第一章 城塞都市
「ここの兵士、よく訓練はされてるけど実戦経験無さ過ぎだろ。慌てるだけなら素人でも出来る」
目的地――中央塔に走りながらルークは言う。
『昔から“城塞都市”って噂だけが独り歩きしてた場所だからな。誰も攻め込まなかったら、自然とこうなるだろ。お前好みの“傷の無い綺麗な”奴いっぱいいるか?』
「ああロック、みんな全然綺麗だよ。だから、“持って帰る”」
『変態が。持って帰るのは自由だがな、その為に自分の持ち場を逃走経路ど真ん前にするのってどーよ?』
「ちゃんと足奪って全員拾ってやるから」
『拾わなかったらケツにマグナムぶち込んでやるよ』
『お前ら良い加減にしろ。ルーク、下っ端も拉致って良いが、最優先は軍の上層部だ。わかってるな?』
「権力で肥え太ったオヤジは趣味じゃねーんだけどな」
仲裁に入ってきたクリスに返していると、ルークは背後に爆風を感じた。
武器庫の爆破は上手くいったようで、沢山の爆薬に引火した末の爆炎は、激しいオレンジ色を振り返ったルークの目に焼き付けた。ルークは満足げに笑い、そのまま足を進める。
それぞれの建物の間は屋外を進むことになる。ロックのおかげで敵の狙撃は心配ないが、一応注意して走る。すぐに地上十二階、地下二階の大きな建物である中央塔が見えてきて、ルークは素早く側にあった機械の山――ロックが撃ち抜いた機械達だ――に身を隠す。
ルークが隠れた一瞬後に、機械の山を激しい銃撃が襲った。音からして明らかに機銃が混ざっており、ルークは思わず舌打ちする。
ロックが片付けた死体が銃弾によって粉々に飛び散る中、ルークはそっと相手を確認。常時中央塔に警備を集中していたのか、一つしかない入り口のあるこの場所には、ざっと見た限り五十人程の兵士が展開していた。
「一人じゃ短時間の突破は無理だ。合流まだか?」
『ルーク待ってろ。すぐ行く』
ロックがすぐに応答する。
彼が狙撃ポイントを確保するまでは動けそうにない。
『俺ももう少し待て』
『お前らみんな正面から突っ込むのか? 私は地下から別ルートで向かうぜ』
『俺とルークとロックで正面から順番に制圧する。レイルは最上階――ラボを一気に叩け』
『りょーかい。科学者は出来るだけ捕虜にする。ルークてめえ、足絶対奪っとけよ』
「わかってるよ。怒鳴るな」
耳を押さえながら話すルークの目に、兵舎の屋根に登るロックの姿が映る。なるほど、兵舎があそこだから、これだけの短時間に展開出来たのか。
まるで重力等存在しないかのようなロックの登り方には、いつもながら感心する。彼は今、重力操作は行っていない。空間の歪みは、コツがわかっていれば遠くからでも目視することが出来る。
重い銃器を背負い、ほとんど腕の力だけで屋上にたどり着いた彼は、数秒で自慢の装備を展開した。敵はまだ気付いていない。相変わらずルークの周りには銃弾が跳ねまくっている。
『射撃援護、いつでもいけるぜ。さっさと突っ込んで蜂の巣にされろよ』
「このドSがっ!! 早く一発目頼む」
返事より先に大きな銃声が響き、辺りが光に包まれた。レーザーキャノンの二発目を撃ち込まれた敵陣は、その半数が巻き込まれ吹き飛んだ。
弾丸というよりは熱の塊に近いそれに合わせて、ルークも瓦礫から飛び出す。派手な光には慣れている。
ルークは両足のホルスターから二丁の拳銃を取り出すと、それぞれを左右の手に構えた。左右造形の異なる拳銃は、クラシカルなデザインで統一されている。
冷静に残った敵に射撃を浴びせながら、ルークは入り口に向かって走る。銃撃によりひしゃげたシャッターの先には、上に昇る為のエレベーターがある。その瞬間、ルークは背筋に冷たいものを感じた。明らかな殺気。
――どこだ?
周りの人間はあらかた殺し尽くした。生き残ったとしても、ルークの背後の敵をロックが見逃すはずがない。彼もまた、ルークの少し後ろについて警戒しているからだ。
反射的にエレベーターに目をやる。稼働中であるそれは、ゆっくりと下に――こちらに向かって降りてきている。
ルークは急いで辺りを見渡す。遮蔽物になるような物は何もない。気持ちばかりが焦る。
一瞬の、永遠のような時間を掛けて、エレベーターは到着した。機材も運べる大型の口が滑るように開く。その中から、室内から出て来たとは思えない大型車が現れた。見事なハンドリングでエレベーターの前に横付けする形になる。軍用トラックで、荷台に積まれた固定銃座が、こちらをじっと狙っていた。
銃口と目が合い、ルークの身体が瞬間的に硬直する。後ろでロックが慌てて敵の機銃の陰に隠れたのがわかった。
――マズすぎる!!