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第十章 異に接する都


 押し殺したような声が隣から聞こえて、サクは恐る恐る薄目を開けることにした。甘さを含んだこの声に、本能的な不安を覚えたからだ。
「っん……ぁ……ろ、っく……」
 聞き慣れた先輩の甘い声が、肉体関係がある同僚の名前を呼んだ。不安が的中したサクは、ますます状況を確認することを躊躇う。
 薄く――本当に薄ーく目を開けて、隣の気配に全神経を集中させる。夕食を食べ終わった後、彼は確かに「この砂漠で砂走を襲うような外敵は限られてるから、お前は安心して寝とけ。どうせ周辺の警戒はリーダーがやってるだろうからよ」と笑ってくれて、その言葉に甘えてサクは眠りについた。
 籠の席で座ったまま眠ることに慣れていないせいか、それとも性的に興奮すらしないと言ってもフェロモン垂れ流しの先輩達のせいで緊張していたせいだろうか、とにかく眠りの浅かったサクは、この一番避けたい状況で間が悪いことに目を覚ましてしまったのだ。
――セックス、してるよな……ど、どうしよ……下手に動いたらバレる……っ! てか、もう気配でバレてるんじゃ!?
 心の中は既に大騒ぎだが、それをどうにか表面に出さないように気を付けて、バレないように生唾を飲み込む。本当だったら大きく深呼吸ぐらいしたいのだが、そんなことをしたら絶対にバレる。狂犬達の優秀な鼻は、サクだって何度も経験している。この二人の勘が鋭いところが戦闘中だけではないこともだ。
「今夜はやけに乱れるじゃねえの。甘い声上げちゃって……僕以外にも聞かせたい男でもいる?」
 金色がこちらを向いた。決して視界にはっきりと捉えた訳ではない。相変わらず薄目を開けただけのサクの視界の中は、ぼんやりと二人の影が重なり合っているだけにしか見えない。金色の瞳のその色すら見えず、下の人影であろうロックが、小柄な影――レイルを膝の上に乗せて、それはそれは艶めかしく腰を動かしているのだ。
 ぼんやりとした視界とは反対に、耳には淫らな水音が尾を引くように響く。どっぷりと快感に浸る影達の身体そのままに、その水音はサクの耳を刺激する。
 どっぷりと――快感の音が響き、欲望を滾らせる“ソレ”が見えた。
 金色がいやらしく笑う。まるで悪戯を思いついた悪ガキのような表情で、ロックはレイルの乱された漆黒を剥ぎ取った。
 元から開けていた布切れが足元に落ちて、彼女の上半身が露わになる。薄暗闇の中、彼女の白い裸体が浮かび上がっているかのように鮮明に、サクの目に飛び込んでくる。
「――っ!」
 その視界からの衝撃に、サクは思わず息を呑んだ。目なんてとっくに見開いて、二人の影が重なる場所――から上に添えられた、白く美しい左腕から視線を動かすことが出来ないでいた。
「おいおいサクよぉ……そんなに見られたら恥ずかしいじゃねえか」
 上に乗った女の囁きは悪魔のそれ。それを淫らな手つきで手懐けるは……こちらも悪魔、なのだろうか。
――悪魔だったら良い。でも違う。この人は……悪魔<生き物>なんかじゃない!
「先輩は……いったい、何なんですか?」
 下の金色は笑ったまま。その上で左腕<肌>を晒した女は、極上の笑みで男を誘った。性欲を刺激する、悪魔の誘い。サクの心を鷲掴みにする、この衝動は“ソレ”のせいに違いない。
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