Viola
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心を躍らせてやって来たのはオフィス近くの公園。時間はまだ10時を少し過ぎたころ。平日の午前だからなのか誰もいなくて、とても静かだった。
好都合だ。私は今からとても大学生とは思えないようなことをたくさんしたいと思っているから。心の中でガッツポーズをし、さっそく目的のものを探す。
『まず、ツツジは…』
私が思いついた記事のネタは“植物で遊ぶ”だ。植物好きの母がお散歩の度に色々な植物遊びを教えてくれたことから、アイディアが生まれた。
ツツジは甘い蜜がある。花をつみ、裏側から吸うと甘さを感じることができるのだ。学校帰りにはよくこうして友達と蜜を食べながら帰った。
ツツジの写真を撮り、懐かしくなって10数年ぶりにツツジに口をつけた。周りに人がいないことを確認してこっそりと。
『ふふ、なつかしい。相変わらず甘いなあ。』
形のきれいなツツジをいくつか摘み、袋に入れた。これらはあとから押し花にするつもりだ。
『次はペンペン草…はさすがにここにはないか。さすがに土手とか行かないと…あ、』
目に入ったのは見覚えのある葉っぱ。これは草笛ができるものだ。草笛ができる草という認識しかなく、名前がわからない。名前を調べるための手がかりとしてとりあえず、その葉っぱを写真に何枚か納め、一枚拝借。
唇に押し当てて息を吐くとプーっと音が鳴った。
楽しい…!
自由に曲を奏でる母とは異なって、私は何とも言えない情けない音しか出ないが、それでも童心に帰ったようでわくわくした。
しかし、ここで調子に乗ったのが良くなかった。
プープーと音を鳴らすことに夢中で、
「………」
振り返ったら人が。しかも、よりによって。よりによって川上さんがいるだなんて思いもしなかった。
『あ…、え』
「………」
私は恥ずかしさと、緊張で固まってしまった。お疲れ様です、とかこんにちは、とか何か言いたいのだが、言葉がつまってしまって出てこない。対する川上さんも何も言わず、こちらを見ていた。どうしようもない空気がしばらく流れたが、先に沈黙を破ったのは川上さんだった。
「…名字さん、だよね。昨日からライターになった…」
『あ、はい…か、かわかみさん…ですよね』
「あ、覚えられてる。」
そう言った川上さんの表情は少し柔らかくなり、更に言葉を続けた。
「俺は昨日の顔合わせで覚えてたけど、名字さんは一気に俺たちの事紹介されたから、もしかしたら俺の事知らないかもしれないって思って。突然振り向くから目、合っちゃったけど、覚えられてなかったら、草笛吹く女の子を眺めるただの不審者やって思われるかもって、ちょっと焦った。」
草笛吹いている大学生の女の子の方がよほど不審者では…と思ったが言えなかった。何よりも恥ずかしさが勝っていて、穴があったら入りたい状態だったのだ。
「何してたん?」
『あ…、記事が、植物で…それで…』
ようやく単語が出てきた。このなんとも情報量の少ない拙い言い回しだけで、川上さんは私の言いたいことを理解してくれた。さすがクイズプレイヤー。
「だからツツジの蜜吸ったりしてたん」
『!?』
一体いつから見ていたのか。
川上さんはくつくつと笑いながら夢中やったなぁと言った。私の顔は公園に咲いているツツジに負けず劣らず赤くなる。
『か、かわかみさんはどうして…』
「オフィス行く途中。」
『あぁ…』
「それより、記事に使う写真は撮り終えたん?」
『いえ、まだです。ペンペン草とかカラスノエンドウとかまだまだ欲しいのがあるので、今から土手か河原に行こうと思ってます。』
ふーん、と川上さんは相槌を打ち、そのまま黙った。その間、私ははじめて川上さんの前で日本語をきちんと喋ることができた自分に感心していた。
「じゃあ一緒に行く?」
『はい?』
「植物の採集と、記事に実際遊んでるところ載っけた方が良いだろうし、自撮りじゃ限界があるでしょ。カメラマンも兼ねて。」
『……よ、よろしくお願いします…』
「よし、じゃあ行こう」
前に河村さんの記事に無理やり駆り出されて水族館へ行き、その時カメラマンもやったから、と言って川上さんは歩き出した。私も慌ててそれについて行く。
川上さんの金色の髪がキラキラして眩しかった。
好都合だ。私は今からとても大学生とは思えないようなことをたくさんしたいと思っているから。心の中でガッツポーズをし、さっそく目的のものを探す。
『まず、ツツジは…』
私が思いついた記事のネタは“植物で遊ぶ”だ。植物好きの母がお散歩の度に色々な植物遊びを教えてくれたことから、アイディアが生まれた。
ツツジは甘い蜜がある。花をつみ、裏側から吸うと甘さを感じることができるのだ。学校帰りにはよくこうして友達と蜜を食べながら帰った。
ツツジの写真を撮り、懐かしくなって10数年ぶりにツツジに口をつけた。周りに人がいないことを確認してこっそりと。
『ふふ、なつかしい。相変わらず甘いなあ。』
形のきれいなツツジをいくつか摘み、袋に入れた。これらはあとから押し花にするつもりだ。
『次はペンペン草…はさすがにここにはないか。さすがに土手とか行かないと…あ、』
目に入ったのは見覚えのある葉っぱ。これは草笛ができるものだ。草笛ができる草という認識しかなく、名前がわからない。名前を調べるための手がかりとしてとりあえず、その葉っぱを写真に何枚か納め、一枚拝借。
唇に押し当てて息を吐くとプーっと音が鳴った。
楽しい…!
自由に曲を奏でる母とは異なって、私は何とも言えない情けない音しか出ないが、それでも童心に帰ったようでわくわくした。
しかし、ここで調子に乗ったのが良くなかった。
プープーと音を鳴らすことに夢中で、
「………」
振り返ったら人が。しかも、よりによって。よりによって川上さんがいるだなんて思いもしなかった。
『あ…、え』
「………」
私は恥ずかしさと、緊張で固まってしまった。お疲れ様です、とかこんにちは、とか何か言いたいのだが、言葉がつまってしまって出てこない。対する川上さんも何も言わず、こちらを見ていた。どうしようもない空気がしばらく流れたが、先に沈黙を破ったのは川上さんだった。
「…名字さん、だよね。昨日からライターになった…」
『あ、はい…か、かわかみさん…ですよね』
「あ、覚えられてる。」
そう言った川上さんの表情は少し柔らかくなり、更に言葉を続けた。
「俺は昨日の顔合わせで覚えてたけど、名字さんは一気に俺たちの事紹介されたから、もしかしたら俺の事知らないかもしれないって思って。突然振り向くから目、合っちゃったけど、覚えられてなかったら、草笛吹く女の子を眺めるただの不審者やって思われるかもって、ちょっと焦った。」
草笛吹いている大学生の女の子の方がよほど不審者では…と思ったが言えなかった。何よりも恥ずかしさが勝っていて、穴があったら入りたい状態だったのだ。
「何してたん?」
『あ…、記事が、植物で…それで…』
ようやく単語が出てきた。このなんとも情報量の少ない拙い言い回しだけで、川上さんは私の言いたいことを理解してくれた。さすがクイズプレイヤー。
「だからツツジの蜜吸ったりしてたん」
『!?』
一体いつから見ていたのか。
川上さんはくつくつと笑いながら夢中やったなぁと言った。私の顔は公園に咲いているツツジに負けず劣らず赤くなる。
『か、かわかみさんはどうして…』
「オフィス行く途中。」
『あぁ…』
「それより、記事に使う写真は撮り終えたん?」
『いえ、まだです。ペンペン草とかカラスノエンドウとかまだまだ欲しいのがあるので、今から土手か河原に行こうと思ってます。』
ふーん、と川上さんは相槌を打ち、そのまま黙った。その間、私ははじめて川上さんの前で日本語をきちんと喋ることができた自分に感心していた。
「じゃあ一緒に行く?」
『はい?』
「植物の採集と、記事に実際遊んでるところ載っけた方が良いだろうし、自撮りじゃ限界があるでしょ。カメラマンも兼ねて。」
『……よ、よろしくお願いします…』
「よし、じゃあ行こう」
前に河村さんの記事に無理やり駆り出されて水族館へ行き、その時カメラマンもやったから、と言って川上さんは歩き出した。私も慌ててそれについて行く。
川上さんの金色の髪がキラキラして眩しかった。