Discovery
『なるほど。今日もありがとね、夜鶴さん。』
聞き間違い?
夜鶴って、黒羽の?
私も柚希と同様、
偶々楽屋に入ろうとしたときに気付いた。
奈央「…あれ?どうしたの、奏」
「いえ、ここまで来てトイレに行くか悩んで…」
そう誤魔化すと、
奈央さんは笑って私の頭をぽんぽんした。
奈央「行っておいで、まだ時間もあるし」
私はいつも通り、
奈央さんに懐っこい笑顔を見せて
トイレへと向かった。
奈央さんがまさかそんなことをするわけない。
夜鶴っていうだけで、黒羽とは限らない。
夜鶴さんもきっと世の中に沢山…
一旦落ち着こう。
それに、どう考えたって
私にはどうすることも出来ない。
いちアイドルの私に何かすることなんて、
そう思っていた。
今考えれば、
沢山方法なんてあった。
それなりに経験もあるから。
でもあの時の私は何もできず、
言われるままに奈央さんのくれる仕事を
こなすしかなかった。
そんなある日。
「…柚希?」
偶然、道端で柚希と会った。
彼女は酷く落ち込んでいて
いつものような笑顔が無かった。
柚希「私、歌えなくなっちゃった」
少しでもいいから教えて、と
話を聞いた。
そこで確信に変わった。
仕事が私へと横流しされていることに。
柚希「奏?」
「え、どうしたの?」
どうやら青ざめていたらしく、
私は何でもないと誤魔化して
その場を後にして事務所へと向かった。
大好きな柚希と黒羽に
とんでもないことをしてしまっていた。
こんな状態で
大好きなアイドルを続けていいはずがない。
こんな中途半端な私が居なかったら
2人はきっと活躍していただろう。
そう思い、
奈央さんにも連絡をして、
きちんと話をつけようと思った。
どうせ断れない仕事自体は今日で一旦終わっていて、
明日はまたオーディションの予定だった。
奈央「どうしたの?急に大事な話だなんて」
「急な出来事ですが、本日付で辞めさせていただきます」
今まで私にかけてくれた奈央さんも
社長も事務所も恩を忘れることはない。
でも、やっぱり許されることではないから。
それだけ言って、
頭を下げて私は事務所を出た。
驚いた顔の社長と奈央さんの声も
耳に入れずに。
そして後々、社長が
『お前はこの先ずっと背負うんだよ』と
言っていたことに気付いた。
その罪は、重く。
1人の命をとうとう亡くしてしまっていた。
それを知ったのは、
後に柚希と再会したときだった。
全部私のせいだった。
帰る場所もなく、途方に暮れて
ただただ彷徨っていたときだった。
『奏ちゃん』
振り返るとクマ…
現在の社長だった。
社長「頼みたいことがあるんだけどいいかな?」
「頼みたいこと?」