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第九章 繋ぎ合わせたモノ


 灯りの一つもつけずにルツィアは、ベッドに押し倒されている。
 頭上に覆いかぶさる身体は、下手をしたら自分よりも細い。腰回りや指先に至っては彼の方が細いだろう。
「どうした? 子猫ちゃん」
 口元だけをにこやかに歪ませて、笑いもしない金色が問う。
「ルナールには、イグムスも運んでいるの?」
 あの洞窟から帰還する際、ルツィア達よりも一足早くイグムスが運び出されていた。洞窟の最深部から姿を現したそれは、まさに炎の結晶と言える物だった。美しくも怪しい焔を宿した結晶だ。その結晶はルツィアよりも大きく、大人の男性程はあるだろうか。
 陸路を進むために車輪付きの台座に固定されたイグムスからは、もうあのような魔力は感じられず、レイル曰く次の脈動を起こすには地脈のある場所に設置しなければならないとのことだった。つまり移動中は暴発の心配はないということだ。
 輸送のために組まれた部隊は本部の部隊からの編制だったが、彼等はルツィアが問い掛けても決して輸送先を零すことはなかった。いくら極秘の作戦と言っても、本来は護衛のために寄越されていた自分達には聞く権利ぐらいはあるだろうに。
「さあ? どうだろうな?」
 作戦前にも聞いた言葉が、彼女ではなく彼の口から流れる。その言葉がやけに冷たく感じるのは、その瞳の奥に滾る何かが顔を出そうとしているからだろうか……
「っ……ロックも、知らない、の……?」
 まるで憎しみを捩じ込むかのような彼の動きに翻弄されて、ルツィアは喘ぎの混じった問い掛けしか出来ない。快感から逃れるかのように視線を金色から逸らす。決して逃げ出したのは快楽からだけではないのだと、彼は気付いているのだろうか。ううん、きっと気付いている。
「……僕はイグムスなんて見たこともねえよ」
 歪んだままの口元からは、問い掛けの返事は零れない。いつの間にか歪められた金色が、ルツィアを冷たく見下ろしている。いつの頃から、そうだったのだろうか。ルツィアにはわからない。
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