体育祭:Rising
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フィールドに入ると、わああああっと歓声に包まれる。ここに立つと迷いも不安も少し和らいで勝ちたい、という気持ちの方が強くなった気がした。朝の緊張はもうない。今は勝つことだけを考えられてる。
『"溶かす"芦戸三奈VS"凍らす"翠蒼心!正しく矛と盾対決!軍配はどっちに上がるかああ!?んじゃ、レディーファイ!』
ヌルッとかかったスタートと同時に、地面に手をついてそこから振り上げるように手を挙げて氷壁を作り出す。轟くん程じゃないけどそこそこ大きいのでた。多分溶かされるけどそれでいい。次のことを考える時間をつくるだけ。
「あたしらの個性、相性めっちゃいいよね!」
「私的には最悪だよ!」
予想通り氷の中から出てきて、足の速い三奈は一気に距離を詰めてこようとする。今度は水で押してまた距離をとった。当たらない攻撃だけど、近距離よりはマシ。あの酸をぶっかけられたらアウトだ。
ひたすら避け続けながら策を練る。凍らせれば溶かされるし、水での攻撃は身体能力の高い三奈ならほとんど避ける。ダウン狙いはほとんど無理だろう、ならばやることは1つ。
『翠蒼!最初に溶かされた氷壁をまた作り出した!なんだァ、もう策なしかァ!!?』
「んなわけ、あるかっつーの!」
フィールドを真っ二つに割るように、それでもって三奈なら"超えられる"高さで氷壁をつくる。案の定高く飛んで飛び越えてきた。
ギリギリ足が着くぐらいの位置で、丸い水球を投げつけすっぽり中に入ったと同時に三奈を凍らせる。氷玉の完成だ。
「ごめんね!ちょっと回るよっ!」
溶かされる前にそれを更に水で押すと、ゴロゴロと勢いよくまわってくれた。それをみてようやく息を吐いた。
「芦戸さん場外!よって、1回戦進出は翠蒼さん!」
よかった、勝ててと嬉しさと安心感から頬が緩むのを感じる。氷に閉じ込めた三奈は既に溶かして出てきていた。再びフィールドに戻ってきて、手を差し出してくれる。
その手を握ると、力強く痛いほど握りしめられた。
「めっちゃ悔しい!だから、負けたら許さないよ!」
「…うん、絶対この先も勝つよ」
悔しそうなのに笑う三奈に、なんだか泣きそうになったけど私も笑う。会場中から大きな拍手が送られて少し照れくさくなった。2人でフィールドからでて、通路を歩く。どうでもいい話も沢山しながら歩いていると不意に三奈が足を止める。
「心が相手で良かった!だからさ、私の分まで戦ってきてよ。応援してるから!」
「……三奈」
「なーんで勝った方がそんな顔してんの!ほら、笑って?」
「うん…うん」
さっきよりも悔しさを全面に出して言う三奈。なんて言えばいいのか分からなくて、やっぱり泣きそうになった私の頬をぐいーーっと引っ張られた。きっと凄く変だろうけど、笑ってみせると抱きつかれる。
ちょっぴり濡れたお互いの肩は、2人だけの秘密だ。
*
「お!おつかれ!凄かったな〜2人とも!」
「ありがとありがと、お、切島くんお隣よろしくて?」
「おう!いいぞ!」
2人で観客席に戻るとクラスメイト達が色んな声をかけてくれた。それに答えつつ空いていた席を探すと切島くんのお隣。お邪魔させてもらうことにする。
フィールドでは飯田くんと、なんだよく知らない子。聞けばサポート科の子らしいのだが
「なんだあれ、めっちゃ面白いけどやばい」
「ちょっと前に始まったんだけどよーずっとあんな調子なんだよ」
全く勝つ気のない様子で、自身が作ったであろう作品達を紹介していく彼女。既視感を感じだと思えばあれだ、ショッピングチャンネルの商品紹介するお姉さんだ。まじで面白い。
ただちょっと飯田くんは生真面目だから巻き込まれたんだろうな、どんまいと心の中で慰めておく。この様子だと次の相手は飯田くんなのに全くもって参考にならない。
「おい、水タイプ」
「なんだい少年」
「俺とやる時はUSJぐらい本気で殺る気で来いよ」
「……それなら、次の飯田くんにまず勝たなきゃだねぇ」
切島くんが試合の為に立って少しした後、突然前に座っていた爆豪くんが私の方を振り返って言う。赤い目が真っ直ぐに、けれど静かに向けられて思わず体が固まる。今の私にとって"本気"は地雷ワードだ。
適当に返すと、何か言いたげな顔をして一瞬見られたかと思えばすぐにそれは前を向く。興味をなくしたか、はたまた呆れたか。でも今はそれに助けられたと思って私もフィールドへと視線を戻した。
*
ポンポンとハイテンポに試合は進んでいき、いよいよ1回戦最終試合。お茶子VS爆豪くんだ。
「うわあ、俺超心配…」
「麗日大丈夫かなあ」
「なにいってんの、お茶子だってヒーロー志望。女の子はいつの時代も強いんだぞ!」
隣の上鳴くんと瀬呂くんが不安そうな顔でフィールドを見つめるが、お茶子はそんなにか弱い女の子じゃないと思う。個性が発現したこの時代、男尊女卑なんて成り立たない。ヒーローを目指す子ならなおさらだ。女の子はやるときゃやるんだ。
フィールドでは、お茶子が爆豪くんに速攻をしかけてた。爆豪くんは爆破させて応戦。爆風でたった煙の中から、個性を巧く使いつつ不意打ちの奇襲を仕掛けるけど、それすらも交わされる。
「見てから動いてる…!?」
「あの反応速度なら煙幕はもう関係ねぇな…触れなきゃ発動出来ねぇ麗日の“個性”。あの反射神経にはちょっと分が悪いぞ」
「すごい…」
何度も何度も突っ込んでいくお茶子。その度に迎撃する爆豪くん。やけを起こしてるように見えなくもないけど、何か策があってのことだろう。じゃなきゃこんなことしない。だからこそ爆豪くんも本気で迎え撃ってる。
でもその様子に1部の観客、あれは恐らくプロヒーロー達の席からブーイングが飛び始める。なんだあれ、何を見てるんだ。馬鹿だ。
『今遊んでるっつったのプロか?何年目だ?シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ。帰って転職サイトでも見てろ。』
しんっと消太さんの声でブーイングが止む。解説席の方を見ようと見上げると、その理由が分かった。消太さん、気づいてるな。
『ここまで上がってきた相手の力を認めているから警戒してんだろう。本気で勝とうとしてるからこそ手加減も油断も出来ねえんだろうが』
その瞬間"それ"が__お茶子の浮かしていた瓦礫が爆豪くんに降り注ぐ。今までの突撃はこのための策、でも爆豪くんは一瞬でそれを吹き飛ばしてしまった。お茶子は爆風によって吹き飛ばされるけど、向かっていく。だがその手は届かなかった。
「キャパオーバー、か…」
立ち上がれず、リカバリーガールに運ばれていくお茶子を見送ってから立ち上がる。それを見た瀬呂くんが私に声をかけた。
「次轟なのにいいのか?」
「うん、精神統一したいし」
「ほーん…ま、頑張れよ」
「せんきゅー!頑張るわー」
何か言いたげな瀬呂くん、どうしたのか。まあいっか。手を振ってくれるクラスメイト達に応えて観客席をたった。
次の試合はきっとみんなと一緒に平常心で見られる自信が無い。でもすごく価値のある試合になる気がする。
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