体育祭:Rising
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試合の日だったり、大事な日だったりの朝は空気がいい。吸うと特別な気分になって胸が独特の音を立てていく。その緊張感は心地よくもある。だけどそれは適度であってこそ。適度じゃなかったらどうなるか?簡単です。
「消太さん、吐きそう…」
「お前まだ朝の6時だぞ。体育祭まであと3時間あるんだぞ」
極度の緊張は吐き気をもたらす。さっきまで走ってた時は大丈夫だったのに。腹痛がないだけマシなのか。
中学の部活の大会の度にこうなってたから消太さんは見慣れたもんだ。心配なんてせずため息をつくだけ。いやまあ今更心配されても怖いけど酷くないか??だいたい将来がかかってるわけですよ、緊張せずにいられる人いるの??
「だからじゃん!!!!!!!3時間しか!ない!!!!」
「よし、そんだけ元気なら吐いても1人で片付けできるな。俺は準備があるから行く」
「酷い!いってらっしゃい!!!」
相澤家の朝は今日も元気です。
*
いつもより少し早く出て、校舎内を散歩してみたり飴ちゃんをなめたりして少しでも緊張をほぐそうとする。今日は教室じゃなくて競技場の控え室で待機だ。いやー競技場が3つ並んでるのみた時はさすがにびっくりした。雄英すげぇ。
「よ!翠蒼、はよ!」
「おはよー瀬呂くん」
「翠蒼なんか顔色悪ぃ?」
「いやー緊張してて」
控え室に入るとドアの近くにいた瀬呂くんが声をかけてくれた。隣が空いてたのでそのまま座らせてもらう。割ともうみんな集まっていて、それぞれ思い思いの過ごし方をしている。端の方に轟くんも一人でいた。
ここ数日の轟くんは傍から見てもピリピリしてて中々話しかけずらかった。前に話してくれた目標を達成するためには確かにこの体育祭が1番手っ取り早い舞台だ。多くの人、プロヒーローが見に来るなら当然エンデヴァーさんも来るだろうしね。だからその様子の理由は分かるんだけど、気にならない訳でもない。
「…轟に熱い視線送ってどしたん?」
「ああ、いや…個性似てるからさ。個人的に負けたくないなって思って」
「あーねーてっきりLOVEの方かと思ったわ」
「そんなわけないでしょ」
「緑谷」
瀬呂くんと話してると少し緊張を忘れられた。クラスの全員が集まってきて、そろそろ入場かなと思い始めた頃。賑やかな控え室がぴしゃり、と水を打ったように静まり返る。
そしてその原因となる2人__緑谷くんと轟くんに視線が集まる。
「客観的にみても実力は俺のほうが上だと思う」
「へ!?うっ、うん…」
「おまえオールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねぇが…おまえには勝つぞ」
突然の、それもクラストップの実力をもつ轟くんから未だその力が分からない緑谷くんへの宣戦布告。訳の分からない組み合わせに全員が驚く。
オールマイトに…ああ、と合点が少しいってしまった私は驚いたものの理由がわかった気がした。そして今の轟くんには多分緑谷くんしか見えてないことが分かる。オールマイトに似た個性を持つ彼を倒すことが、まずは否定するための第1歩って考えなんだろう。
その事に、私のことなんて視界に入ってないことに、胸がちりっと痛んだけど今はそんなことどうでもいい。
あまりにも重く沈んだ空気に、近くにいた切島くんが声をかけるも「仲良しごっこじゃねぇんだ、なんだっていいだろ」と返す轟くんにますます重くなる。まして緑谷くんが自分を卑下するような言葉を並べるから尚更だ。
どうして緑谷くんは、あんな強力な個性を。それこそオールマイトに匹敵するような超パワーの個性を持っているのにあんなに自信が無さげなんだろう。もっと、爆豪くんまではいかなくても、こう、誇っても良さそうなのに。なんでここまで控えめな性格なんだろうか。
「緑谷もそーゆーネガティブな事言わねぇほうが…」
「でも…!!皆…他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって、遅れを取るわけにはいかないんだ」
……前言撤回。自信なさげ、控え目だなんて嘘だ。彼はやる時は迷いなくやる。最初のヒーロー基礎学の時も、委員長決めの時も、USJの時だって迷いがなかった。強い意志を持って行動していた。どこが控え目なんだろうか。
伏せていた顔を上げて、先程までとは打って変わって力強く真っ直ぐに轟くんを見つめた緑谷くん。
「僕も本気で獲りにいく!!」
「…おお」
重かった控え室の空気が変わったのを肌で感じる。みんな緑谷くんに焚き付けられた様に燃えている。ああ、凄いなと思ってしまった私はまだ、彼のように覚悟が足らなかった。気を引き締めろ。約束したんだろ、と言い聞かす。
勝ちに行くんだ、最高のヒーローになるために。
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