学べ!職場体験
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あれから4時間、時刻は5時過ぎ。みっちりスノーさんに訓練してもらって精神的にも体力的にもヘロヘロだ。こんな個性の使い方をしたの初めてだ、氷ほとんど使ってない。
「少しコツは掴めたかしら?」
「はい!でもこれから実戦への応用はしんどそうです…」
「あら、そういう時こそあなたの校訓じゃない?」
「「プルスウルトラ!」」
2人で顔を見合わせて笑う。スノーさんの教え方は丁寧で、でも私がちゃんと考えて答えを出すようなやり方で凄く身になった。あと優しかったのでなんだかお姉ちゃんが出来たみたいだな〜と勝手に思ってたり。
「あら、ココロちゃんみたいな可愛い妹だったら大歓迎よ!」
「んぐぐっ、ちょ、スノーさん、しまる、しまります!」
声に出ちゃってたみたいで、勢いよくむぎゅっと顔ごとふわふわおっぱいに押し付けられて息が詰まる。リアルに窒息しそうだ、と焦ったところで部屋に響くノック音。
はーい!入っていいわよ〜!とスノーさんが私を離しながら応えると、焦凍くんが入ってきた。その顔はなんだかめっちゃ不機嫌だ。え、何があったのだろう。
「心、クソ親父が呼んでる」
「おーわざわざありがとう!スノーさん、お疲れ様でした」
「はい、お疲れ様。また明日ね〜」
焦凍くんの顔の理由がわかった。クソ親父、の呼び名は崩す気がないみたいだ。スノーさんにお礼を言うとひらひら〜っと手を振って見送ってくれる。さて、エンデヴァーさんからお呼び出しがかかるとは。ちょっと緊張する。
私の少し固くなった表情を見られたのか、焦凍くんに腕を捕まれ足が止まる。
「大丈夫か、嫌なら俺から、」
「いやいや!そんなことさせられないし、エンデヴァーさんに失礼だよ。でも心配してくれてありがとね」
「……わかった。終わるまで待ってる」
笑っていえば不服そうな表情だけど、腕は離してくれた。今度こそトレーニングルームをでて社長室へと向かう。出る間際に、スノーさんが「青春ね〜」なんて言ってたのは聞かないふりをした。
着いたドアはやっぱり大きくて、ノックしてから直ぐに中から「入れ」と聞こえてくる。そーーっと扉を開けて「失礼しま〜す…」と、中に入ればエンデヴァーさん。
1体1は体育祭以来なので、あの時のこともあってかさらに心臓がうるさくなる。
「焦凍くんに言われたんですけど……なにか」
「何かあるのはお前だろう。聞きたいことがあるなら早く聞け」
「……バレてました?」
「バレるも何も、うちに来たのは最初からそれが目的だろう。いい度胸だな」
部屋の中央まで来た私を、座っていた彼が立ち上がって見下ろす。うっ、威圧感半端ない。てか選んだ理由バレてたんだ。まあバレるか。エンデヴァーさんは「はやくしろ」と急かすので思い切って尋ねる。
「お父さん達のこと、何か知ってますか?」
「オレも詳しくは知らん。情報規制がかかってるのは、お前も知ってるだろう」
「はい。…それが普通ではなくて、裏に何かしらあることも」
「ふん……イレイザーヘッドは何も言わんのか」
「いや、まあ…あんまり、困らせたくないので」
私の様子にエンデヴァーさんはため息をつく。そして机をさぐったと思えば、ひとつの写真を差し出してきた。
受け取っていいものか、手を差し出しかねてるとぐっ!と前に出されたので、恐る恐る受け取る。
写真は…真ん中に、小さい頃の私。そして両親と3人が笑ってるやつ。なんでこんなものをエンデヴァーさんが。
「…あいつらが亡くなる1週間前ほどに、俺に押し付けてきた。娘をよろしく頼む、とな。遺書にはイレイザーに引き取って貰えるように書いてあったようだが」
「それは、聞いたことあります。…でも一週間前って」
「少なくともその後1週間に連絡は取れなかった。俺が知ってるのはそれだけだ。そして、突然殉職した」
まるで死ぬ事がわかっていたかのような行動。それ以上は分からなくても、十分だ。今までぼやけていたものが少しずつ、黒くなってくる。ただの殉職じゃない。
「…知ってどうする」
「どうもこうもしません。今更復讐したって、2人が帰って来るわけじゃないし。……ただ、あの人の背負ってるもんを私も同じように、持たせて欲しいだけです。
たとえその先にどんな事実があろうと2人が私を愛してくれてたこと、立派なヒーローだったことは変わりありません。この写真が、証明の一つです」
警戒するように、威圧感を持って聞かれる。でも今度は真っ直ぐ、エンデヴァーさんの目を見つめて答えた。「やはり、似ているな…」とあの時のように懐かしむ目に変わる。「お母さんですか?」と聞くと、思いっきり目をそらされた。うわ、絶対この人お母さんと何かあった。わかりやす!
表情に出やすいとこは焦凍くんに似ているのかもしれない。親子だし似るのも当たり前か。面白くてクスクス笑っていると、用が済んだなら帰れと言われたので大人しく帰る。なんだかあんなに緊張してたのが馬鹿みたいだ。
「ありがとうございます。写真、大事に取っててくださって」
「頼まれたから仕方なくだ」
「それでも、です。ではお疲れ様でした、また明日もよろしくお願いします」
存外、普段は不器用なだけの人かもしれない。そんなことを考えながら社長室を出て、更衣室に向かいすぐに着替える。絶対焦凍くん待たせてる。写真は大事にファイルに挟んだ。後でじっくり見よう。急いで更衣室から出ると、やっぱり焦凍くんが既に玄関のとこにいた。
「ごめん!待たせた!」
「そんなに待ってないから気にすんな。…アイツに嫌なこととか言われてねぇか」
「ん?言われてない言われてない。だからそんな顔しないで」
「お」
ぐいーーっと焦凍くんの頬を引っ張れば眉間に寄ってたシワが取れる。うん、怖い顔よりこっちの方が全然いい。てかお肌もちもちだ…少しばかり堪能してると「いつまで続けるんだ」と頭に軽く手刀を落とされたのでやめる。
事務所の方でホテルを取っておいてくれてるので、そこまで歩く。職場体験の前に調べてみたらそこそこ立派なところでちょっとびっくりしたのは別の話。他愛もない会話をしながらのんびり歩く。
「疲れたね。初日からガッツリだった」
「そうだな」
「でもまだまだ続くしね!頑張ろ!」
「おう……あ」
右手を急に上げる焦凍くん。これって…と軽く手を当ててハイタッチしてみるとなんか満足気だ。もしかして。試しに聞いてみる。
「あってた?今の」
「…あってた」
察してくれたのか同じ返しをしてくれた焦凍くんに思わず吹き出す。彼も釣られたように頬を緩める。
夜の街に静かに響く2人の声がとても心地よかった。
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