第十章 異に接する都
「っ! ルーク先輩っ!?」
伸ばされた腕に引っ張られるように、対面して座っていたルークに抱き締められていた。鍛えられた幅のある身体に包まれている。暖かくて――ううん、熱くて、男らしい身体だ。
狂犬達が纏う漆黒は同じでも、その身体から垂れ流されるフェロモンは、一人一人違う。
「ロックに酷いコトされてない? あいつ、けっこうイカレてるからさ。ずっと……ルツィアのことが心配だった」
抱き締める腕に力が入る。ルークの膝の上に乗せられているので、こうなったらもうルツィアは身動きが取れない。
「えっと……だ、大丈夫です、から……」
本能的にこの距離はマズいと感じて、ルツィアはやんわりと押し返そうとするが、そもそも男女の力の差もあるので全く歯が立たない。耳元に、狂犬の息がかかる。
「ほんとに? 俺が全部、ルツィアの悩みを聞いてやろうか?」
耳をざらりと舐められる感触に、ゾクゾクと背筋に快感が走る。ビクリと震えたルツィアの身体を見逃さないオス犬は、しっかりと止められていた漆黒の前を開けて、純白のシャツに守られた胸元に顔を埋めてくる。
「ルっ、ルークせん、ぱい……」
「あー、女の香りがする。やべー」
ルークの顔がこちらを向いた。これはきっと――キスされる。
全てを飲み込む海のような瞳が、ルツィアをじっと見詰めている。この瞳からは、逃げられない。ルツィアは覚悟を決めて目を閉じて――何の感触もしないので、恐る恐る閉じた目を開けてみる。
ルークの顔は変わらず目の前にあったのだが、その表情はバツの悪そうな苦笑交じりに変わっていた。
「いやー……やっぱ俺、女はダメみたいだわ。ルツィアとは魔力の波も合いそうだからイケるかなーって思ったんだけど……やっぱ勃たねー」
「……っ! もう! びっくりしたじゃないですか!!」
恥ずかしさで熱くなる顔を隠したくて、ついバシバシと彼の背中を叩いてしまう。それでもまだ、ルークには優しく抱き締められたまま。性的に興奮しないと言われながらも、それでも彼からは優しさを感じていて、それがとても心地良くて。
「悪かったって。でも、俺にしては珍しく抱ける気がしたんだけどなー。ま、いいや。しばらくこのままで良い? ご飯までで良いからさ」
ルツィアの心を見透かしたかのように、ルークは優しくそう提案してくれる。そのなんとも彼らしい言い方が可愛く感じてしまって、ルツィアはついつい噴き出してしまった。