第十三章 フェンリスヴォルフ


 召喚獣との契約なんて初めての経験だったルークだが、そんな自分でもそれが無事に終わったことが、魔力の流れから判断できた。
 いつの間にか瞑ってしまっていた目を開けると、そこには絆という意味でも魔力という意味でも繋がった仲間達の姿があり、そして――水に覆われた巨大な目が浮かんでいた。
「っ!?」
 反射的に拳銃を構える。その巨大な目は、先程までフェンリルがいた中空に水泡を伴って浮かんでおり、それに気づいたロックもライフルを構え、その隣でレイルは――
 血を垂れ流した左手もそのままに、その瞳を――エメラルドグリーンの美しい瞳を、右手で掻きむしるようにして呻いた。
 膝をつき、その目を掻き出そうとするかのようにもがくレイルを、慌ててロックが止めに入る。その瞬間、中空に浮かぶ巨大な目が瞬いた。
 薄い皮膜が上下するその様を見、ルークはそれが魚類の目ではなく海洋生物のそれだと確信する。周りが水に囲まれているから、という単純な理由ではない。ルークにはその瞳の主に心当たりがあった。
 ルークが興味があって覚えるようにしている話題は、主に銃、死体、食べ物、水冷の魔力全般に関することなのだが、いつか東部にて調べものをしていた時に見た、水神の瞳にそっくりだと思ったのだ。
 それは過去、水神が実際に召喚された際の数少ない記録の一ページで、海洋生物特有の分厚い瞼と特徴的なエメラルドグリーンの瞳をしていたから覚えていた。
 そういえば、レイルの瞳も同じ色だ。
 それに何か意味があることは間違いないのだが、ルークがそう思い至った瞬間、その巨大な瞳と共に、レイルの呻きも消えていた。
 止めに入ったロックが唖然とする程唐突に、その瞬間にレイルは動きを止めて「……わりぃ、どうかしてた」と自分でも驚いたようにそう零した。
 左腕からは血を流したまま、レイルは思い出したように視線を上げた。それに倣うようにルークも、そしてロックもそちらを見る。
 刀を手に、静かにこちらを見返す視線。鋭すぎる深紅の瞳には、強すぎる意思が宿っていた。
「……フェンリルが俺達を認めたために、水神が顔を出したようだ。神々の間にも、どうやら精神の繋がりがあるようだな」
 冷徹な雰囲気はそのままに、だが、その声音には仲間達に対する確かな情が含まれていた。そのためか話し方も少し柔らかく感じる。大丈夫か、と言葉にすら出さないが、心配されていることを感じ取って、レイルがしっかりと頷き返す。魔力と共に感情も情報も共有している、そんな気分にさせる絆だった。
 クリスの言う水神とは、正にルークが考えていた水神ビスマルクそのもので。太古から生きる蒼海の王は、この世の安定にご執心だと聞いているが、その噂も案外間違いではなさそうだ。
「こんなの、本部が聞いたら面食らうぜ。あいつら、自分達を神か何かだと勘違いしてるわりには、他の神の排除に余念がねえ」
 ゲラゲラと笑うロックの意見にはルークも同意する。本部の上の連中は、本当に人使いが荒いし、敵対した相手のことは人間だとすら思っていないだろう。
「命令違反、だな」
 そう言って、クリスが初めて声を出して笑った。細められる瞳に全員の意識が向いて、それに続けて笑い合う。
「上の言うことはちゃんと聞いてるだろ? フェンリルの無力化はできてる。あとは身の振り方だな。僕らが揃ってなければ召喚ができないことなんて、きっとすぐに割れるだろうが、召喚の絆があるからこそ、上は僕らを切り離せない。僕は正直、この四人で組めるなら、どこだろうが、何だろうが殺してやるよ」
 こんなの僕らしくねーけど、と言いながらロックが言って、「それは私もだよ」とレイルが同意。ルークももちろん同じ気持ちなので、大きく頷いてから言った。
「俺達、きっと伝説になるんじゃねぇ? 神を従えた四人ってさ――」

 事実、後に伝説と呼ばれるようになる狂犬達の絆は、その名の通り、神と呼ばれる大狼を従えた時から始まった。
 血に塗れたその絆は、四人にとって何よりも大切なもので。その絆のためならば、己の身など惜しくもない。この四人ならばきっと、不可能はないとすら思えるのだ。
 だから……
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