第十三章 フェンリスヴォルフ
作戦の最終段階に移行するには、この愚かなる雷神を打ち破らなければならない。それも、たった一人の犠牲も出さずに。
「相変わらず、僕らのリーダーは無茶ばっか言いやがるな!」
倒壊を免れた五階建ての建物の屋上に重力魔法で登ったロックは、ライフルへのリロードの苛立ちを文句に変えて垂れ流した。口ではそう零しながらも、手はいつものように無駄なくリロードを数秒で終えている。
『俺の拳銃も効いてねー。ロックはどうだ?』
「あー? 効いてるわけねーだろ! 目玉狙って撃ち込んでも怯みもしねー」
先程から何度も試している攻撃をもう一度ここからも撃ち込んで、そのあまりの手ごたえのなさにロックは、仕方なくライフルでの迎撃を諦める。代わりにレーザーキャノンの充填に入ろうとしたところで、愛するリーダーからの指示が飛んだ。
『ゼウスの接続を狐達とレイルから確認した。電力の流れが変わったようだ。迎撃よりも身を守ることを優先してくれ。おそらく、間もなく暴発がくるぞ』
『その暴発は魔力か? 雷撃か? それとも、瓦解した血肉<物体>になるのか!?』
無線の間にも大狼フェンリルと雷神ディアスは、がっぷりと噛み合いながら湖畔と市街地の間を転がり、叩きつけ、踏み潰している。
軍のものらしき兵舎も、公共の建物も、人の生活を支えた家々も、その下にあったもの全てがどす黒い――焼け焦げた黒と、零れ落ちた赤に潰されていた。そこに生きる命がないことが、今だけは救いのようにすら感じてしまう。
今はまだ市街地の手前でなんとか止まっている被害だが、ここからリーダーの言う『暴発』なんてものが起こったら、少なくとも都の中心部分は跡形もなく吹き飛ぶだろう。
『それは俺にもわからん! 今はルナールへの被害よりも部隊を優先するべきだ! 雷神はフェンリルに任せて、俺達は地――』
リーダーの指示は搔き消された。その衝撃がいったいどの『暴発』なのかは、ロックもわからないままに衝撃に吹き飛ぶ。