第六章 過去


 朝食を食べ終えたフェンリルの三人は、各々傷付いていた身体や装備の調子を確認していた。いつでも可能な限りのベストな状態を保つのが、この業界で長生きする為の秘訣だ。
「ほんとに全部治ってるな」
 レイルが立ったままぐいっと伸びをしながら言った。彼女は今、下半身はスカートを穿いているが、上半身は下着一枚しか身に着けていない。
「ぽっかり穴が開いてたとは思えねえなぁ」
 ロックが彼女の傷跡に舌を這わせながら答えた。そこは少し跡が残る程度まで治っており、今までの傷跡に比べたらその治り方は異常だった。
「今からの怪我は治らねーぞ?」
 レイルに軽く殴られるロックを冷たく見詰めながら、ルークは銃の手入れをしている。
 かなりの銃弾を消費したので、本音を言えばそろそろ補充の為に本部に戻りたかった。だが、まさかこんな状況で、南部支部の特務部隊に車両を乗りつけてもらう訳にはいかない、かと言って自分が出ることも出来ない。
 人目に触れないこの場所に留まる。それがリーダーの命令だ。
 どうしようもないことをグルグルと考えていたら、手は勝手に銃の点検と弾の再装填を終えていた。身体に染み付いた動きに、ルークは溜め息をつく。この動作と戦いの動きは、きっと本能に焼き付いているのだろう。
「あーあ、何もやることねえな」
「感覚、おかしくねえか確認しとこうぜ?」
 腕立て伏せをしながらレイルが言った。彼女の武器は剣なので、研ぐだけで終わりだ。いち早く身体の感覚を確かめる彼女の、うっすらと汗ばんだ胸元に目がいき、ルークはもう一度溜め息をついた。
 異性に興味がない自分でも、彼女のことは美しいと思う。ごくごく稀に抱きたいと思うこともある。こんな女は初めてだ。だが、彼女のことを仲間として強く想っている自分もいる。
 ゴチャゴチャとした自分の心に比べて、リーダーやロックの彼女を見る目は実に明確で、羨ましいとすら感じた。
「セックスくらいしかすることねーな」
 ぽつりと呟くと、レイルがニヤリと笑う。彼女は膝をついたまま上体を起こすと、いやらしい笑みを浮かべたまま言った。
「おいおいルーク。お前はいったいどっちとヤりてぇんだよ? 露出プレイは久しぶりだ」
「実際、ヤりたい訳じゃねえよ!」
 慌てて否定するルークに、ロックが銃の手入れをしながら茶々を入れる。
「性欲ねーの? 嘘つけ」
 彼の視線は銃に注がれたまま、真剣な表情で馬鹿なことを言っている。
「そうじゃなくて! セックスくらいしかすることがないくらい暇だなって意味だよ!」
「セックスくらいしかすることがねえなら、したら良いじゃねえの」
 最後には「馬鹿らしい」とまで言うロックに、ルークは頭を抱えたくなった。そんなルークには目もくれず、ロックは銃を放置しレイルに後ろから抱き着く。
「レイルー。せっかくルークがその気なんだし、三人で気持ちイイことしよーぜ?」
 ロックの手がレイルの腰に下ろされた時、三人の無線にクリスの声が響いた。
『お前ら、お楽しみのとこ悪いが、セックスより気持ちイイ仕事だ』
 リーダーの言葉に三人はニヤリと笑い合った。戦いの予定が入ったのだ。
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