第十章 異に接する都
「はっ、なんで都の『鍵』が外部からの特務部隊に握られてるんだよ!? ザル過ぎねぇ? その都の軍隊」
鼻で笑うエイトの気持ちもわかるが、彼だって特務部隊という者達がそれぐらいやってのけるということは理解しているだろう。その証拠に赤い瞳はひとつも笑っていない。
「あの都には人間の軍人はいないという噂だ。機械兵士達が巡回していて、その為に南部側の砂嵐を“打ち消した”とも言われている」
「都を分断する程に南部と東部の関係は険悪なんだろう? 巡回はそのためでもあるのか?」
事前にクリスに渡されたデータには確かそんなことが記載されていた。機械兵士なんて記載はなかったが。
「正確には軍部のいざこざが民にも伝染しているようだが、遥か上層部自体の関係は良好らしい。二つの地方が結託でもされると面倒なので特務部隊の支部に戦力として三人を派遣し……そして」
「唆されたか何かがあり裏切りが発生、か」
「三人の特務部隊は確実に鍵を手にしているだろう。奴等は、優秀だ」
「知っているんだな? そいつらのこと」
エイトの瞳が鋭さを増す。獣のような嗅覚は、まだヤートには備わっていないものだ。
「何度か顔を合わせているよ。正直、裏切るようには俺は思えなかったがな」
「あんたにそう思わせるってことは、相当腹黒いか、それとも……」
「俺は、何か“理由<思惑>”があると踏んでいる」
溜め息と共にそう零された言葉には深い深い信頼が滲み――その言葉を垂れ流す口元には、狂気が滲んだ薄い笑みが貼り付いていた。
獣の鼻は敏感だ。血の匂いには特に敏感に反応し、等しく興奮を覚えてしまうのだろう。その血の味が“どちら”であっても、彼等は任務を遂行する狂犬だ。
「仮に鍵が……召喚が発動するとどうなるんだ?」
ヤートの問いも、彼の芯の部分にはもう届いていないかもしれない。彼の無表情の下から滲み出た狂気は、形はそのままにヤートの問いに答える。
「都ひとつが壊滅する“恐ろしい存在”が呼び出されるらしい。“上”からはそれだけしか聞いていないが、『呼ばなければいけない分、お前よりはマシだ』とも言われた」
ひとつも笑えないジョークに、ヤートは頭を抱えたい思いだった。