夏だ!海だ!林間合宿だ!
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訓練も終了し、筋繊維から精神までブッチブチになった午後4時。次に私らを待ち受けていたのは……
「さァ昨日言ったね!”世話焼くのは今日だけ”って!」
「己で食う飯くらい己でつくれ!!カレー!!」
カレー作りでした。
もう何を言われようが「イエッサ…」と力ない声で返すしかない。やばい身体動くかな…ほんとちょっと、痛い…あと頭フル回転させてたから頭も痛い…でもカレー作らなきゃ…と思ってたら1人張切る声。飯田くんだ。めちゃくちゃ張り切ってるし、いいふうに解釈してみんなを盛り上げてくれてる。
ちらりと見た消太さんが「ほー…」みたいな顔してたのは見逃さなかった。あれ絶対「飯田便利」ぐらいに思ってる間違いない。けどそれを突っ込む余裕もない。
始まったカレー作りは、私はカッティング部隊へと任命されひたすら野菜を切る。無心で切る。正直もうなにも考えたくないので、とにかく切っていたら過去最速で山のような量を切り終えた。
「三奈〜お茶子〜野菜切ったけど、どこにぶち込めばいい?」
「あ、そこの鍋に!まだ火付けてないから入れるだけでいいよ!」
「心ちゃん切るのはやない!?」
「無心で切ってたら終わってた」
とりあえず指定された鍋にぶち込む。すぐ近くで三奈が「轟ー!こっちも火ィちょーだい!」というのが聞こえ、ちょっと向こうからは「爆豪爆発で火ィ付けれねぇ?」という声が聞こえてくる。確かに重宝されるよなーと納得する。
「皆さん!人の手を煩わせてばかりでは火の起こし方も学べませんよ」
「いや…いいよ」
百の言葉を制して、火をくべる焦凍くん。
ふと見た、火に照らされるその顔があまりにも綺麗で、優しくて、目を奪われ、ぼーっと眺めてしまう。
「… 心?だいじょう…ああ」
「へ、あ、きょ、響香さん?な、なんですかその笑みは…」
「いや〜恋する乙女はいいね〜」
「透まで!?」
それに気づいたのは響香に声をかけられてからで、本当に無意識だった。ハッと我に返るとニヤニヤした響香と、楽しげな顔をしてるだろう透がいて、顔がカッと熱くなるのを感じる。逃げるように作業に戻るけど、しばらくその熱は冷めそうになかった。
*
「……何度目だ、これ」
ご飯もおなかいっぱい食べて、疲れているけど少しだけトランプで遊んだりして、そんでみんな寝て。それでも寝れなくて、三奈が補習から帰ってきた音を聞いたのがもうどれくら前だろうか。
昨日よりも疲れているはずなのに、昨日よりも寝られない。…原因はたぶん、なにかの夢なんだけど思い出せない。ただ最後に嫌な、脳にこびりつくような声で何かを言われ、そして目を覚ますことを繰り返している。
ここまで来たら諦めるか、思い切って体を起こす。みんなぐっすり寝ていて少しだけ強ばっていた心がその寝顔でほぐれる。空は少しずつ明るみ始めているから、夜明けもまもなく近いんだろう。どうせ寝れないんだったら走ってこよう、と布団から出る。
施設の周りを走って、少し汗をかいたところで戻ってくる頃には空はすっかり明るくなっていた。突っ込んできたスマホが表示する時刻は午前5時。今日は集合が7時だから、まだみんな寝てる時間か。
でも部屋に戻って起こしたら嫌だし、外で座っていようかな、と壁に背を預け腰を下ろす。息を深く吸えば、夏の朝少し冷えた空気が肺に入るのが気持ちが良かった。あの声はもう聞こえなくなっていた。
ドアが開く音がして振り返ると焦凍くんがいた。スマホをちらりと見れば6時。そろそろみんな起きただろうし部屋に戻ろうかな、と立ち上がる。
「おはよう」
「はよ。心早いな、ランニングでもしてたのか?」
「うん、焦凍くんは今から?」
「ああ」
邪魔しちゃ悪いから、とドアの方に足を進めようとしたのにパシッといきなり腕を掴まれそれは止まる。再び振り返って、焦凍くんを見ると何故かその本人が驚いた顔をしてるもんだから、ちょっと困惑してしまう。
「どうかした?」
「……いや、悪ぃ。なんでもねぇ。引き止めて悪かった」
「それは私のセリフかな。ランニング、頑張って」
「ありがとう」
変な焦凍くん、だけどまあ何もないって言うなら何も無いのだろう。首を傾げながら部屋に戻った。
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