第十三章 フェンリスヴォルフ
文字通り、雷のような一撃を放ったレイルを見て、ルークは思わず歓声を上げてしまった。
「やっべー! あいつめっちゃかっこいい! あんな得体も知れないドロドロの中なんて俺なら絶対突っ込めねえし。なあ、ロック? さっきのレーザー後何発撃てるんだ? 俺、正直こいつに対して有効な銃弾なんて持って来てねえんだけど?」
興奮冷めやらぬまま後方を振り返って叫んだ。常日頃からバカだとか頭が悪いだとか、とにかく特務部隊に配属されてからというもの頭のレベルに対する陰口の類が多いルークでも、先程のロックの銃弾が彼の『とっておき』というものだということはわかっていた。だから、そう聞いたのだが……
「あー? んなもん一発こっきりのとっておきに決まってんだろ!? 最後まで出し渋るより最初にかまして敵さんの心を折るのが一番なんだよ」
「いや、敵さんって言っても人間じゃねえし……心もクソもねえんじゃねえの?」
「ばーか、仲間の鼓舞にはなっただろうが! レイルだってそのための大技だぜ、きっと。あんな速度で敵に突っ込むなんて、身体ごとバラバラになってねえのが不思議だっての」
「じゃ、じゃあ、あの技も一発こっきり……?」
「本人に聞いてくりゃ良いだろ!? 反撃がくる!! レイルの援護を!」
お互い、怒鳴り合いながらも視線は敵から離していない。そのつもりだった。それでもルークが見逃した反撃の瞬間を、ロックは既に察知している。流石はスナイパーといったところだろうか。
返事よりも先に足を動かし、ルークは払われた前足を飛び越え、着地の姿勢のまま足の動きが悪くなっているレイルの身体を抱えて、フェンリルから距離を取る。首から胸に掛けてがっぽりと大穴が空いた大狼は、そんなもの気にもとめないという態度で反撃を浴びせてくる。貫通もしている。生物ならば大怪我のはずだが、魔力による具現の身体には影響はないらしい。だが、身体の動き自体には影響があるようで、振られる前腕はえらく大振りだった。
「っ、わりぃなルーク。手足もいで心臓ぶち抜けば死ぬかと思ったんだが……」
「人間相手だったら手足の段階でショック死してるよ。やっぱデカブツ召喚獣は面倒だな……」
「ルークってよ、魔法も得意だろ? あいつの動き、止められねえ?」
腕の中から――所謂お姫様だっこというやつになってしまったが、女の子を抱き上げることなんて今までしたことがなかったから、どう抱えるのが正解かなんてわからなかった――解放されて自分の足でしっかりと立ち上がったレイルが、視線はフェンリルを見上げたまま、ルークにそう言った。
自分の魔力が高いことは、ルークは軍に入ってから初めて知った。周辺の魔力の質を読むだとか、そういったことが一般人にはできないと聞いて驚いたのもその時だ。
それからは氷結系の魔法は得意だと言うことにしている。まだ、あまり自覚はないけど。
「凍らせるのは得意っちゃ得意だけど?」
「ならあいつの邪魔な前足を凍らせてやれ。そうしたら後は――」
「――後は?」
「クリスがやってくれる」
二っと笑ったその表情は、どこかロックに似ている気がした。その悪い考えを隠そうともしない顔に、ルークは今までにない充足感を覚えた。
「わかった。俺の詠唱早いから、ちゃんと見てろよ」
フェンリルの意識が他に移ったのを感覚し、ルークはすぐさま魔法の詠唱に入る。
レイルは「任せた」と軽い口調で言って、その次の瞬間には激しい光と共に姿が消えている。おそらく標的にされているロックの援護に回ったのだろう。つまり……
「最後は派手に決めてくれよ、クリス!」
ルークとフェンリルの、その間。刀を構え――おそらくその瞳は閉じられている。後ろ姿で見えなくとも、それは何故だかわかるのだ――精神統一に入ったクリスが、陽炎のように立っている。
刀使いというものをルークは現実に初めて見たのだが、軍隊で習う剣術と根本的に違う技術だということは、剣術に疎い自分にでもわかった。
レイルが操る双剣術だって、正規軍では邪道も邪道だが、それでも刀使いの人口よりは多い。北部は地域柄、もともとの人口も少なければ他の地方への移動も少ないのが原因だった。
詠唱の完了までの刹那、ルークはまたも見落としてしまった。
巨大な前腕が遮蔽物ごとロックを叩き潰した瞬間、ルークは己の詠唱を完了させた。
