第七章 蒼海の王
四人掛けのテーブルに並んで座り、四人は食事をしながら今後のことを話し合った。
「とにかく腹が減っては戦は出来ぬ、だ。しっかり食べながら聞いてくれ」
クリスが、シチューが山盛りに入った皿をヤートに手渡しながら言った。
ルークは負傷した腕の止血用のガーゼを換えることに忙しい。二人で半分以上食べた後、クリスが簡単に傷の手当をしてくれた。傷自体は深くなかったので、しっかり止血して殺菌しておけば問題ないらしいので安心した。
クリスは、魔力の急激な消費により頭が重そうだ。今もここに至るまでのいきさつをヤートに説明しているが、動いているのは口だけで、瞳は閉じられている。
話に聞き入るヤートの横で、ロックは我関せずといった様子で食事にがっついている。体力、魔力共に早急に回復させるには、当然のことだが、外部からのエネルギーの摂取が最も効率的だ。ロックは早いペースで三杯目を食べ終わると、キッチンに向かった。
彼は食器棚の下を少し漁り、ワインの小ビンを見つけると「ほんのちょっとの贅沢ってか」と呟きながら詮を抜いた。ボトルに直接口をつけて一気に飲み干す。彼の表情はアルコールにも全く変わらない。
そんな彼に、ヤートが目を伏せたのをルークは見逃さなかった。彼の目は床に倒れた男に注がれている。
片付けておけば良かった、とルークは後悔したがもう遅い。この光景が自分達にとっての“日常”であり、これから彼に慣れてもらわなければならないことだ。この空間では、彼の方が異端なのだ。
後一つ――日常とは違うことがある。美しい紅一点がいない。
「……レイルの居場所は?」
ロックが冷ややかな瞳でクリスを見ながら言った。空になったビンを床に投げ捨て、タバコに火を着けながらリビングに戻ってくる。
「それはこれから……おっと」
答えようとしたクリスの携帯端末が振動している。ディスプレイを一瞬睨みつけ、クリスはニヤリと笑った。
「噂をすれば、だ」
クリスは仲間達に静かにするように目で合図すると、通話を開始する。あれは本部との連絡用の端末で、通話の相手は本部以外に有り得ない。
「こちらクリス。デザートローズにて陸軍と交戦。ゼウスのコアは確保したが、レイルと連絡が取れない」
簡潔に情報を報告しながら、クリスはキッチンに向かう。ロックは寝室に武器を取りに行き、ルークも銃の最終チェックを始める。ガーゼも上手く換えられたので気持ち良い。
いきなりせわしなく動き出した自分達に、ヤートは不安そうな顔をした。そんな彼にロックは、ヤートの武器である大剣を渡してやる。クリスの話し声が止んだ。
端末をポケットに戻したクリスが、獰猛な獣の表情を隠さずに言った。
「レイルの居場所がわかった。どうやらスラムの馬鹿共に捕まっているらしい」
「おうおう、こんなイイ男達をすっぽかしてヤッちゃってるのかよ」
「場所は?」
軽口を叩くロックに、ルークはあくまで真面目に聞いた。馬鹿なスラムの不良でも、今のレイルには抵抗する力も無いはずだ。
「ここからすぐにアジトがあるらしい。助けるぞ」
「そうこなくっちゃな!!」
「ヤートさんは、どうする?」
クリスが冷静な声で問い掛けてきた。その表情にはいつもの無表情が戻っている。ヤートにはそれが淋しく思えた。まるで、自分だけは仲間に入れてもらえないような疎外感。
「レイルは……俺にとっても大切な人間だ。俺も行く」
隠さない本心をぶちまけた。ロックがひゅうっと口笛を吹いて茶化したが、その行為に悪意は感じられなかった。
「あいつも……俺達もそう思ってるよ」
クリスは穏やかに、嬉しそうに笑った。