本編
いつもより遅い時刻のバスは、遅過ぎるせいで生徒はほとんど乗っていなかった。レイルとルークは後ろ側の席に陣取る。
窓際に座ったレイルは、クロードの疑惑のことを、ルークに打ち明けるべきか悩んでいた。
考えを纏める為に、地下で拾った銃弾を掌で転がす。冷えきった鉛の感触は、今のレイルの心に似ている。あまりに怒りが強すぎて、逆に頭は冷静に回転していた。
「ロック、もう学校来れないかもな」
「体を治せばなんとかなる」
「おいおい、正気で言ってんのか!? あいつはそれでなくても噂話の種なんだ。それが嘘だとしても、ガキ孕ませたなんて噂立ってみろ! 来れる訳ないだろ!!」
「私達が、一緒にいてやれば良い」
事もなげにそう言うレイルに、ルークは苛立った表情で返す。
「ガキは噂でも、被害者の彼女はずっと学校に来るだろ?」
「そんなの、“被害者が同じ学校、同じクラス”のシチュエーションなんて、今まで何回も経験しただろ?」
「“振った女”と“ビジネスの被害者”じゃ全然違う」
「……えらくあの女の肩を持つな? 惚れたか?」
窓の外を見ていたレイルは、ルークに顔を向ける。非常に近い位置にある彼の顔には、焦りのような色が広がっている。いつもの顔と違うのは、その中に真実が混ざっているからだろうか。
「そんな訳あるか! あの子が被害者なのは間違いないんだぞ!?」
「ふーん。私には関係ないことだな」
「お前はいつも、他人のことにはドライだよな。俺は、クロードさんにちゃんと話を聞こうと思う」
ルークが突然そう言ったものだから、レイルは慌てて彼を説得する破目になる。
「お前っ! それは止めとけ! まだ話を大きくするには早過ぎる!」
思わずそう言って、レイルはすぐに後悔した。ルークが訝しい目でこちらを見ている。
「レイル……なんか隠してねえ? 俺がクロードさんに何を聞こうが、お前には“関係ない”よな?」
「……勘弁してくれ。マジで、クロードさんは無し、だ。そんなに探偵ごっこがしたいなら、あの女に直接聞けば良い」
話をはぐらかそうとするレイルに、ルークは先程までの怒りが消えて行くのを感じていた。
どうやら彼女は、ルークに関係ない話に首を突っ込んで欲しくないらしい。クロードに何かあるのだろうが、それは彼女がどうにかするつもりなのだろう。だからさっきも、ジョインの言葉に不自然に言い返さなかったのか。
まだ何かを考えるような顔をしている彼女に、ルークは頷く。それを見て、ようやくレイルの表情がいつもの笑みに戻った。
「ごっこ遊びは大勢で、だ。ジョインの方は頼んだぜ?」
言葉にしなくても、相手が何を伝えたいかくらい、顔を見ればわかる。明日からは二人で、探偵ごっこと地下探検をしなければならないようだ。