体育祭:Rising
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「ほら。これでいいよ、もうおいき」
「ありがとうございます」
リカバリーガールに治癒してもらって、救護室を出たところすぐに人影がいて「おわ!?」っと物凄い声が出てしまった。
「と、轟くん?どうしたの?こんなとこで」
「少し、話したいと思って。飯田に救護室行ったって聞いたから」
一体なんの用だろうか。分からないし戸惑いもあるけど、ここで止まっててもしょうがない。ひとまず移動した方がいいんじゃないかな?と声をかけると頷いて歩き出した彼の背中を追う。
行き着いた先は、裏庭みたいなところ。足を止めた彼にならって私も立ち止まる。彼は振り返って、口を開く。
「さっき、緑谷に色々言われたって言ったろ」
「うん」
「みんな本気だって、だから全力でかかってこいって」
私に直接言われたわけじゃないのに、緑谷くんの言葉が痛い。轟くんが今の私になんで伝えたのか、なんとなくわかる。ああもう、轟くんも爆豪くんも鋭いなあ。
「気づいたら、火ついてて」
「うん」
「お母さんの言葉思い出して、その後翠蒼のことも思い出した」
「…わたし?」
お母さんは轟くんにたくさん影響を与えている方だから納得するけど、なんで私だ?と不思議に思う。聞き返せば、轟くんは左手に視線を落としたあとこちらを向いた。
「前に、こっちも好きだって。ヒーローの手だって言ってくれたことあったろ」
「…よく覚えてるね」
「まあ、それがなんか、力にもなったというか…嬉しかったんだろうな」
「そっか……そっかあ」
「ありがとな」
少しだけ照れくさそうに、髪をかき乱しながらも伝えてくれる轟くんに笑みがこぼれる。思ったことを伝えただけの言葉が、届いてたんだとしたら凄く嬉しい。
赤く燃えて輝く炎は、轟くんの今の全力の証だった。そしてそれはすごく綺麗で羨ましかった。過去の壁を乗り越えた彼も、それを引き出せた緑谷くんも。
「翠蒼、大丈夫だ」
「……」
今の私を見透かしたように、真っ直ぐ見つめられる。なんて答えればいいのか分からなくて下を向いた。すると影が動く気配がして、握りしめていた手をそっと取られて包まれる。
驚きのあまり上をむくと、再び澄んだオッドアイとパチリとあった。
「緑谷の受け売りなんだが…お前の力だ。だから、信じて大丈夫だ」
「…できることなら、そうしたいよ。でも、でもさ」
「怖いのか」
「……うん。すごく怖い」
今でも夢に見る、あの日。血を流す消太さんと、息が出来なくなって酸素がどんどんなくなっていくあの感覚。足元から凍って、このままここに閉じ込められるんじゃないかって思った。
あの後確かに引っ張り出してくれた消太さんによって助けられたはずなのに、夢の中ではあのまま溺れて死んでしまう。
「また暴走して、1人じゃどうしようもなくて、大事な人を傷つけたらって思うと凄く怖い。だからねUSJの時に、轟くんが溶かしてくれたとき。あったかくて、安心した」
ゆっくりと彼の大きな手が、私の握りしめた手を開かせる。そしてそっと握りしめた。
「ならまた俺が溶かせばいい。1人じゃどうにか出来ないなら、俺がいる」
穏やかな表情で伝えられた彼の言葉。私たちの間を優しい風が通り抜ける。陽の光に照らされた彼の顔に息を飲んだ。
そんなことを言われてしまえば、もう逃げられない。さんざん逃げ回ってたツケが回ってきた。でも引っ張り出してくれた彼だから信じられる。ここまで言ってくれてる彼に応えなきゃ。ううん、応えたい。
「…どうなるかは分からないけど、やってみる。それで、勝って、轟くんと決勝で全力で、やりたい」
ようやく真っ直ぐ目を見て言えた。震えてるし、めちゃくちゃな言葉かもしれない。けれど彼は優しい顔をして頷いてくれた。握られていた手から温もりがそっと離れる。
私の個性を操る手。それを見つめて、グッ、パーと開くと不思議と怖くなかった。
自分の力はまだちょっとだけ信じられない。でも大丈夫だと言ってくれる轟くんは、信じられる。だから信じてみようと思った。今はそれでいい。
「…って、轟くん試合あるよね!?大丈夫!?」
「ああ。でもそろそろ行かねぇとな」
「だよねーーあーごめんね!試合前に!」
「いや、いい」
轟くんの左側に並んで控え室へと向かう。そしてあの日のように気になったことを聞いてみた。
「どうしてここまでしてくれるの?」
轟くんは少しだけ歩みをとめたあと、こちらを見て1つ瞬き。そしてあの日と同じように、やわらかく優しい表情で答えてくれた。
「…なんでだろうな」
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