第十章 異に接する都
狭い狭い籠の中で三人が足を伸ばして眠ることは出来ない。その為サクは、二人の先輩と絡まり合うようにして座った状態で目を覚ました。
目を覚ましたと同時に何も身に着けていない先輩方の身体が視界に入って腰を少し浮かし、そして絡まり合う二人の腕や足に阻止されてなんとかそのままの状態で固まった。
勢いよく稼働を開始した自身の脳が『昨夜のこと』をようやく思い出してきて、その内容のあまりの乱れっぷりに軽く眩暈すらしそうになる。脱ぎ散らかされた服は足元に蹴り落とされており、そこに自分のものも見つけて、やっとサク自身も全裸であることを自覚した。
狂犬と呼ばれ恐れられている二人の身体に挟まれて――二人掛けの席に三人で無理矢理寄り掛かっている為、かなり密着している状態だ――いる。そう自覚すると、また頭は昨夜のことを自然と思い出してしまう。
女性の身体にあれ程興奮を覚えたのは、サクにとって生まれて初めての経験だった。もちろんレイルのことは、元より魅力的な女性だとは思っている。実に“特務部隊の女”らしい見た目にその戦闘能力は、凄腕と本部で称賛されていることも頷ける。一対一で彼女とやりあって、無事でいられる人間がこの世にいったい何人いるだろうか。
月明りにぼんやりと照らされた裸体は、怪しい白に包まれていて、それでいて、危険なる誘いをその腕から感じた。
昨夜、何度も触れたその腕に、サクは無意識に手を伸ばす。隣で身を預けるようにして目を閉じたままの彼女の左腕を、サクは感触を確かめるようにして指の腹でなぞっていく。その繊細なる白を宿したかのような指先から、細い手首、そして――その“継ぎ接ぎ”の跡へとなぞり、そして止めた。
「可愛い可愛い後輩くんは、まだ足んねーのか? 昨日あんなに吐き出したのに、欲張りなこった」
サクの肩に頬を寄せていた深紅が揺れ、その下から欲望に満ちたエメラルドグリーンが覘いた。レイルの獲物に向けた笑みには慣れたつもりだったが、それでもこの心臓を鷲掴みにしてくるような狂気の色合いには、まだ慣れそうもない。
「まだ絞り足りねえんだよな? 僕にもちょーだい。サクのやらしい顔、もっと見たいなー?」
反対側からも臓腑を悪戯にくすぐるような声が聞こえる。彼の欲望に満ちた瞳は、もっと見れない。だって、サクの興奮をこの二人はもう、見抜いているから。
「……お二人共、朝から元気ですよね……」
呆れた気持ちを敢えて隠さずそう伝えても、狂犬二人はニヤリと笑っただけだ。この二人がこれくらいで怒らないことは、これまでも、そして昨夜の“触れ合い”でも確信している。
「なんだよサク。つれねーな? 初めてのお泊りは寝る前、夜中、朝のフルコンボだろ?」
「どうせもう身体中ベッタベタなんだぜ? シャワーは今夜ルナールに着いてからなんだから、着くまで楽しもうって」
お互いの身体に飛び散った白の名残りを笑い合う二人に、サクは溜め息をついてから、『昨夜の答え』をもう一度問う。
「レイル先輩のその腕は……いったい、何なんですか?」