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第七章 蒼海の王


 宮廷顧問召喚師であるローズは、ビスマルクの上で片膝をついた。
 膨大な魔力の消費に、精神はともかく肉体はついていけなかった。巨体を誇る召喚獣の全てを召喚したのだから仕方ない。これも自分が憧れる光将の頼みなのだから。
『最高のフィナーレの為に、派手な土台を召喚して欲しい』と依頼を受けたのが数時間前。
 急ごしらえではあったが、召喚自体は成功した。これで後は祭りが終わるまではゆっくり出来る。
「下は楽しそうじゃの……」
 街中では露出度の高い服装に身を包んだ踊り子達が、練り歩くようにして踊っている。
「リチャード殿……」
 この国に古くからある言い伝えを思い出し、ローズは呟いた。
 街の広場で好きな人と踊ると、恋仲になれる。そんな学生のような言い伝え。そんなことを仮にも仕事中に考えてしまった自分自身に狼狽えていると、後ろに控えていた空軍の兵士が休むようにと声を掛けて来た。
 声も顔も全然違うのに、制服のせいでリチャードの姿を想像してしまう。あたふたしながら後ろに下がって、もう一度街を見下ろして、昨日出現した塔を見た。
 無色の輝きを放つその塔からは、もう強烈な悪意は発せられていない。安堵の溜め息をついてから、ローズはその正体を考える。
 陸軍が隠していたバイオウェポンだとしかローズは知らされていなかったが、なんとなくそれが人の死によってもたらされたものだと直感していた。
『たくさんの人が死んでいく。それを止めることが出来るのは“止めようとする”人間だけだ。俺は時間には頼らない。人間である君に頼りたい』
 優しい茶色の瞳で、強く立派なことを誓った彼に、自分は恋をしてしまった。
 砂漠の水源を強固にする為に、水霊と心を通わせる自分を、わざわざ自国に招き入れた。北部出身という全く生活環境から違う自分を、人間とみなし、対等に頼ってくれた。
 そんな彼の力になれるのならば、自分は常に最高の結果を収める。彼の街中の水脈を水で溢れさせるという目標は、そうして実った。だが、実際はその水脈を利用して悪意あるバイオウェポンが作り出されていた。今の彼の心を、誰が理解出来ようか。
 ローズはキッと強い視線を遥か遠くの塔に送ると、兵士の制止を無視して火の玉の詠唱を始めた。
 関係者以外には花火大会としか告知されていないこの状況では、使用を許可されている魔法は限られている。
 召喚よりはよっぽど低い魔力で特大の火の玉を出現させると、ローズはそれを塔に向かって放った。それと同時に愛しい光の輝きが塔の足元から伸びて、ローズはその美しさにただただ見とれていた。
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