夏だ!海だ!林間合宿だ!
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いよいよ始まった3日目。昨日の疲れがみんな完璧に取れないまま昨日と同じ、というかそれ以上にキツイことをやるもんだから自然と動きが落ちてくる。
補習組は寝不足も顕著に現れてて人のことはいえないけど、本気できつそう。そんな彼らに消太さんは容赦なく、さらに言えばギリギリだった組らしいお茶子と青山くんにも声をかけていく。
「気を抜くなよ、皆もダラダラやるな。何をするにも原点を常に意識しとけ。向上ってのはそういうもんだ。何の為に汗かいて、何の為にこうしてグチグチ言われるか、常に頭に置いておけ」
原点。
私の原点は、消太さんだ。
ヒーローに憧れたきっかけは両親でも、夢として目標として、目指すことになったのは消太さん。この人を守れるくらい、大切な人を守れる人になりたかったから。もう2度と失わないように。
同じ思いをする人が一人でも減らせれるように。
そのためにはこんなとこで限界だなんて言ってらんないよね、と気合いを入れ直したところでピクシーボブさんが明るくみんなに告げる。
「ねこねこねこ……それより皆!今日の晩はねぇ……クラス対抗肝試しを決行するよ!」
うげっ…肝試しか。1部からは歓声が上がってるのも聞こえるけど、私はめちゃくちゃ苦手だ。まあでもみんなと一緒なら楽しめるかもしれない。とにかく頑張ろう!プルスウルトラだ!
*
「翠蒼さん、ちょっといい?」
「お、緑谷くんじゃん。どしたの?」
今日もきつい訓練をどうにか終えて、ヘロヘロになりながら野菜を切っていると、緑谷くんから話しかけてくるのはちょっと珍しいな。
ちょうど自分に分けられたものは切り終えたので包丁を置いて向き直ると、なにやら言いにくそうな顔。何度か迷って、口をパクパクとした後にようやくこちらを見て何かを言おうとした…んだけど、別の声に遮られる。
「緑谷……悪ぃ、話し中だったか」
「あ、轟くん。…ううん、大丈夫」
「私も大丈夫だよ。焦凍くん、なにか緑谷くんに用事?」
「あ、いや…オールマイトに何か用事でもあるのかと思って。昼間相澤先生に聞いてたろ」
そういえば、と昼間の光景を思い出す。もしかして私に聞こうとしたことも関係あるのかな?と思って緑谷くんをみると頷いたので、それならばと2人で聞く体制に入る。
「…っと、洸太くんのことで…」
「洸太?誰だ?」
「ええ!?あの子だよ、ほら、えっと…あれ、またいない」
緑谷くんが指した先には洸太くんはいなかった。焦凍くんに「マンダレイさんの従兄弟の息子さんだよ」とコソッと言うと、「ああ」と返事してたけど多分わかってないなこれ、と苦笑い。
緑谷くんはなにか思うことがあるような顔をしたあと、薪を入れながらぽつり、ぽつり、と話していく。
「その子がさヒーロー……いや個性ありきの超人社会そのものを嫌ってて、僕は何もその子の為になるような事言えなくてさ。オールマイトなら何て返したんだろって思って……轟くんと翠蒼さんならなんて言う?」
超人社会そのものが嫌い、洸太くんがお父さんたちの従兄弟であるマンダレイさんの元にいること、緑谷くんが私に相談しようとしたこと、その3つで何となく分かってしまった。言いにくそうにしてたことでそれは確証に変わる。
洸太くんの両親は亡くなってる。そして多分、ヒーローだった。私と似たような境遇なんだろう。
「…………場合による」
「っ…そりゃ場合によるけど…!!」
ドンッ!と言い放った焦凍くんにずっこける。緑谷くんも思わず突っ込んだ。その彼は再び口を開く。
「素姓もわかんねぇ通りすがりに正論吐かれても煩わしいだけだろ。言葉単体で動くようならそれだけの重さだったってだけで……大事なのは”何をした・何をしている人間に”言われるか…だ。言葉には常に行動が伴う…と思う」
なんだか、焦凍くんに言われるとこう、ずっしりと重みがあるというか。説得力がある。そして、私も考えたことを口にする。
「私は…待つことしか、出来ないかな。今は洸太くんにとっての世界は、意味のわからないものだらけで、だから嫌いなのかもね」
私もそうだった、とは心の中で付け足す。
「けどね、少し世界が広がれば、好きなとこも意外とすぐ見つかったりする。…そのためには、きっかけが必要で、私の場合は消太さんだったりしたんだけど、洸太くんにとってのその人は、まだなんだと思う。いつか絶対、広げてくれる人は現れる、とは言いきれないけど…無理やりその人になれるもんでもないしさ、待つしかないかなって」
もちろん緑谷くんの何かしてあげたい!って気持ちも大切だと思うよ?と笑う。緑谷くんはそっか…と頷いていた。
「…そうだね、確かに…通りすがりが何言ってんだって感じだ」
「お前がそいつをどうしてぇのか知らねぇけど、デリケートな話にあんまズケズケ首突っ込むのもアレだぞ。そういうの気にせずぶっ壊してくるからな。お前意外と」
「……なんか、すみません……」
「あはは!」
「君たち!手が止まってるぞ!!最高の肉じゃがを作るんだ!!」
笑っていると、飯田くんからお叱りを受けたので切っていた野菜を運ぶためにザルに入れていく。緑谷くんも他のところに火をつけに行ったので自然と解散になった。
「心」
「ん?」
「大丈夫か?」
持っていた鍋を運び終えて、野菜を切ったあとの片付けをしているところにわざわざ来てくれた焦凍くん。何がだろうか、と思っていたが付け足すように「さっき…なんか、寂しそうな感じがした」と言われ納得する。
本当、焦凍くんはよく気づくなあと苦笑い。優しい彼は意外と人のことに鋭かったりする。私以外にも飯田くんとか百のことだって気づいてたしさ。
「ありがとう。…昔の自分みたいだなって洸太くん」
「そうなのか」
「うん。だからさ、早く気づけるといいなって。世界が広がれば、それだけ楽しい!がたくさんだからさ!」
「そうだな」
ふっと表情を緩めて、頭をくしゃくしゃっと撫でられる。最近よく撫でられるな……嬉しいけどやっぱり心臓に悪い。ちょっぴり赤くなった頬を冷まそうとパタパタしていると焦凍くんは、その優しい顔のまま口を開く。
「さっき、お前の世界を広げてくれたのは相澤先生って言ってたけど、俺にとってのそれは、心だったり緑谷だったり…だな」
「へ」
「ありがとな」
「あ、う、うん…」
「轟ー!火ぃ消えた!付けてくれ!」
「ああ、今行く」
呼ばれた方に走っていく彼の背中を見ながら、ちょっと崩れた髪をなおす。
……夜でほんとによかった。
こんな赤くなった顔は見せられない。
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