泡沫。
君の名前教えて?
名字じゃない方、教えて?桃川夢子
全てのモブ系女子。
主軸のストーリーには一切かまない、悟が付き合ってるわけではないけと手を出した大勢の女の総称。
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二ヶ月ぶりにあった五条君はちょっと疲れてる様に見えた。それでも夜の大運動会は四回戦までヤってさすがの体力オバケで笑える。
相変わらず長持ちはしないけれど回数射てるタイプなので多い時は六回戦ヤる事もある。
故にこちらも体力勝負になってくるので彼との情事を私は夜の大運動会と呼んでいる。
ハードな四回戦を終えて身体をベッドに投げ出す彼の顔を覗きこんで大丈夫?と声をかけた。
「ん~へーき。」
ニコニコと機嫌良さそうに言うので、こちらもつられて笑ってしまう。
「二ヶ月ぶりだけど、何も変わってなくて安心した」
「ははっ!確かに大して変わってない。」
大した変化はないんだけどさぁ、と彼は白い天井を見つめながら言った。
「小さい何かはあったって事?」
私が訊ねると暫しの沈黙が流れた。会話で彼が黙り込むなんて珍しかったので、ドキっとした。
「……もう会うのやめよっか、夢子 」
突然の関係終了の知らせだったのにも係わらず私は冷静だった。
あーやっぱりそうか、と少し落胆しただけで少しの怒りも未練も湧いてこない。温かいコーヒーが時間の経過によって熱を失う様にあまりに静かに緩やかに何かが私の中で息絶えたのをただ受け入れていた。
「いいけど、理由訊いていい?」
彼は頷いて話始めた。理由は私に不満があるからでは無い事、少々面倒臭い子と付き合い始めたから会う人数を減らしたいという事。
「面倒臭いけど離れられない?」
「面倒臭いけど、そこがたまんないの。」
不思議だよねーと彼は頭を掻く。
ついに本命?、と茶化すようにニヤニヤしながら私が言うとやー違う違う、とヘラヘラ笑いながら片手を振る。
「本気とか離婚して一緒になるとか考えてるわけじゃないんだけどさ……」
大好きだから離れたくないって言われてね、とため息交じりに彼は言う。
その声からは呆れてるふりを装って嬉しさがチラ見えしてる様に感じてチクっと何かが胸の奥を刺したみたいな痛みが走る。
「そっか、愛されてんだ。」
「こんなの何がいーんだかね!」
照れてるみたいな顔で彼は笑っていた。初めてそんな笑い方をするところを見たなと思った。多分その子には、何しても勝てないんだとその時私は、確信してしまった。
「羨ましくてムカつく~。」
彼に跨がって両手で頬をつねる。
「いたた……やめてよ~。」
彼は痛いという割にヘラヘラと笑ったあとで急に真面目な顔でごめんと言った。
「うんん、今までありがとう。」
手を離して、涙を堪えて精一杯笑う。
「……夢子、泣かないでよ。」
「泣くもんか。」
悔しくて唇を噛む。
「最後にもう一戦しとく?」
「調子に乗んな、クズめ。」
だよね~、とまた彼はヘラヘラと笑った。
そのあと私はシャワーを浴びるためベッドから出た。
過去も後悔も汗と汚れと一緒に洗い流せたらいいのにね。
シャワーでボディーソープの泡を流しながら私は泣いていた。
私達が何度身体を重ねても吹けば飛ぶような関係でしかない事、恋人にはなれない事、そんな事は始まった時から知っていた。それなのにどうして、何故選ばれたのは私じゃないんだろうなんて思って涙が出るのだろう?
さっきまで私の身体に纏わり付いていた泡が排水溝に流れ落ちてゆく。
正に泡沫の恋だった。
落としきれない後悔がふわふわと今更、熱い胸の中で行ったり来たり漂った。
終わり