体育祭:Rising
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今どき小学生でも個性ちゃんとコントロール出来てるのに、こんなんじゃヒーローになれないよね。……私の師匠はね、きっとそう言って私のこと怒るよ。それでもってその怒る師匠のことを、私は心の底から尊敬してるの。
今はたった一人だけど、大事な大事な私の家族でもあって、私のヒーローなんだ。
……ああ、そういえばまだひとつ質問に答えてなかった。なんで氷使ってるのか、ってね。
実はお恥ずかしい話、私ね三態操作の個性に気づいたのほんと最近なんだよ。まあ最近っていっても中1だったかなあ。
最初の方で分子運動を操作できるって話したじゃん?その特性かな、変化させたい分子のつくりをわかってなきゃ出来ないみたいなの。例えば水なら水素原子と酸素原子から出来てる、とかね。
小学生とかが分子のつくりなんて習うわけなく、中学校で鉛筆は炭素から出来てます!って聞いたあとにたまたまそれが溶けたの!それもあとかたもなく、と思いきや煙を残して。
そこから私的にプチパニック。消太さんに半泣きで相談したら、どうもお父さんの個性に似てるってことで病院に連れてってくれて、テストしてみたらビンゴ。
お父さんの個性は"停止"っていう分子運動を止める個性。そんなこんなで私の個性はそれを受け継いで、分子運動を操作できる三態操作っていう個性じゃないかって判明。
じゃあ私の個性は元々なんだって思われてたかと言うと、氷結と水って思われてたの。なんでも左から水出して、右から氷だしたらしくね。
ここでなんで氷出せたか、って言うのは今と変わらない原理だったんだけど。
ただ水の分子なんて知らない小さい私が氷を作れた理由は多分、お母さんの個性の影響だろうってさ。お母さんは"氷結"の個性だったんだって。そのおかげか、水の分子のつくりを知らなくてもいきなり氷が出せたんだろうって。
だからね、めちゃくちゃ氷は扱い慣れてる上に自分が水を出すより攻撃力上げれるから使っちゃってるの。強いヒーローになるためには、もっと色んな使い方しなきゃだからこれから修行かな!
*
「すごく長くなっちゃったね。ごめんね、聞いてくれてありがとう!」
「いや…だからマイク先生とかミッドナイト先生とかと仲良いのか」
「そうそう!消太さん繋がりで、私のこと小さい時から知ってるよ〜!」
要領の得ない私の話を、最後までただ聞いてくれた轟くん。
彼は左手を見つめていてその表情は分からない。…そういえば、初めて話した時に彼は戦闘で左は使わないと言っていた。きっと色々あるんだろう、と思っていた。
でもまさかその色々を聞いてくれるか、とは言われると思わなかった。
「…いいの?」
「お前には、話したいって思った」
「……わかった。ありがとう」
頷くと轟くんは、見つめていた左手から視線を言葉を探し始める。私はただ、彼の話の始まりを待った。
「俺の父親は、No.2ヒーローのエンデヴァーだ」
「え!そうなの!?」
「…知らなかったのか」
「いや、似てないから…」
「俺と親父が?」
「うん」
まあいい、となんだか微妙な顔をしたあとに話し始めた轟くん。けれどそこからの話は壮絶、だなんて陳腐な言葉で表されるものじゃなかった。
個性婚で産まれて、オールマイトを超える為に育てられたこと。お母さんが耐えきれなくなった結果、轟くんの左側に煮え湯を浴びせ火傷したこと。彼の目標はお母さんの個性、つまり右側だけで1番になって、エンデヴァーさんを否定する。そのために雄英にいること。ヒーローになる為じゃない、それは酷く悲しかった。
「話してくれてありがとう」
「いや…」
いまいましげに左手を見つめている。きっと、私なんかじゃ推し量れない思いが左手に込められている。
でも、余計なお世話かもしれないけれど、憎しみだけに囚われてたらそれは、きっと悲しくて、苦しい。私はその苦しさを、辛さを、よく知ってる。それだけはわかる。
「私は、轟くんの左手も好きだよ。右手はすっごい綺麗な氷をつくるけど、左はとってもあったかい。私はこの手に助けられた」
私よりもずっと大きくて、とっても温かいその手を握った。
あの時溺れそうになった。また1人になるのか不安になって、遺された氷に縋り付きたくなった。
寒くて、辛くて、1度人の温もりを知った私は怖くなった。
けれど上がり方が分からなくて、溺れそうになったそこから救い上げてくれたのは紛れもなくこの手なんだ。
「あの時氷だらけの世界から、引っ張り出してくれた。優しくて、温かい、ヒーローの手だ」
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