第九章 繋ぎ合わせたモノ
犯したい女だとは、つくづく思っていた。
それはデザートローズの陸軍にて、彼女の情報を見た時からずっと。
本部の、それも特務部隊の人間の情報なんて、いくらデザートローズの陸軍でもなかなか上手く集まらなかったらしいが、それでもその彼女の情報は、断片的だとしても充分に狂っていた。
エイトが軍属になった年齢よりも早く、彼女は特務部隊の狂犬となっていた。
その経歴は断片的ながらも、身の毛もよだつ連続殺人に拷問、敵対組織の壊滅等、とても自分とほとんど年齢の変わらないであろう女一人が行った凶行とは思えないものだ。
しかし、それらもきっと、全て真実だったのだろう。
その顔を見たのは、陸軍にて対峙した時が初めてだった。おそらく身長は低いのだろうという情報はあった。そして、おそらく顔を武器にしているということも。
彼女はとても美しい。誰もがそう思う程には、彼女は妖艶で、それでいて“巧み”だった。彼女だって、毎日を生き延びている軍人であり、罪人なのだ。
己の身を守るためにも、周囲からの視線を意識し行動している。それが随分と砕けた言動だとしても、彼女は全て計算して行っているのだろう。狂犬達の外面の良さは、その笑顔が何よりの武器になるとわかっているから装うのだ。
「見た目の割に、丁寧じゃねえの」
「うるせえよ。オレは女を殺しながら射精するような男だぜ?」
「あー、その気持ちは私もわかるから、今更引かねえよ」
エイトの下でレイルがクスクスと笑う。お互いの肌の感触を確かめながら、その心の内も確かめたくなってエメラルドグリーンを覗き込む。
少し面倒そうな顔をされたが、その瞳が逸らされるようなことはなく。ぎしりとなるベッドの音が、こんなにも情欲を誘うとは。背徳の時は、久しぶりだ。
雷に貫かれた時に感じた“あの感覚”が忘れられない。今だってびくりと感じる痺れが、エイトを脳内から刺激する。
――きっとオレ達は、どこか“根本”のところが“同じ”だから……
「オレ達、きっと似てるんだよな……」
深紅に指を通しながら、その狂おしいまでの雷を追うようにして舌を這わせる。
「ああ、私達は似た者同士だ。きっと根本が一緒なんだろうな」
「一緒……繋がってる……?」
「……“今”みたいに?」
そう言ってまたクスクス笑いだしたので、わざと動いてその声に甘さを混じらせる。嬌声を上げる彼女がとても愛らしくて、デミという存在がなかったら、エイトもどっぷりとした泥沼に足を踏み込んでしまっていたかもしれなかった。
救いも愛もない泥沼だ。彼女の心には既に相手がいて、この狂ったような関係も、その相手から言わせれば『致し方ない』ことなのだ。さすがに狂犬と呼ばれるメス犬の飼い主は違う。
エイトの昂りを敏感に感じ取り、レイルがぐっと両腕を首に絡めてくる。そのままとびきりの甘えた仕草で、エイトへ“最高の刺激”を与えた。
びりっと走る雷の感触。中から滾る灼熱感と相まって、刺激を伴った“あの感覚”が、エイトの脳裏に直接ぶつけられる。
――やっぱりお前は、一緒なんだな。
欲望を吐き出したエイトの身体を、細腕が優しく包む。
「私の“相手”も世間一般で言えば、『人間じゃない』分類なんだ。だからよ、気にする必要なんかねえよ。ここにはちゃんと、愛ってやつがあるんだから」
腕と同じく白く細い指先が、するりと正面に回ってエイトの胸元を撫でる。脱ぎ散らかした服から掬い上げた“デミの身体”はちゃんとベッドの横の棚の上に置いてある。
その“彼女”のことをちゃんと人間扱いしてくれるメス犬に感謝をしながらも、やはりお互い、問題のある人間なのだということを改めて突きつけられたような気持ちになったエイトだった。