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第六章 過去


 明るい光に目が覚めた。頭上にある強い日差しに焼かれそうになって、慌てて目を細める。まだぼーっとする頭で状況を整理しようとすると、愛しいリーダーの声が上から降ってきた。
「起きたか?」
 心配そうな声だったので、レイルは起き上がってニッコリと笑ってやる。すると彼は安心した笑みを浮かべて立ち上がると、レイルの隣でまだ倒れていたルークの腹を蹴りつけた。
「ってー!!」
 ルークは叫んで飛び起きると、呆けたような表情でこちらと――血のように脈動する塔を見比べた。
「あ、あれ? 俺達……貫かれた、よな?」
 自信なさげにそう言うルークに、レイルは頷く。自分も同じように混乱している。
「……ロック! お前は無事かよ!?」
『っ……あぁ、ハニー。朝日で目が覚めるって良いもんだな』
「……元気そーで良かったよ」
 無線の向こうのふざけた朝の言葉に、レイルは溜め息をつきながら返した。
――朝の言葉!?
 すぐに違和感に気付いて顔を上げたレイルに、クリスが説明する。
「俺達は半日ここでぶっ倒れてた。幸い、空軍はまだ来ていないし、陸軍は全滅してる。おまけにあの塔から貰った傷口は全て治っていた。だが……」
 クリスは苦い顔をして塔に視線を投げた。その視線を追うレイルとルークも、それを発見し衝撃を受ける。
「あ、あれは! どうなったんだ!?」
『何の話してんだよ?』
「ロック! こっち側来て塔を見てみろ!!」
 訝しげな顔をしていたロックが、テラスから降りてくる。脈動はしているが完全に動きの停止した歪な塔を横切ったロックは、こちらに来る途中にそれを振り向き――
「――ヤート、さん!?」
 塔の中心に埋まるようにして、ヤートの身体が塔と同化していた。
 人の頭より少し高い位置で、塔の中に捕われているように見えた。固く瞑られた瞳は、ぴくりとも動かない。深い悪意に埋まった彼の姿に、レイルは駆け寄ろうとしてルークに止められた。
「あんなもんに素手で触ったら、一気に精神持ってかれるぞ!?」
「だけど!! それじゃあヤートさんを見捨てろってのかよ!?」
 レイルは、後ろから羽交い締めにするようにして止めるルークの腹に、肘を思い切りぶち当てる。その攻撃にうめき声を上げながらも、ルークはレイルの足を払って地面に組み伏せようとする。だがそれはレイルが上手く避け、二人はお互いの身体を掴んだまま睨み合う。
「二人共も落ち着け!!」
 取っ組み合いを始めた二人を、クリスの冷静な声が止めた。リーダーの言葉に一気に頭が冷えてくる。確かにこいつとの殴り合いを今する必要はない。
 レイルは舌打ちすると掴んでいた手を離し、ルークの曲がっていた襟元を直してやる。するとルークも見ているこっちが照れるくらいの眩しい笑顔になり、レイルの首元から手を離して、代わりに頭をぐしゃっと撫でてきた。
「とにかく俺の話を聞け。ヤートさんはまだ死んでない」
 一変してじゃれあい出した二人に呆れながら、クリスは続けた。
「あのクソガキも生きてるみたいだけどな。テラスからあのガキがヤートさんと同じように埋まってんのが見えた。あれは死んでると思ったんだけどな」
 こちらに走って来たロックが、そうぼやきながら割り込んできた。後ろからクリスに軽く抱き着きながら、ポケットからタバコを取り出し火をつける。
 煙に一瞬顔を歪めながら、クリスが説明を再開する。
「あの塔はおそらく、精神の塊だ。ヤートさんはあれの中に精神を捕われている。それにより肉体もあの中に埋もれてしまった」
「精神世界ってことか……厄介だな」
「ああいうのって、変に引きはがしたらヤバいんだろ?」
 考えに浸りながら呟くロックに、ルークは心配そうな顔で言った。
「ルークにしてはデリケートなこと知ってんじゃねえの」
 レイルは馬鹿にした口調で笑った。
「一番デリケートから離れてる女には言われたくねー」
 ルークが口を尖らすように言って、静寂が訪れた。四人共、別々の場所に視線を投げながら、状況の打開策を考える。クリスの口元がボソボソ動き、ロックが短くなったタバコを庭に放り捨てた。
「あの塔は悪意の塊なんだろ? それなら……」
 ロックがタバコの火を踏み消しながら口を開く。
「塔をどうこうするより、ヤートさんの可能性に賭けた方が良いんじゃねえか? ヤートさんが、自力で精神世界から戻ってくるってな」
 ロックの意見を聞くより先に、真っ向から対立するようにして、レイルは言い切った。精神が繋がっている状態であの塔をどうにかしようなんて、ロックとは思えないぶっ飛んだ思考回路だと思った。
 ロックの鋭い視線が突き刺さってくる。彼の金色の瞳は鋭さと美しさを兼揃えており、それが堪らなく魅力的で欲望を掻き立てる。
「普通に考えれば、レイルの意見が一番安全だ。彼は……」
 クリスが同意し、一瞬言葉に詰まった。
「ゼウス計画のコア……」
 ルークが試すような瞳でクリスを見ながら言った。クリスはその言葉に頷くと、こう付け足した。
「そして、俺達の守るべき人だ」
 その言葉を聞いてロックは諦めたように笑い、レイルに近寄り抱き締める。レイルはその優しい抱擁を受け止めながら、クリスに向かって小さく笑い掛けた。
 クリスは再度優しく頷く。
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