第九章 繋ぎ合わせたモノ
案の定ルークは屋根の上で愛銃を愛おしそうに見詰めながら自分のことを待っていた。
扉が開いた気配を感じて落された視線に頷いて見せてから、クリスは彼の待つ屋根の上に上る。確か数日前にも同じようなことをしたなと考えながら、数日前と同じく彼の肩に腕を回してやったら、数日前と同じく「リーダーったら欲求不満かよ?」と苦笑された。苦笑したいのはこっちだ。
「寝室のベッドは三つあるだろ。明日の準備は俺だけで充分だから、お前だけでも寝ておいた方が良い」
甘い空気もそこそこに、クリスは単刀直入に本題に入る。正直、ルークがこんな態度を取ること等今までほとんどなかった。
「あー、なんつーか……リーダーにこんなこと言ったら心配かけるだけなんだろうけど……」
やはり集団に属する以上、彼は人間関係に悩みがあるのだろう。今まで問題なく育まれていたフェンリルの絆だが、それが今破綻したとなれば、原因は新参者達ということになるが……
「俺はお前等のリーダーだ。気遣いは良いから話してみろ。今夜は一緒にいてやるから」
「リーダーに優しくされると俺我慢できなくなるから、あんま甘やかさないで……今夜は一緒にいてもらうけどさ」
やんわりクリスを押しのけようとしたルークだったが、最終的には誘惑に負けてその力強い腕に抱き締められた。
ガンマンのくせに筋肉質な身体のルークの腕は、本当に頼りがいがあって、クリスのお気に入りだ。他にはロックの細い腰つきもお気に入りだし、レイルの白い首筋もお気に入りだ。嬉しいことにお気に入りはきっと、これからも増えるだろう。
「サクが少し……苦手なんだわ」
抱き締められたまま、ルークの声がクリスへと落ちる。
「……何か理由があるのか?」
意外だった。元よりルークはあまり人の好き嫌いをしないタイプだ。単純明快な思考回路を持つルークは、好きか普通かくらいの簡単な分類で人間を見ている節がある。数少ない嫌いな人間は、全て殺せば良いぐらいは考えているかもしれない。
そんな彼が苦手だと言う。それもよりによって、大人しそうな青年であるサクを、だ。
女であるルツィアが苦手だと言うならまだわかる。もしくはもう“相手が決まっている”ヤートに遠慮してしまうというのも理解出来る。
だが、彼が伝えてきたのは男であるサクだ。ルークの好みをリーダーとして熟知しているクリスからすれば、それは意外としか言いようのないものだった。
「あいつ、どうやら生きてる人には興奮出来ないタイプみたいでさ。リーダーが部屋から出た時に誘ってみたことがあるんだけど、その時えらく拒絶されちゃって。だからそれからは普通に接してたんだけど、俺の携帯端末に入ってる“コレクション”の映像に反応しちゃったみたいでさ……」
少しばかり落ち込みながらそう話すルークに、クリスは納得する。他人の性的趣向にクリスは文句を言うつもりもない。ましてや言い広めること等したくもないのだが、さすがに事が事なだけに今回は仕方がないかと考える。
「……それはサクが対物性愛者だからだ。サクが興奮したのはお前の死体<コレクション>じゃなく、死体<物>に対してだ」
「あー、つまり……俺の愛する者達<コレクション>に対して興奮したんじゃなくて、綺麗な死体<物>に対して興奮したってこと?」
「そういうことだ。あいつにとって欲望の対象は『綺麗なモノ』だ。繊細な造形や美しいモノに惹かれるらしい。良かったな、お前の“芸術”が認められたんだ」
口を開けたまま抱擁を解いた彼に向かってクリスはニヤリと笑ってやる。すると、ルークの表情がみるみる歪んでいく。てっきり自分の趣味が褒められて喜ぶと思っていたのに、彼の顔には少しばかりの嫌悪すら覗いていた。
「えー、それって……俺の死体<モノ>寝取られたみたいだな」
うげぇっと身震いまでして見せたルークに、クリスは久しぶりに声を出して笑った。