気張ってこーぜ!期末テスト!
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ステージまではバスで10分もかからなかった。降りてすぐに消太さんによる詳細なルールの説明が始まる。
内容は割とシンプルで敵役となる先生を捕まえるか、もしくは脱出ゲートを通過してクリアするかの2択。ただ普通に行けば逃げの一択になってしまうので、先生達は体重の半分の超圧縮おもりを体に装着するというハンデ付き。
「実力差の大きすぎる場合、逃げて応援した方が懸命……轟、翠蒼、お前らはよくわかってるはずだ」
思い出される先日のヒーロー殺し。あの時はたまたま勝てたけど、一歩判断を間違えていたらこの場にはいられなかった。この試験だと"判断力"は1つの鍵になる。試験でも間違えられない。
「それじゃあ10分後、スタート位置につけ。翠蒼はバスの中に戻って待機な」
そう告げて、市街地を模した演習場のどこかへとあっという間に姿が見えなくなった。
「じゃあ私は戻るよ、頑張って!2人とも!!」
「ええ…ありがとうございます」
「…百、百には百の良さがあって、それは誰にも真似出来ないものだよ。百にしか出来ない事が絶対ある。だから、大丈夫だよ」
「… 翠蒼さん」
自信なさげに微笑む百に、ぎゅっと手を握って伝える。それでもやっぱり百は浮かない笑顔を浮かべて、歩き出した。
うーん…やっぱり気になるなあ。百にならって歩きだそうとした焦凍くんの袖を掴んで引き止める。
「お、どうした」
「あのさ、えっと…焦凍くん、たまにこう、ゴリゴリいっちゃうことあるから多分消太さん、そこ突きに来ると思う」
「…すげぇ説得力だな」
「でもね、百がそこら辺はすっごく頼りになるから……うん、ちゃんと頼って…って言っても焦凍くんなら分かってるか」
迷いなく頷いた焦凍くんに、なんかモヤッと心の中が暗くなる。2人とも普段から席隣だし、推薦入学者だし仲良いもんな。そりゃ知ってるよ、頼りになることぐらい。私に言われなくても、うん。
ズルズルと考えれば考えるほどモヤッとがどんどん濃くなる気がして動揺する。てかいつまで焦凍くん引き止めてんだ、迷惑じゃんと慌てて掴んでいた袖を離す。
「ごめんね!引き止めちゃって…試験、頑張ってね」
「おう。ありがとな」
私の様子に若干不思議そうにしながらも、お礼を言って百の元に小走りで駆けていく焦凍くん。並んだ2人の後ろ姿は、それはもうお似合い、としか言いようがなくて。
「…何考えてんだか」
頭を振って2人に背を向け、バスの方へと歩き出した。今はテストに集中しろ!しっかりしろ!相手は消太さんだぞ!と気合いを入れ直した。
*
『轟、八百万試験達成』
「良かった…!」
バスの中だと試験の様子は一切わからないから、ずっとソワソワして待っていたけどそのアナウンスが外から聞こえてほっとする。
すぐに帰ってくるだろうし、折角なら出迎えようと外に出てしばらく待つと、人影が見えた。と思ったと同時に暖かい衝撃。
「心さんっ!」
「うおっ…と、おめでとう百」
勢いに押されて転びそうになりながらどうにか受け止める。というか百がこんな勢いよくスキンシップを取ってくるのは珍しい…と感動を覚えていると、どうやら百も興奮のあまり、と言った感じだったようで顔を赤らめながら離れる。
「すみません…つい」
「大丈夫だよ!でもすごい、先生に勝っちゃうなんて!」
「いえ、私だけではムリでしたわ。轟さんのおかげですわ」
そう言って、戦闘中に焦凍くんに言われた言葉や出来事を教えてくれる。きっと言われた言葉が嬉しかったんだろうなあ、緩く笑うその顔から伝わってくる。百の何か悩みも吹っ切れたようで良かった。
よかったのになんでかなぁ、始まる前に感じたモヤモヤがまた広がっていく。
もうここまで来れば、それが何かなんて嫌でも自覚するしかない。はじめてだけどその感情はストン、と私の中に落ちてきた。でも今は必要ないそれにそっと蓋をする。
「けど、心さんのおかげでもありますわ」
「…私?」
「心さんが試験前に言ってくださったんじゃないですか!"百には百にしか出来ない事がある。だから大丈夫だよ"って」
凄く力になりました、と笑う百に今度は私が抱きつく番だった。モヤモヤを親友に感じてしまった罪悪感も何もかも消えるわけじゃないけど、それを軽く超えてしまう嬉しさ。ちゃんと私の言葉は届いてて、力になれた。それが何より嬉しい。
「お前ら何やってんだ。移動するぞ」
「あ、相澤先生」
「はい!」
ギューっとバスの入口の前でやってると後ろから追いついてきた消太さんにそう言われ、2人で笑いながら再びバスに乗り込む。それを見た焦凍くんに不思議そうに「お前ら、なんでそんなに楽しそうなんだ?」と尋ねられ、百と顔を見合わせて答えた。
「んー…女の子の秘密っ!」
「ええ、そうですね。秘密、ですわ」
「そうか」
未だに首を傾げる焦凍くんに2人でまた笑っていると、バスが出発する。
さぁ次は私の番だ!
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