【BL】同時多角関係の浮気彼氏達
次の日は予想通り、目が覚めたら昼前になっていて。自分のベッドに寝ていた優利は、腰に巻き付いたままだった拓真の腕を解きながら立ち上がる。
眠る前に酒類の片づけはしていたので、各々のタバコとスマホが置かれただけのローテーブルの脇をすり抜け、床でぶっ倒れている一希を踏まないように注意しながらカーテンを開けた。
昨夜はあのまま一服を済ませてそれから眠った。「床で寝て身体痛くなるん嫌ー」とベッドにあがってきた拓真は無視して寝たが、文句も言わずに床で寝ている一希を見ると、寧ろ彼にこそ申し訳ないという気持ちになる。
「おい、もう昼やぞ。起きぃや」
突然部屋を満たした太陽光に呻く二人に声を掛けると、酒飲み達は「おはよー……」だったり「あー、まだ寝たりん……」だとか、とりあえず元気とは程遠い返答をした後、ゾンビのように身体を起こした。優利とて決して朝に強いということはないが、それでもこの『夜が似合う』二人に比べたら、寝起きの状態はまだマシというものである。
「さっさと用意せえって。とりあえず電気屋入っててついでにメシ食えるとこ行くぞ」
ほらっ、と手を叩いて二人をせっつきながら、優利はさっさと身支度を始めることにする。寝起きこそグダグダ言っている拓真と一希だが、そこは仕事のできる友人二人だ。すぐに自分の中のスイッチを切り替えて、身だしなみだけでなく頭の中までシャッキリさせてくるのである。
思った通り、優利が歯磨きと洗顔を終えて洗面所を出ると、ほとんど普段通りの顔つきに戻った二人が、外出用の服に着替えているところだった。ちなみにそれぞれの寝間着は数着、いつも置いてあったりする。洗濯は部屋の主である優利がするが、三者三様の下着の趣味にはいつも笑ってしまうのだった。
「どこまで行くー? ドライブ日和やし琵琶湖くらいまで走らん?」
「アホ。今何時やと思っとんねん? 出る前から目的見失うなや」
勝手に部屋の鏡の前を陣取り髪型をセットしながらふざけたことを言い出した拓真に優利が着替えながらツッコミを入れると、季節関係なく上着を羽織る――理由は言わずもがな、だ――ことにしている一希が、身支度を整えて床に放り出していたキーケースを拾い上げながら同意した。いつの間にか洗顔と歯磨きまで終えている。
「つーか、お前らの車2シーターのくせに何言っとるんや? 三人で買いに行くなら俺の軽で行ったらええやろが。立駐なんてドノーマルに限るわ」
「ちょ、カズ。俺のエイトちゃんは一応四人乗りやから」
「座席が座席してへん車が何言うとんねん。駅前行くぞ。あっこなら電気屋何個もあるし、メシもどっか空いてるやろ。着くん昼過ぎやろし」
「駅前なら僕のオススメあんでー。めっちゃええ雰囲気のバー」
「拓真は夜まで飯抜き、と。カズ、俺らはなんかその辺で食おな」
わざとそう言ってやると拓真は「うっわ、めっちゃ意地悪やん」とゲラゲラ笑いながら後ろから抱き着いてきた。拓真ももう身支度は済んでいるようだ。お気に入りのブランドのセットアップを着用しており、いつもの『怪しい男コーデ』が完成している。毒々しいまでの柄物をここまで違和感なく着こなせるのは才能だと思う。
「お前らとおると運転自分でできるからええ気晴らしになるわ。なんも触ってない軽なんが腹立つけど」
拓真以上に金の掛かっているトップスを普段着感覚で扱いながら、一希は早々に玄関に向かった。その背を追い、優利も拓真と共に玄関に向かう。
「カズはいつも運転手付きやもんなー。やっぱ若さんってストレス溜まるー?」
背中に巻き付いたままの拓真が、優利を挟んで一希に問い掛ける。軽い雰囲気の問いに見えて実はしっかりと相手のことを案じていることぐらい、優利は理解しているつもりだ。一希ももちろんそうだろう。軽薄そうな噂ばかりの拓真だが、本当の意味で踏み込んだ関係の相手のことはそれなりに大事にする男だった。
これまた高級な靴を履き終わった一希が、振り返りふっと薄く笑って答える。
「稼業やししゃーないわ。昔みたいに稼げるもんでもないし、俺の代で終いにするつもりやけど」
「あー、せやから『結婚はせん』って言ってるんか? 愛人くらい孕ませるんか思ってたわ」
「アホ。俺の愛人、男やし。つーか、本命」
「それって前に見掛けた眼鏡の美人さんやろー? えーなー、僕も『男の本命』欲しー」
「うっわ、拓真。俺というものがありながら、他のちんぽに腰振るんかよ」
「優利くんこそ彼女おるやーん。僕も彼女くらいはおるけどさー。やっぱ“彼”が欲しー」
背中にぐりぐり顔を押し付けてくる拓真に、「え? 俺って“彼”ちゃうん?」と優利は振り返ってヘッドロックを掛けてやった。お互いに付き合っている形の女はいるが、正直セックスと世間へのカモフラージュのための交際なので、結婚願望なんて皆無である。
「昼飯、カレーでも食うか」
玄関の扉を開けながらぼそりと呟いた一希に、「よおケツの話してる時にカレー食おうとか言えるな?」と優利はその背をバシッと叩いたのだった。