自覚あるし、別に無理にってわけじゃないの!ごめん、忘れて!あっお風呂先もらって……』
「待って!」
何も言わない俺にいたたまれなくなった彼女がすぐに自分の発言を取り消し、その場から去ろうとしたのを慌てて手をつかんで制止する。
「びっくりして何も言えなかった…ごめん。不安にさせた。
でも違うんだ、すっげえ嬉しくてびっくりしてた。」
『え…』
「実はさ、ずっと考えてたんだ。別れ話……されんじゃないかって」
『えっこんなに駿貴が好きなのに?』
キョトンとした顔でさらっと言われて俺はきゅんとする。
名前は結構こういうところがあって、この地雷のような突然の愛の言葉に俺は非常に弱い。
意思をもって言葉を続ける。
「俺たち4年も遠距離恋愛続けてきて、でもやってこれたのは名前がたくさん我慢してくれてたからだ。そんな風に負担ばっかりかけさせた俺と、しかもこのまましばらくは学生の身分の俺と、一緒にいるメリットが名前にはもしかしたらないんじゃないかって。思っちゃって…。」
『駿貴…』
「ほら、女性って結婚とか後2、3年したら考えるだろ?それなのに俺がいたらさ、邪魔じゃんとか…考えたりして…」
『そんなこと考えてたんだ…だからなんか今日元気なかったんだね』
名前は笑って俺の手を取った。
『不安だったよね、この4年間。駿貴のこと好きだけど、このまま私が駿貴を縛っていていのかなって思ってた。私よりいい人に出会えるかもしれない機会を、私が奪っていることを申し訳なく思ったけど、駿貴と離れたくないって気持ちもあって。』
「うん、俺も。名前が好きだから離れたくないけど、好きだからこそ離れるべきかもしれないって思ってた。」
『あんなに電話では話してたのに、初めて本音が言えた気がするね』
「そうだな。」
『やっぱり一緒にいよう?』
「うん。一緒にいよう。」
お互いの気持ちを確かめるように、口づけを交わして抱きしめ合った。
「好きだよ名前。これからもよろしくな。」
『うん!』
「あとさ、次は俺から言うから。待ってて。」
『次……?』
名前は一回考え込んだが、すぐ俺の言葉を理解してそれと同時に照れて笑った。
帰宅ラッシュでたくさんの人が行き交う東京駅。俺は京都から遊びにくる彼女を待っていた。
高校を卒業して俺たちは遠距離恋愛になった。お互いこれからの関係を不安に思ったし、それこそ別れそうになったこともあったけれど、なんだかんだ関係は4年続いている。
とはいえ連絡は頻繁に取り合っているものの、お互い学生の身。俺の帰省の時くらいしかゆっくり過ごせる時間はない。
そんな彼女が東京へ遊びに来ることに。
会うのは2か月ぶり。いつもは半年に1度会えれば良い方で、学業が忙しい時には帰省できないこともあり、こんなに短いスパンで会えることに高揚している。
新幹線から降りる人々で、改札が少しだけ混む。
彼女が東京駅に降り立つ時間だった。人ごみの中で、彼女を探す。
「あっ!」
『駿貴!』
「名前久しぶり!」
『久しぶり!忙しいのに迎えに来てくれてありがとう!』
「いいよ別に!東京まだそんな慣れてないだろ?」
彼女の引くスーツケースを手に取り、歩き始める。
物珍しそうにぐるぐるとあたりを見渡しながら歩くのを横目に、「初めて来たわけじゃないだろ」と茶化せば『それでもやっぱりあちこちキラキラしてて見ちゃうんだよ』と名前は笑った。
家にかける前にどこかで夕飯を済ませることになり、名前の希望でラーメン屋へ。
いつも俺が行っている、大学近くのラーメン屋を提案し一緒に食事をする。
最近の出来事をそれぞれ話し、情報を共有する。彼女の話は、就職活動がメインだった。大学院に進学しない名前ともう進学が決定している俺。
地元に戻る予定のない自分は、いつになれば名前に我慢させずに済むのか。
遠距離恋愛を4年続けて、これからの二人の未来が俺はやっぱり不安だった。企業の話や面接の話を色々話してくれたが、あまり頭に入ってこない。
それどころか、あらぬことを考える。
こんなイレギュラーな時に東京に遊びに来て、もしかしたらこの遠距離恋愛に見切りをつけているのではないかと。別れ話でもされるのではないかと。
大学入学したばかりの時、遠距離恋愛をしている友達が周りに何人かいたが、どれもこれも関係は破綻してしまっていた。その度に不安に駆られていたが、自分たちはなんとかやってきていたのに。
この就職というターニングポイントで、女性にとっては結婚なんかももう2、3年したら考える歳で。でも俺はまだ勉強がしたい。研究がしたい。そんな彼氏をどう思うだろうか。
脳内に様々な考えがめぐって、とうとうラーメンの味すらしなくなり、名前に会えてあんなに嬉しかった数時間前とは打って変わって、もやもやとした気持ちで店を出た。
家に着くと、彼女は自分の荷物を整理して、俺はその様子をただ眺めていた。
『あ、駿貴に渡したいものがあったの。これ。』
そう言って名前が俺に差し出したのは少し大きめな細長い箱。
『駿貴、大学院の合格おめでとう』
呆然としていると、『開けてみて』と言われたので、リボンをほどき箱を開ける。
『ネクタイとハンカチ!院行ったら今より誰かの前で発表する機会があるでしょ、学会とか。その時に着けてくれたら嬉しいなって思って買ったの。』
「すげえ…!かっこいい!ありがとう!!」
ネクタイを自分の首元に当てて「どう?」と聞けば、『見立て通り!かっこいいよ!』と満面の笑み。
『あとね、もう一つ言いたいことがあるの』
「えっ…なに…?」
ドキッとして身構える。
名前が座りなおして背筋を正した。俺もつられて背筋が伸びる。
名前は何か言いづらそうにしている。言いづらそうというか、どう説明すればいいのか、何から言い出せばいいかわからない。そんな表情だった。
何を言われるのか怖くて押し黙る俺と、何かを考えている名前の間に沈黙が流れる。しばらくすると、名前が『あのね』と俺の目をまっすぐに見据えて言った。
『あのね……一緒に住まない?』
「………え?」
情けない声が出た。
『びっくりさせたかったから電話でも言わなかったんだけどね、私就職は東京ですることにしたの。』
実は面接のために何回か東京来てたんだよ、とさらに付け足して名前は少しぎこちなく笑う。正式に内定が決まるまで俺には何も言えなかったらしい。
『急にこんなこと言われたら困るよね…でもね…。
遠距離恋愛も楽しかったよ。駿貴は頻繁に連絡くれるし、時々しか会えないけどさ、会えた時は精一杯私の事を楽しませてくれるでしょ?
だけどね、私、駿貴のそばにもっといたいの。駿貴が辛い時は電話じゃなくてちゃんとそばで支えたいし、楽しいことがあったら二人で笑い合いたいの。………ダメかな…?』
語尾が少し消える。名前がおそるおそる俺の顔色をうかがい、返答を待っている。
『しゅ、駿貴には駿貴の生活があるし、すごいわがまま言ってる自覚あるし、別に無理にってわけじゃないの!ごめん、忘れて!あっお風呂先もらって……』
「待って!」
何も言わない俺にいたたまれなくなった彼女がすぐに自分の発言を取り消し、その場から去ろうとしたのを慌てて手をつかんで制止する。
「びっくりして何も言えなかった…ごめん。不安にさせた。
でも違うんだ、すっげえ嬉しくてびっくりしてた。」
『え…』
「実はさ、ずっと考えてたんだ。別れ話……されんじゃないかって」
『えっこんなに駿貴が好きなのに?』
キョトンとした顔でさらっと言われて俺はきゅんとする。
名前は結構こういうところがあって、この地雷のような突然の愛の言葉に俺は非常に弱い。
意思をもって言葉を続ける。
「俺たち4年も遠距離恋愛続けてきて、でもやってこれたのは名前がたくさん我慢してくれてたからだ。そんな風に負担ばっかりかけさせた俺と、しかもこのまましばらくは学生の身分の俺と、一緒にいるメリットが名前にはもしかしたらないんじゃないかって。思っちゃって…。」
『駿貴…』
「ほら、女性って結婚とか後2、3年したら考えるだろ?それなのに俺がいたらさ、邪魔じゃんとか…考えたりして…」
『そんなこと考えてたんだ…だからなんか今日元気なかったんだね』
名前は笑って俺の手を取った。
『不安だったよね、この4年間。駿貴のこと好きだけど、このまま私が駿貴を縛っていていのかなって思ってた。私よりいい人に出会えるかもしれない機会を、私が奪っていることを申し訳なく思ったけど、駿貴と離れたくないって気持ちもあって。』
「うん、俺も。名前が好きだから離れたくないけど、好きだからこそ離れるべきかもしれないって思ってた。」
『あんなに電話では話してたのに、初めて本音が言えた気がするね』
「そうだな。」
『やっぱり一緒にいよう?』
「うん。一緒にいよう。」
お互いの気持ちを確かめるように、口づけを交わして抱きしめ合った。
「好きだよ名前。これからもよろしくな。」
『うん!』
「あとさ、次は俺から言うから。待ってて。」
『次……?』
名前は一回考え込んだが、すぐ俺の言葉を理解してそれと同時に照れて笑った。