体育祭:Rising
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色々あった表彰式も無事に終わって、いざホームルームへ。いやあほんと濃かった。まさかの爆豪くんガッチガチに拘束で表彰台登らされてるのびっくりした。目の吊り上がり方が90度近いの吹きそうだったの我慢した、あれはすごい。
いつもよりみんな疲れた表情で消太さんの話を聞くみんな。私も正直眠い、けどもう少し頑張ろう。
「プロからの指名などをこっちでまとめて休み明けに発表する。ドキドキしながらしっかり休んでおけ」
そうだ、体育祭の1番の目的はプロからのスカウト。色々ありすぎて忘れていた。
3位だったし少しぐらいは来ると思いたい。でも爆豪くんとの試合、なんにも考えずにただ個性を使った、って感じだから扱いきれてないのプロにはバレてるだろうなあ…2日後がまじで怖い。
「んじゃ解散。おつかれさん」
その一言で教室が一気に騒がしくなる。出ていく背中を見送ったあと帰り支度を始めた。今日のご飯は何にしようか、やばい思いつかない。悩みながら進めていると響香と百が席までやってきてくれる。一緒に帰ろうとのお誘いだ。
喜んでOKさせてもらい、3人で教室を出る。心なしか百の顔が暗い事が気になった。彼女の試合は見れてないからよく分からないけど、何かあったのか。はたまた疲れただけかわからなかったので触れられなかった。
「そういや、あんたちょこちょこ居ないこと多かったけど何してたの?」
「精神統一!と、轟くんとお話してたりかなあ…」
エンデヴァーさんとも話したりしたけど言えるわけないし。色々思い出していると、隣から突き刺さるニヤニヤとした視線。これは間違いなくあれだ、誤解されてるやつだ。
「あの、響香さん??違うからね??」
「でもさー轟、あいつ心が準決で倒れたあと割とすぐにフィールド降りてたからね?氷溶かすためにわざわざ」
「へ」
「それに、そのあとも保健室で付きっきりでしたものね」
初耳の事実が沢山知らされる。なにそれ心ちゃんびっくりだぞ。轟くんにお礼言わなきゃなあ。でもその前に今はこの2人の誤解をとくことが最優先。
ああ、もうそのニヤニヤをやめてくれ!!百は「お似合いですわ」と言うし、響香は「で?体育祭での進展は??」ってつんつんとつついてくるし!
炎はあったかくて、優しい。あと、あの手はすごく安心したなあ…まだ短い付き合いだけど沢山助けられて、似たもの同士だからちょっと仲良くなっただけ。それだけのはず。
……ああもうなんだか恥ずかしくなってきた。断じて恋愛感情はない、今日は色々あったからこんなふうに考えてしまうだけ!うん、そうだ!
「尊敬はしてても、恋愛感情じゃないよ」
今はまだ、とは心の中で付け足す。これを言えば2人の餌食だ。意外と響香は恋バナ好きだったりするんだ。プリプリしてお花飛んでる百とかも、とにかく2人見てる分にはかわいいんだけど、その話の中心が自分なのはちょっと辛い。
そもそも轟くんにも申し訳ない。でも、もしいつか恋愛感情に変わったその時は正直にそしてこの2人に1番に話そう。うん、そうしよう。
固く決意して否定し続ける私にさすがに諦めたのか「まあいいけど」と話を変えようとする響香の言葉を遮って、私を呼ぶ声。振り返れば先程まで話題の中心だった彼だ。
「轟くん?どうした?」
「いや、ちょっと話してぇことがあって」
でも帰る途中だったよな、悪ぃ。といって立ち去ろうとする轟くん。さっきまでの私たちの会話は聞こえてた様子はないのでOKだけど、ちょっと気恥ずかしい。そんな私の心中を察してか響香からは哀れみの視線を送られる。でもそれは直ぐに悪い顔に変わって、嫌な予感。
「あ!ウチら用事思い出したから!先帰るわ!ね、ヤオモモ、いこ!」
「え、ええ!心さん、轟さんまた!」
まっじかよ…なんかやると思ったけどそう来たか。気遣いありがたいけど、今は気まずいです。あともう少しワガママ言うなら上手いこと2人きりにして欲しかったな。轟くんも「気ぃ使わせちまったな…」って呟いてるし。つか2人とも超足速い。
しんっと静まり返った廊下、ここで立ちつくしていてもしょうがないしひとまず帰ろっか、と声をかけて歩き始める。
「それで?どうしたの?」
「…明日、お母さんのとこに行こうと思う」
そう呟いた轟くんの横顔は決勝、そして表彰式の時よりも少しだけスッキリしていた。彼の中でやっと、なにか踏ん切りがついたのだろう。
「俺だけが吹っ切れて終わりじゃ駄目だ、って思った」
「そっか」
「たくさん、話をしないと…」
左手を見つめながらぽつ、ぽつ、と語る轟くん。少しだけその手が震えてるのが見えた。顔にも不安の色がチラチラと見える。
ずっとずっと目を背け続けてきたものに向かい合うのは、凄く怖い。それは私もよくわかってる。
だからこそ、私にそのきっかけをくれた彼をどうにか元気づけたいと思った。少しでも安心して欲しい、君なら絶対大丈夫だ。彼がしてくれたことを思いだして、そっと震えてる手を取る。相変わらず温かくて大きな手だ。
「轟くんなら大丈夫だよ。絶対、大丈夫」
私を助けてくれた優しい優しいヒーロー。その優しさがあるなら絶対に大丈夫。お母さんにもきっと届く。…いや、彼のお母さんならその優しさはもう知ってるだろう。だから上手くいく。
「…ありがとう」
「どういたしまして!」
優しく笑った轟くんに釣られるように私も笑う。握っていた手を離して駅へと再び歩き出した。実ははじめて帰ったあの日に同じ路線で同じ電車のことを知った。最寄りは私の方が一駅分近いんだけどね。
雄英からほど近くにあるのですぐに駅に着いて、タイミングよく電車に乗り込むことができた。席は空いてないけどそこまで混んでおらず2人でドアの近くに立つ。…こう、改めて見ると轟くん結構大きいんだなあ、と。
流れる景色を見ながら、特に話をする訳でもない。でも気まずさは感じない。あの日もこんな感じだったなあ。
あれから色々あった。主に救けてもらってしかないから少しでも恩返ししたいな。そんなことを考えてると、私の降りる駅が近づいて電車は減速していく。
「今日はありがと!今日だけじゃないけど!」
「いや、俺は特になんも…」
「そう?でも少なくとも轟くんの言葉で勇気づけてもらったし、力貰ったし、きっかけまで貰っちゃったし…うん、自信もってよ、ヒーロー。沢山沢山救けられてるよ」
開いたドア越しにお礼を言う。私の言葉に少し考えていたかと思えば、ドアが閉まる直前、轟くんは今までで1番の優しい笑顔を私に向けた。
「なら、俺も救けてもらってるよ。ヒーロー」
頭でその言葉を理解した頃には、電車はかなり遠くに言っていた。夕暮れの少し冷たい風が火照った頬を撫でるのがよく分かる。
なんっちゅー爆弾を落としてくれてんの、あの天然ボーイは…死ぬほど嬉しいけど、死ぬほど恥ずかしい。いや、嬉しさの方が強いけど、なんか、同じことを言ってたと思ってたらこう、なんか。
…まあいっか。とりあえず今日は早くおうちに帰りたい。
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