体育祭:Rising
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轟くんは、私の手を少し握り返して、さっきまでの声と違う。今までよりも少しだけ柔らかい声でポツリと呟いた。
「翠蒼の手は、ちっせぇな。俺と違って、柔らかい。あとちょっと冷たい」
「あはは、個性が水だからね。手だけ冷え性なんだ」
そう言うとポカポカと握られた右手が温かくなる。個性を使って温めてくれてるんだ。やっぱり、やさしい男の子だ。
「温めてくれてありがとう。優しいねー轟くんは」
「そうか?」
「うん。マスコミが来た時も助けてくれたし!」
打ち明け話をしたからか、なんだか距離が近くなったみたいで嬉しい。物理的じゃなくて心の距離が。
そのまま、学校の話になって色々授業の事とかも話している内にとんでもないことを思い出す。私、男の子の、手を遠慮なく握ってしまった……!!それも話してる間中ずっと!いや何してんの!!!
1度意識してしまえば冷静でいられない。多分今きっと顔赤い。慌てて手を離せば不思議な顔をされた。きみ、まじで天然だな!!!
「どうかしたか?」
「え、あ、いや…ごめん、手、ずっと握ってた」
「ああ…別に嫌じゃなかった。冷たくて気持ちよかったし」
「うん、分かったからちょっともうそれ以上手の感想はやめて貰えませんか…」
「?おー」
この天然くんほんとやだ…と熱くなった頬を冷ますために顔に手を当てる。他意はないの分かってるけどイケメンくんの顔面であんなこと言われたら照れるに決まってる。無理だ。当の本人は全く分かってないけどね!
「そろそろ帰ろっか」
「ああ」
思っていたよりも遅くなってしまった。今日の夜ご飯は簡単なオムライスかな、消太さんの退院祝いのご馳走はまた今度にしよう。そもそも手が使えないから不便だろうし。轟くんもどうやら電車通学のようで、2人で駅まで歩く。
「なあ、そういえば俺とアイツが似てないってお前言ってたよな。会ったことあるのか?」
「うん。すっごく昔だけど」
実は私はエンデヴァーさんに引き取られそうになったことがあるのだ。そのとき、少しだけ怖かったのを覚えている。
今だからできる推測だけど、私と轟くんを個性婚させたかったのかもしれない。それか、単純に育てようとしてたか。どちらにせよ意図はわからない。
当時の朧気な記憶でも、とてつもなく怖かったのは覚えてる。
「…なんか、言われたのか」
「ん?んーん。なんにも言われてないよ。小さい頃だったからあんまり覚えてないし」
「そうなのか」
「うん」
だから、優しさを感じられる轟くんとは繋がらなかった。とはいえ流石に息子にそれを言うのはない。だいたい私はちゃんとエンデヴァーさんのこと知らないのだ。それなのに記憶だけで言うのは失礼だ。
そういえばふと気になって聞いてみた。
「どうして話してくれたの?」
「……なんでだろうな?」
「いや私に聞かれても」
こてんと首を傾げる姿は非常に様になってる。だけどごめんね、それは私がいちばんわからないから聞いた。ああほんと授業中とかと雰囲気が違いすぎる。言葉ゆっくり探す轟くんは世にいうギャップ男子と言うやつなのだろうか。
そして彼は数秒悩んだ末に、今までで1番穏やかな顔で真っ直ぐ見つめて言った。
「まあ、翠蒼なら良いかと思った」
ポカン、と思わず夕日に照らされたその顔を見つめる。うわぁイケメンだ、となんとも語彙力のない感想が浮かんでようやく言葉の意味を理解。同時に熱くなる頬を感じて恥ずかしくなる。ああ、イケメンはずるい!
「…個性、似てるもんね」
「そうだな。それもあるかも知れねぇ」
「うん。似てなかったら、きっとこんなに話してないよ」
「…そうかもな」
ふっと笑った表情はまた初めて見るもの。嬉しくなって笑い返した。2人並んで歩く。歩幅を合わせてくれているだろう彼の隣に並んで。
やっぱり轟くんは優しいヒーローだ。
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