林檎と蜜
君の名前教えて?
名字じゃない方、教えて?桃川夢子
全てのモブ系女子。
主軸のストーリーには一切かまない、悟が付き合ってるわけではないけと手を出した大勢の女の総称。
この小説の夢小説設定福岡から東京校に来た子。
秤と星の同期。
悟と交際中であることを同期には知られている。
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「カレー作り過ぎちゃったんです。」
私はドキドキしながら先生を顔を窺った。とは言っても目元は隠されているから口元ぐらいしか見るところがない。
少しだけ口角が上がっているだけの、通常運転の彼だ。
「ま~鍋で作るから量多くなるよね~。」
「先生もお家で料理するの?」
「いや~全然。」学生の頃は寮にいたからその時は作ってた、と彼は言った。
ちょっと意外な一面を知れた事を密かに喜びながら、そろそろ本題に入らなきゃと思う。
「も、もし良かったら、今夜食べに来ませんか?」
本当はプライベートを二人きりで過ごしたいだけなんて言えない。
「んー僕ね、カレーも甘口派なんだけど……」
「勿論!林檎と蜂蜜入りですよー。」
にっこりと微笑む私に釣られるように彼は口元を緩ませる。
少しの間を挟んで、やれやれとため息を吐きながら軽く頭を掻く彼。
今なら判決を聞く被告の気持ちが少し分かる気がすると思った。
「じゃあ、行こうかな~。」
多分バレたら怒られるけどね、とペロと舌を出した。
悪戯っ子みたいで何だか可愛く見える。
彼は見た目こそ大人の男性で黙って立ってると近寄り難い雰囲気があるが、時々十代の少年の様な無邪気さが見え隠れする。思わず抱き締めたくてたまらない。
「先生、大好き!」
書類を眺めている彼に横から腕を伸ばして抱き付くと視線は動かさずに、片手で私の腕に優しく触れた。
「こらこら……まだ仕事中だよ~幽結 」
大人しく待ってなさい、と言われて仕方無く部屋を出る事にした。
「寮で待ってますから。」
「うん、終わったらLINEするから。」
軽く手を振り合って別れ、部屋を出ると星が仏頂面で立っていた。
「ごめん、綺羅羅ちゃん!」
待たせたよね?と両手を合わせて、ぺこりと頭を下げる。
「いーよ、行こ。」
そう言って星は先に歩き出してしまう。慌ててその後を追った。
星とは時々カフェでお茶する仲で、今日は二人でカレーを食べる約束をしていた。
先生に食べてもらう前に食べてもらって味の評価を聞いておきたかった。
一人用の小さなテーブルに二つのカレーライスを並べて星と向かい合って座る。
「食べてみて。」
頂きます、と星が言ってカレーをスプーンで口に運ぶ。
「美味しい!……でも随分甘口ね。」
「いーの!甘くて。」
そう言うと星はふふ、と笑った。
「……何よ~?」
「いい顔してるなって。」
そんなに好きなんだ五条先生、と星に言われて体温が急上昇する。顔が熱い。
今更照れ過ぎ~、と言いながらカレーを食べ進める星を見ながら少しでもクールダウンするために緑茶を飲んだ。焼け石に水なのは分かっていたけれどそうせずにはいられない。
コップを空にしてから頂きます、と手を合わせて食べ始めた。
恋心というのは厄介なものでいくら咀嚼して飲み込んたつもりでも簡単には消化されず、いつまでも胸に残って暴れ回る。やっと静かになったと思っても先生と目が合う度に、思い出した様にピョンピョンと元気に胸の中を跳ね回るせいで慢性的に苦しい。
恋が楽しいものだって信じてた私は自分が思うよりずっと無知な子供だったと思う。
カレーを食べたあとでスマホを見ると先生から仕事が終わったというLINEが来ていた。
星に先生が今から来ると伝えるともう帰る、と言った。
玄関で星はポケットから手の平に収まるくらいのピンク色のキラキラした箱を出して投げて寄越した。
「お礼!あとは自己責任ね。」
これは何か、と聞き返す間もなく星は出ていってしまった。
まさか煙草?と貰った箱をよく見てみるとコンドームと書かれていた。一瞬頭が真っ白になったが慌てて着ていたエプロンのポケットにしまった。
こんなの先生に見つかったらヤリモク女だと思われちゃうよ、綺羅羅ちゃん。
でも、もしかしたら、押し倒されちゃたりするのかな?いやいやまさか!そんな事を考えながら歯磨きをしていると玄関チャイムが鳴った。
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