体育祭:Rising
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トーナメントのくじ引きをして、控え室までの道を歩く。外の方からはレクリエーションが始まった音がする。遠くの歓声がやけに楽しげで、それが重く感じるのは緊張からか。
女子達は折角チアの格好をしているからとグラウンドに残って応援するらしい。私は少しだけ1人になりたくて遠慮させてもらった。百やお茶子の表情が少し硬かったのは気になったけど、私も人のことをいえたもんじゃないだろう。
「ぬ」
「あ」
下を向いて歩いていたので、やけにでかい影がみえて思わず上を向くと燃えるような髭をまとった大きな人。
プロヒーローのエンデヴァーさんだ。
「…お久しぶりです、翠蒼です。翠蒼心」
「名乗らんくても分かる。……あいつらの個性、使い方がなってないな。あれでは焦凍の下位互換だ」
昔たった一度だけ会ったことがあるだけのはずなのに、嫌に体が縮こまるのは少しのトラウマからか。なんでこんなに怖いと思ったのか、未だに思っているのかわかった気がする。
多分、この目だ。ただただ見下ろし、威圧感しか感じられない目。それは轟くんと似ているようで、違う。
でも怖いということは、今言われてることは事実でしかないからでもある。お父さんもお母さんも立派で、すごく強い個性だった。
それ以上にできることの幅が広がって、私に受け継がれているはずなのにそう思われるのは、ただ私が弱いから。もう体育祭の決勝前までで、いやってほど思い知らされてる。
「やはり俺が引き取るべきだったか」
「…お言葉ですが、私はあの人の元にいることを後悔なんてしたことありません。今の私の現状は、私自身の問題。あの人のせいでもなんでもないですし、私の家族も師もあの人以外有り得ません」
カチン、と血が上る。
私のせいで消太さんがどうのこうの言われる筋合いはない。1度言い返すと、不思議と体の硬さはなくなっていた。
「…今更どうこうするつもりはない。だが、焦凍はお前もお前の両親も、師も越えてNo.1になる義務がある」
「両親はもうこの世に存在しません。義務だなんて押し付けて必要は轟くんにはないですよ」
負けてたまるかとじっと彼の目を見つめる。するとふいに緩んで、威圧感が少し消えた。なんだろう、気が抜けたような感じと言った方が正しいか。
それに拍子抜けして、開けそうになる口を必死に閉じる。
「あいつに……翠蒼に、その目はそっくりだな」
「…お母さん?」
どこが似ていたのだろう。でも声まで昔を振り返るような優しさが混じった声に聞こえてくるので、苛立ちがふっと消えていく。
エンデヴァーさんは私の問いかけには答えずただくるっと背を向けて歩いてきた方へ帰っていった。その姿が完全に消えてから、廊下の壁によっかかってズルズルと座り込む。冷えた壁が頭も冷やしていく。
「じゃあ、どうすればいいの……」
もう大事な人達を怪我させたくない。だからできる範囲でコントロールしてきた。なのに個性を使い切れてないなんて言われて、そんなの私が1番わかってる。
……ああもう、だめだ。これ以上考えたら動けなくなってしまう。私は今できる最前を尽くせばいいだけ、暴走させて怪我をさせるのは負けるよりも最悪だ。ならば今できることをやる方がいい。
「頑張れって、言ってくんないかなあ」
どうしようもなく消太さんに会いたくなって、誰もいない廊下に響いた。こんなとこ見られたらあの人は「戦う気がないならやめてしまえ」って言うんだろうな。
それでも、今は背中を押して欲しい。
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