体育祭:Rising
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「おかえり、もう始まるよ。1回戦」
「ただいまー。まじか、間に合って良かった〜」
斜め後ろに座った私に声をかけてくれた響香。私の顔を見てなんだか微妙な顔をしていたけど、何も言わずに前を向いた。その優しさがありがたい。多分今、いい顔はしてない。
気を取り直してグラウンドに目を向ける。1回戦は緑谷くんVS普通科の心操くん?とやら。どんな個性を使ってくるのかは分からないけれど、少なくともここまで普通科でありながら残ったんだ。何かしら特殊な個性があるはず。
『レディィィィイ!スタート!!!』
「何てこと言うんだ!!!」
はじまりの合図とともに大声で心操くんに向かって叫んだと思えば、止まった緑谷くん。前の席の尾白くんが「ああ緑谷折角忠告したってのに!」と叫んでいる。
「尾白くん、あの心操くん?の個性知ってるの?」
「ああ……あいつの個性は"洗脳"。それで個性の解除条件は何かしらの衝撃を与えられることだから……」
「1VS1のこれじゃ、詰みじゃん…」
なんて初見殺しの個性だ。というかこんないい個性なのに埋もれてるなんて勿体ない。消太さんが「あの入試は合理性に欠ける」と言っていたのに少し納得する。対人に特化したこの個性はあの入試じゃ突破できない。それでもここに来たってことは、きっと諦めきれなかったから。
緑谷くんはあと一歩で外、というとこまで来た。でも彼はやっぱりそこで終わるような人じゃなかった。突如として指が個性を発動、どういう仕組み分からないけど洗脳を自力で解いたのだ。
「なんで個性使えたんだろう…」
「根性とか気合いとか?」
「あんたってたまに脳筋だね…」
尾白くんの疑問に思ったことを呟けば、響香が呆れたような顔でこっちをみてた。叩き込まれた体育会系根性の結果です。
再び意識をグラウンドに向ける。緑谷くんが向かい合っていた。心操くんは緑谷くんにまた個性を仕掛けようと煽る。でも、ただ煽るだけじゃない。一つ一つの言葉が、心の叫びのように聞こえた。いや、きっとそうだ。
「誂向きの"個性"に生まれて、望む場所に行ける奴らにはよ!!!」
取っ組み合う2人。決着は一瞬だった。
「緑谷くん、2回戦進出!!」
退場していく心操くん、緑谷くんに拍手が送られる。いつの間にか止まっていた息を吐いて椅子に深く腰かけた。
セメントス先生が作ったフィールドへの被害はほぼなかったのですぐに2回戦。轟くんVS瀬呂くんの初めて見るコンビの対決。
瀬呂くんは果たしてどんな攻撃を仕掛けるのか、と思えばいきなり奇襲……したと思えば、次の瞬間にはとんでもない大きさの氷が作られていた。もちろん動けるはずもなく、勝負は一瞬で、轟くんの勝ちが決定した。
あっという間の結末に自然と湧き上がるどんまいコール。でも私はそれ以上に、轟くんの背中が気になった。表情は分からないけれど背中が悲しく見えたのだ。
「…よし、そろそろ行こうかな」
「お、もう少しか。頑張れよ」
「ありがと、砂糖くん!」
隣の席の砂糖くんにお礼を言って、下の控え室へと向かう。階段を降りて、フィールドに繋がる通路のところで人影が見えた。近づくとすぐに誰か分かる。
「お疲れ様、轟くん」
「…翠蒼か」
いつもより数倍冷たい声。根は優しいのはわかってるから話しかけたけど、それでも少しだけ怖いと思ってしまった。でもそんな私の様子なんて気にもしないだろう。多分、今の彼の頭の中は緑谷くんを倒すことだけしか考えていない。
それがちょっぴり悲しい、というよりも見てもらえないことが寂しかった。
「控え室、行かなくていいのか」
「うん。行くよ、ごめんね引き止めて」
「いや…」
遠くから3試合目の決着が着いたアナウンスが聞こえる。そろそろ行かねば。人のことを気にしてる余裕なんて私には無い、集中しなければ。
「勝ちたい、勝てる。大丈夫」
控え室に、自分の声がよく響いた。
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