気張ってこーぜ!期末テスト!
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「…はい、もういいよ。被害届け、までは出来ないけど一応ここら辺巡回するとかそういう依頼は出しとくよ。保護者の人の連絡先教えて貰ってもいいかい?」
「あ、これです」
焦凍くんに手を引かれるがまま連れてきてもらった交番で、事情を説明するとすぐに調書を作成してもらえた。男の外見はパニクって全然覚えてなかったけれど、焦凍くんがしっかり覚えてくれてたので助かった。警察官の人にする話を聞くと、彼はどうやらお見舞いの帰りだったらしい。
渡した携帯番号に、電話をかけるために席を立った警察官。消太さんに迷惑かけちゃった。申し訳ない。壁にかけられた時計をちらりと見ると1時すぎ、焦凍くんも凄く付き合わせてしまってる。
「翠蒼さん、親御さんが代わってくれって」
「あ、はい」
電話を持って帰ってきた警察官の方から受け取って、耳に当てる。「もしもし、代わりました」と告げると「心か」といつもの声。握り締めてた手から少し力が抜けた。警察官から粗方事情は聞いているみたいだ。
「ひとまず、怪我とかはないんだな」
「はい。ごめんなさい、迷惑かけて」
「そんなことはいい。…どうしてもすぐには仕事が抜けられそうにない。だから、」
「消太さん、大丈夫です。1人でも帰れるので、」
「先生、俺です。轟です」
「ちょ、焦凍くん!?」
そうだよな…消太さん忙しいし急には抜けれないだろう。待たせてもらえ、と続きそうな言葉に1人で帰れるから大丈夫だとと伝えようとした途中で電話を横から取り上げられる。言わずもがな、今そんなことをする人は一人しかいない。
え、え、と戸惑っている間にも「はい…はい」と勝手に話が進んでいるっぽい。
「取り敢えず俺が送ってきます。……はい、大丈夫です。はい、はい。いえ、失礼します。……ん。急にとって悪かったな」
「え、あ……あれ、切れてる」
渡された電話は既に切れていて、返されたそれはツーツーと音がするだけ。ハテナだらけのまま警察官の方にとりあえず返す。え、俺が送っていくって…え?
「帰るぞ。家まで送ってく」
「……重ね重ね本当にごめんなさい」
「いいから。じゃあ、ありがとうございました」
まだ追いついてない頭だけど、これ以上ここでゴネても迷惑だと思って一旦受け入れる。すると焦凍くんは警察官の人にお礼を言って、来た時と同じように私の手をしっかりとつかんで交番を出た。
それにしても、さっきの人はなんだったんだ。警察官の人も、焦凍くんが伝えた特徴や私が掛けれたであろう個性を思い返してみてもやっぱり知り合いの中にはいない。
「おい、心?…おいっ!」
「え、あっ。ごめん、どうした?」
呼ばれて顔を上げる。道路を走る車の音、人のざわめき。一度に現実に戻ってきたみたいだ。いつも通りの光景なのに、私だけそこから抜け落ちたような感覚。
視線の先の彼に問えば、少し間を置いて尋ねてくる。
「……いや。家の方向、こっちであってたよな?」
「あ、うん…でも、もう少しだし人通りもあるから、」
「こっちならいい」
続けようとした言葉は遮られ、再び手を引かれる。会話もなく、少し先に行く彼だけど歩調は私に合わせられてることはよく分かった。
前も休日にばったり会って、あの時は荷物持ってもらったんだったな、それにしてもよく道を覚えてるな、てかいつまで手繋いでんだろう、とかどうでもいいことを色々考えている内にあっという間に家の前。
「ここだよな」
「…うん、ごめん本当に。休日も潰しちゃって、」
「別にいい、気にするな……だから、少しぐらい自分の心配しろよ」
離そうと思った手は離されず、むしろ力を込めて握られる。思わぬ言葉に俯いていた顔をあげれば、眉間にしわがよっていた。
優しい彼の言葉に、じんわりと固まってた心が解れていく。どこまでも焦凍くんはヒーローだな、と改めて思う。
焦凍くんがたまたま通りかかって、あの場で助けてくれたことには感謝してる。けれど、もしあのひとに何か傷つけられるようなことになっていたらと考えた時、そっちの方が私は怖かった。
結果的に焦凍くんに何も無かった。私にも何も無かった。
だから私は大丈夫だ。そういう思いを込めて笑ってみせる。
「大丈夫だよ、大丈夫。どこも痛くないし、焦凍くんが助けてくれたから何もなかったんだもん。だからそんな怖い顔しないで?」
「……本当に大丈夫なんだな?」
「うん、多分消太さんもじきに帰ってくるから」
ありがとね、ともう一度笑えば握られた手の力が抜けたのがわかる。さっとほどいて、なせか立ち尽くす彼の顔の前で手をヒラヒラと振ると、ハッとした顔をした。
「……悪ぃ」
「謝るのは私の方だって。色々付き合わせちゃったから疲れてるんだよ。ここまで送って貰っといてなんだけどさ、早く帰らないと家の人も心配するんじゃない?」
「それは大丈夫だし疲れてない。……じゃあな」
「うん。本当にごめん、ありがとう。また週明けに!」
そう言うと彼は、何秒か私を見つめた後にようやく背を向け歩き出した。
あんなに突き刺していた太陽の光が、少し暗くなっている。見上げると雲がかかっていた。……これは午後から雨が降るかもしれない。洗濯物早めに入れよう、と決め彼の背中が見えなくなったのを見て玄関をくぐった。
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