夏だ!海だ!林間合宿だ!
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走ってどうにかガス溜りをぬける。防げるものが無い以上、ここでぶっ倒れたら元も子もない。
「くっそ……!!」
「このガスも敵の仕業か。他の奴らが心配だが仕方ねぇ」
「…後ろにはラグドールさんもいる。私たちは許可がない以上交戦するわけにはいかない」
「ああ。ゴール地点を避けて施設に向かうぞ」
「指図してんじゃね…!?」
目の前には人……そして、血溜まりと腕。
「おい、俺らの前誰だった…!?」
「常闇と…障子…!!」
異質な雰囲気、振り返ったそれは同じ人とは思えなかった。間違いなくやったのは、敵。
「…うそ、でしょ」
「交戦すんなだあ……!?」
「肉……見せて……」
瞬間、迫ってくる刃物。焦凍くんが氷でそれを覆う。私もそれに被せるように覆うけど、それすら突き刺してくる。ひたすら氷で覆って防ぐしかできることがない。だめだ、交戦すんなって言われてもこんなん一方的に……!
その時、もう一度響いたマンダレイさんのテレパス。
『A組B組総員、プロヒーローイレイザーヘッドの名において、戦闘を許可する!』
繰り返されるそれの意味は、すぐに分かった。消太さんがどんな覚悟でそれを指示したかも。
敵を倒すためじゃない、敵にやられない為に今消太さんが出来る全てで、みんなを守ろうとしてくれてる。なら私たちはそれに答えるしかない。
そしてもうひとつ入ってきたテレパス。
『敵の狙いの1つ判明!生徒の"かっちゃん"!』
「はあ!?爆豪くん!!?」
「ああ!?」
爆豪くんは戦闘を避けろ、と言われている。もう何が何だか、誰にもわからない。わからないけど、自分にやれることをやれるしかない。
「っ、私たちが足止めするから、爆豪くんは他の道から、」
「指図すんなクソが!!!」
「まっ、」
止める暇なく突っ込む爆豪くんの前に、慌てて氷壁をだす。焦凍くんの氷と相まってどうにか敵の刃物は止まるけどギリギリだ。
「不用意に突っ込むんじゃねぇ!!聞こえてたか!?お前狙われてるってよ」
「かっちゃかっちゃうるっせぇんだよ頭ん中で…」
デクがなんかしたな!?とかなんとかいってるけど、そうか。A組の中じゃ爆豪くんのことを普段からそう呼ぶ人なんて緑谷くんだけ。その緑谷くんが、敵の狙いを知ってるということは、まさか。…ひとまず人の心配はあとだ。
後ろにガス溜りで引き返せないこともそうだ。敵は間違いなく計画的に襲ってきてる。生徒、そして誰がなんの為になんて考えられないけど、そうだ。
「爆豪くん、頼むからおっきい火使わないでよ」
「ここででけぇ火使って木に燃え移りでもすりゃあ火に囲まれて全員死ぬぞ?わかってんな?」
「喋んな、わーっとるわ」
とにかく敵の攻撃を焦凍くんと共に氷壁で防ぎつつ、敵に近づこうとする。考える暇なんてない。やらなきゃ、殺られる。
地形の使い方が上手い。下に降りてくるならまだしも、上の方でずっと戦われたら炎も爆破も容易にできない。
「近づけねぇクソ!!クソ、最大火力でぶっ壊すしか…」
「だめだ!」
「木ぃ燃えてもソッコー水と氷で覆え!!」
「ここは木が多すぎる!消しきれなかったら一瞬でも燃える!危険すぎだっつの!!」
「爆発はこっちの視界も遮られる!!仕留め切れなかったらどうなる!?手数も距離も向こうに分があんだぞ!?」
焦凍くんが叫んだその時、木が折れる音が私たちの耳に入る。敵含め、全員の動きが止まったその瞬間、ありとあらゆる木をなぎ倒す何かから逃げるようにして走ってきたのは、障子くん……と背負われたボロボロの、緑谷くん。
「爆豪!轟!どちらか頼む、光を!!」
光!?どうして、と考える間もなく彼らの後ろから迫ってきていたのは大きな大きな影。でもあれはただの影じゃない。
「黒影……!?」
「障子、緑谷と……常闇!?」
「早く"光"を!!常闇が暴走した!!」
そう伝える障子くんの複製腕を攻撃する黒影。仲間か敵かすら判別がついていないんだ。だが、すぐに炎を出そうとする焦凍くんを爆豪くんが止める。
「見てぇ」
「なにを……はっ、まじか……」
散々私たちを苦しめた敵を、一瞬で行動不能にしてしまった黒影。光に弱く、闇が深くなればなるほど、とは聞いてたけどここまでなんて。
そして敵がやられたのを見て、2人がようやく光を出し止めるとあれだけ暴れていた黒影は一瞬で小さくなり、常闇くんが地面に膝を着く。
敵が周りにいないことを確認し、ひとまず常闇くんから話を聞く。黒影が暴走したのは障子くんの腕が切り落とされたこと。複製腕だったらしく復活するからいい、と聞いた時は少しほっとした。
そしてそれが引き金となり、夜のこの闇の深い中必死に抑えていた黒影が怒りによって暴走、制御不能…となった、というのが私たちと合流する以前の経緯。
そして緑谷くんがテレパスを聞けていなかった常闇くんに、ここまでの現状を話し、私達がすべきこと、爆豪くんを施設まで送り届けることを確認。
「ただ広場は依然プッシーキャッツが交戦中、道なりに戻るのは敵の目につくしタイムロスだ。まっすぐ最短がいい」
「敵の数分かんねぇぞ、突然出くわす可能性がある」
「ここまでの状況から判断するに、相手は緻密に計画を練ってる。待ち伏せされてる可能性も0じゃない」
緑谷くんはボロボロながら、依然力強い瞳で答える。
「障子くんの索敵能力がある。そして轟くんの氷結、翠蒼さんの水と三態操作の応用力、更に常闇くんすらいいなら制御手段を備えた無敵の黒影……このメンツなら、正直オールマイトだって怖くはないんじゃないかな…!」
「何だこいつら!!!」
くわっ!とようやくおいてけぼりにされてた爆豪くんが叫ぶ。……緑谷くん、動ける体じゃないし意識があること自体が不思議だ。それでも動けているのは、爆豪くんを、みんなを助けたいっていう強い意志から、か。
「緑谷くん、ちょっと痛いかもだけど我慢して。触る」
「っ、ごめん、翠蒼さん……」
謝るなら、そんな怪我をしないでくれとは言えなかった。先に避難しろ、とも。私だって、多分同じことするから。
なんにせよ少しでも応急処置をしなければ。血が出ている腕にそっと触れ、血を止めた。
「よし、行こう。必ずみんなで無事に先生のとこに戻ろう」
「っ!うん!」
「行くぞ!!」
「俺を守るんじゃねぇクソども!!」
「爆豪くん今は頼むから黙って……」
決意と、少しの不安を胸に抱きながら歩みを始めた。
どれくらい経っただろうか。ざく、ざく、と慎重に歩みを進めていく。前を障子くんと轟くんが固め、真ん中に爆豪くん。その後ろに私と常闇くんで囲うようにして歩いてる。そこでふと気づく。
なんで、隣から足音が聞こえない?
ぱっと横を向いた瞬間に、黒い何かが飛んできて「爆豪くん!」と叫んだはずの言葉は音になる前に消えていった。
そして瞬き一つの間に、透明な何かに閉じ込められていた。何が起こったのかは分からなかったが、少なくとも敵の個性によるものだとは理解出来た。試しに個性を外に向かって放ってみても、ビクともせず、何なら傷1つつかない。
パニくりそうな頭を落ち着かせる。冷静になれ、私。慌てたらチャンスも何も逃してしまう。必ず誰かが助けに来てくれる。それまで、待つしかない歯がゆさはあったけれど、待つしかない。
信じよう、と深呼吸をした。
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