体育祭:Rising
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「君の!力じゃないか!」
いつからか忘れていた、自分の原点。
親父や血に捕われることなく、なりたい自分に、ヒーローになっていいと、お母さんが言っていた。長い間見失い続けていたそれを、緑谷の一言で思い出した。
「あの時氷だらけの世界から、引っ張り出してくれた。優しくて、温かい、ヒーローの手だ」
そう言って俺の左を好きだと、握って言った翠蒼の手の温かさが蘇ってくる。なんで忘れてしまったんだろう。
俺は、ずっとヒーローになりたかった。
気がつくと氷は溶けていて、赤い炎が目に入る。自分で出してるんだからおかしな話だが少しびっくりした。似たようなことが騎馬戦でもあったけど、今は嫌悪感も何も無かった。
視界の隅でクソ親父がなにやら騒いでるような声が聞こえた。そうか、アイツ来てたんだったよな。それすら気にならないほど忘れてたというのか。まあごちゃごちゃと考えるのはあとだ。今はただ、緑谷に全力で応えるだけ。
「緑谷、ありがとな」
*
控え室の近くの通路から見ていた試合は、圧巻としか言いようがなかった。轟くんが左側を使ったことも凄かったけどそれよりも、2人のかける想いに圧倒された。
いや、2人だけじゃない。尾白くんも、あの普通科の子も、お茶子も三奈も爆豪くんも、みんなみんな全力でやってる。なのに私と来たらどうだ。勝つなんて言って、でも暴走させることは最悪だからって言い訳して、できる範囲でしかやってない。
過去に止まってちっとも進んでない現実から、逃げてるだけ
そんなんじゃスタートラインがちがうじゃないかとぐるぐる考えながら控え室に入る。
しばらくして、がちゃりと扉が開いた。轟くんだ。
「もう居たのか」
「あ、うん。お疲れ様」
「わりぃな。ちょっと着替えるぞ」
一応背を向けたけどガサゴソと衣服が摺れる音がなんだか恥ずかしい。てかさっき見えてしまった体とか凄かったもんな……いや私何考えてんの。
「次、飯田とか」
「え、あっ、うん」
そのまま出ていくと思っていた轟くんに不意に言われて、上擦った声が出る。
「緑谷に、色々言われて」
「うん」
「そんで、忘れてた大事なもんとか思い出して、気づいたら火ィつけてた」
「…うん、全部見てた」
ぽつり、ぽつりと左手を見つめながら話す彼。迷いがまだ少しだけ見え隠れしてるその顔は、ここ最近の顔とは違って随分穏やかだった。雰囲気もやわらかい。あの日の放課後みたいだ、こっちの方がいい。
轟くんはあの戦いでちゃんと進めたんだなと事情を知ってる身としては嬉しい。だがその反面焦りも出てくる。
私も前に進まなきゃ、置いてかれる。そんなことを考え下がった視界に、突き刺さる視線。顔を上げると思ったより近い位置に彼の顔があってびっくりした。いや顔がいいな。
「翠蒼が何に悩んでんのかなんとなく分かるけど、お前なら大丈夫だろ」
「え?」
「それに、俺に先に勝つって言ったのお前だろ?」
そう言ってドアに向かう彼の後ろ姿をみて、立ち上がる。何か言わなきゃと思った。座っていたいすが大きく音を立てて倒れる。
「私、次も、その次も勝って絶対決勝に行くから!轟くんと戦って、全力を出せるように!」
「…ああ」
それだけ返して出ていく彼が見えなくなって、パチンと頬を叩く。
羨んで上を見てるだけじゃダメだ、置いてかれると思うなら追いつくために走れ。私も前に進むんだ。
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